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94 レオンガルドでの生活


 秋斗がレオンガルドに到着してから1週間。

 フリッツ王達による王国統一宣言による計画と併せて、秋斗の魔道具改革にグレンの軍事改革の3つの計画を同時進行させるべく会議続きの1週間であった。

 

 朝起きて会議、昼食って会議、夕方まで会議。夜は初対面の王族を紹介する為の宴に始まり、今後計画に関わる貴族達の紹介パーティーに連日参加。

 

 また、別の日はオリビアから婚約の話を聞かされたセリオが大号泣しながら「娘の実力を測る!」と言い出して模擬戦を開始。秋斗も当事者なので会議の合間に観戦。つい力が入りすぎたセリオは訓練場を派手にぶっ壊してイネスからビンタを食らう。

 そんなイベントが終了した後は再び朝から夕方まで会議。たまに気分転換で外へ出れば住民に見つかって大混乱。


 当然ながら会議で構ってもらえない婚約者達の激しいスキンシップは毎晩のように行われ、最後は婚約者達に搾り取られる。

 

 そんな怒涛の1週間を乗り越えた秋斗とグレンは疲れ果てていた。特に週後半、秋斗の疲労感は朝食時に顔を合わせたグレンが見てもギョッとする程であった。

 3人の相手はヤバイ、と目の下に濃い隈を作りながら水を飲むように、男の強い味方であるビンビン草ドリンクを飲んでいる様はグレンに多くの事を考えさせる。

 

 美女に囲まれた生活とは男の夢であろう。だがそれは幸せなのか、不幸せなのか。ハーレムメンバーを平等に愛すという事は大変なんだな、と。私は1人で良い、と強く意志を固めるグレンであった。



「あ"ー……」


 友人へ身をもって男の教訓を教えた偉大なる賢者は、レオンガルド王城に用意された客室のソファーに寝転びながら疲労の篭った呻き声を上げる。

 肌をツヤツヤさせた愛する婚約者達がハナコを連れて街へ買い物に出て行った今こそ体を癒す時だ、と朝からダラダラしているのだ。


「コーヒーのご用意ができました」


 秋斗の他に部屋にいるのは秋斗専属メイドとしてエルフニアよりルクス王とやって来たエルフのアレクサ。彼女はエルフニアに滞在していた時と同じくベストなタイミングでコーヒーを用意してくれる。


「ああ、ありがとう……」


 ズズズ、と新たに手に入れたガートゥナ産のコーヒーを味わっていると部屋のドアがノックされた。

 メイドであるアレクサが対応しにドアへ。


「秋斗様。エリザベス様が訪問されて来ましたが、いかがなさいますか?」


「お~。入ってもらって~」


 随分と懐かしく感じる相手の訪問に、秋斗は相変わらずダラリとしながら答える。


「ハァ~イ、アキト~。げんき……じゃなさそうネン」


「おい~す……」


 エリザベスは秋斗の目の下にある濃い隈と来る途中であった婚約者達のツヤテカ肌で、ここ最近何があったのかを全て察する。


「3人相手に頑張ってるのねェ」


「へへへ……」


 エリザベスの労いに秋斗は力無く笑いながら応えるのみであった。


「エルフニア以来だが、元気だったか?」


「ええン。こっちに戻って来てからはアキトに教えてもらった洋服作りに夢中だったわン。んもぉ~! すんごい沸いちゃってェン!」


 エリザベスはレオンガルドにある自分の店に戻って以来、エルフニア王城で秋斗に教えてもらった賢者時代の洋服を作って作って作りまくっていた。


 作った作品は片っ端から売れて大儲け。秋斗がレオンガルドにやって来たのでお礼を言いに来たのが今回の訪問理由であった。

 因みに、秋斗がレオンガルドに到着してから1週間後の今日に礼を言いに来たのは重要会議があるという事でエリザベスなりに気を使ったからだ。

 秋斗がこんな様になっているとは予想できなかったが。


「でねン。ここに来る前に姫様達に会ったのよン。そしたら水遊びに行くって言うじゃないン? 水遊びの時に使うミズギとかいうのを作ってくれって言われてン。その件も聞きに来たのよ~ン」


 来る途中に出会った婚約者達と立ち話をした際、そろそろ夏になるので水遊びをする予定だという話題になった。

 そして、婚約者達へ秋斗が教えていた水着の話へと発展したようで作って欲しいと依頼されたと言う。


(それでアキトをムンムンさせる~って話は言わない方が良さそうねン……)


 予め水着とは露出度が高いというのを秋斗より聞いていたリリ達の恐るべき計画をエリザベスは聞かされていたが、今話しては秋斗の精神力が耐えられ無さそうだったので黙っている事にした。


「ああ~。水着ね。ちょっと待ってくれ」


 秋斗はエリザベスの話を聞くと目の前のテーブル上にあった紙と羽ペンを手に取って、いつもエリザベスに説明する時と同じように絵を描き始める。

 紙には数種類の水着デザインを描き、1つずつどのような物なのかを補足しながら説明。


 描いた絵は男性用女性用の水着であるが、男性用はトランクスタイプの物だけだ。ブーメランタイプも知っていたが流石に履かないし、履きたくないので省いた。

 女性用は秋斗の知るデザイン全てをエリザベスへ教えていく。


 お馴染みのビキニタイプ、超絶セクスィーなマイクロビキニ、どこかエロさを感じるぴっちり競泳タイプ、ワンピースタイプ、パレオ付き……など。

 自分で自分の首を絞めているにも拘らず、秋斗は思いつく全てのデザインを教えた。


「材質は水を弾く物かな」


「へぇ~。すんごい色々な物があったのねェ~」


 水着というだけでも様々なデザインが存在していた事にエリザベスは驚きながらも職人魂をくすぐられる思いであった。

 さらにここから柄や色、形を変えるなどして違いを出せる。売り出したら毎年夏は水遊びに出掛ける人が増えそうだ、と金の匂いも感じ取っていた。


「というか、水着って存在しないのか」


「そうねン。大体水遊びするのは子供だけだし、子供の時は全裸か下着を履いたままって感じねン」


「そうなんだ」


 水着が存在しないので、大人になってから子供時代のように全裸で水遊びというのは羞恥心もあってか行う者はいないという。海や川近い街に住む住人が魚を取る時などは服を着たまま水に浸かるので、大人が外で水に浸かる = 服を着たままという認識が強い。


 ただ、現代の夏もやはり暑い日が続くので水着が住民に浸透すれば涼しくなれる水遊びは定番化しそうだとエリザベスは語る。


 現代の水遊び事情をエリザベスから聞いていると、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。

 先程と同じようにアレクサが対応すると次にやって来たのはイザーク夫婦であった。当然部屋に招き入れる。


「あれ、エリー?」


「ハァ~イ! イザーク様! ナディア様! ごきげんよう!」


「失礼致しますわ。エリー、秋斗様。ごきげんよう」


 イザークの隣に立つ女性は彼の妻でナディア。由緒正しきレオンガルド王国侯爵家の出身。

 長いクリーム色の髪をシニヨンヘアスタイルにアレンジしているお淑やかなお嬢様だ。歳は19歳でエルザの1つ上らしく、彼女とも仲が良い。

 レオンガルドにやって来た翌日のパーティーで挨拶され、イザークの妻というのもあって既に何度か話をしている仲だった。


「夫婦揃ってどうした?」


 イザークとナディアは秋斗とエリザベスの対面側のソファーへ腰を降ろす。


「仕事も会議も一旦落ち着きましたし、秋斗の今後の予定を聞きに来ました」


「私は付き添いですわ」


 イザークは用件を、ナディアはイザークの手を握りながらニコリと笑っている。

 

 実はこのナディアという女性。夫の事を超絶愛しているのだ。レオンガルドの王立学園でイザークに一目惚れし、彼の婚約者候補に挙がってからはあの手この手でアプローチし続けた結果結ばれたのだが……。


 その様は秋斗も既に知っていて、イザークから旅の途中で何度も嫁の事を聞いていた。

 イザークから聞いた代表的な話は、お付き合いが始まった初日に部屋に1日中監禁されて愛を囁かれたという話だ。

 

 いや~愛されちゃって~。とイザークは死んだ魚の目のような様で言っていたのは記憶に新しい。本人の2人ともが幸せなら何も言うまい、と無理矢理幸せな家庭だなーと感情と思考を納得させて聞かなかった事にした。

 そしてレオンガルドにイザークが帰って来て以降、片時も離れず一緒にいるのだ。

 

 秋斗が廊下の曲がり角で目撃した出来事――イザークに「私の事、愛していますか?」と濁った目で聞いている様は記憶から消したいが消えない強烈なナニカがあった。


「予定か。明日はグレンと大遺跡の調査だな。明後日はヨーゼフとの打ち合わせがあるが。何かあったか?」


 秋斗は一先ず直近の外せない用事だけ述べる。


「そうですか。もし良ければ、明後日以降に王都へ少しずつ顔出ししてみませんか? 以前の混乱も収まって王都の様子も落ち着きましたし、父も秋斗に王都を見てもらって感じた事を教えて欲しいそうなんです」


 連日行われていた会議の気分転換に貴族街から先にある職人街へ出た時は凄かった。

 秋斗を一目見ようと住民達が集まってしまい、レオンガルドへ商品を積んだ商会の馬車が通れないほどになってしまって大混乱。

 護衛騎士達が住民をガードしている間に王城へ戻るという、何とも言えない事態になった。


 あれ以来、秋斗は外に出るのは控えていた。

 

「外に出て大丈夫なのか?」


「ええ。住民も賢者教の方々が落ち着かせてくれましたから。秋斗もレオンガルドに住むのであれば、エルフニアの時と同じように少しずつ民にも慣れさせないとですしね」


 大興奮状態だった住民達を落ち着かせたのはエミルを筆頭とした賢者教の人達らしい。どのようにしたかは不明であるが、とにかく前のようにはならないとイザークは強く秋斗へ告げる。


 さらに、イザークの言う秋斗がレオンガルドに住むという発言。

 これは1年後に東側全王国統一後、現在のレオンガルド王都が首都となるためであった。

 統一後の国名がアークエル、秋斗の魔道具の研究所は大遺跡――魔法科学技術院の跡地に作られる予定で、国と一緒に魔法科学技術院というアークマスターの聖地を復活させようという事だ。

 

 それに伴い秋斗の住む屋敷は現在の王城エリアに新しく作られる予定で、当然の如くグレンの屋敷も作られる。

 折角屋敷を建てて住んでいるのに街へ出る度に騒がれてはよろしくない。その結果、秋斗が以前エルフニアで行ったように住民が賢者に慣れるよう姿を見せるという手法を取ることに王家は決めたようだ。


「わかった。まぁ観光もしたかったし、これから住む街だし、よく知っておきたいからな」


「では、決定ですね」


 イザークはニコリと爽やかな笑みを浮かべる。


 その後、エリザベスとナディアも交えて話をしているとナディアがテーブルの上にある紙に気付く。

 

「あら? これはなんです?」


「これは賢者時代にあった水着というモノなのよ~ン」


 エリザベスは秋斗に説明された水着の概念をナディアへ解説。


「水遊び……。貴方様も行きますか?」


 ナディアはエリザベスの解説を真剣に聞いた後でイザークへ問う。


「へ? ん~、どうだろう。 その時に時間が取れれば同行したいかな」


「そうですか。わかりましたわ」


 ナディアはイザークの返答に頷いた後、エリザベスへ自分用の水着も作ってもらうように依頼。


 秋斗とイザークは2人が水着のデザインで盛り上がるのを横目に、雑談しながらゆっくりとした休日を過ごした。



-----



 一方で秋斗ほど疲れていない、夜はぐっすり眠れるグレンは王城の庭から繋がっている騎士団訓練場へ赴き、訓練の様子を見学していた。

 

 新米騎士達は木剣を手に素振りと木製の案山子を相手に剣を振る練習。ベテラン騎士はベテラン同士で模擬戦を行っている。

 レオンガルド騎士団の中でも最上位に位置する近衛騎士達は彼らの指導。新米と近衛隊に所属していない騎士達の訓練が終わった後に専用訓練をこなすのだ。


 そんな訓練の様子をグレンは椅子に座りながら眺め、今後の方針を考えていた。


「グレン様。どうなさるおつもりですか?」


 グレンの隣で立って、質問を投げかけたのはエルフニア近衛騎士のジェシカ。


 彼女はソフィア付きの騎士なのでレオンガルドに滞在しているのだが、現在はレオンガルドの近衛騎士が街に出掛けたソフィア達を護衛している。


 レオンガルド国内でレオンガルドの騎士を差し置いてジェシカが護衛に付くというのは『相手国を信用していない』と無礼に当たるのが東側での常識とされている。逆に他国の王族を全力で守るのがホスト側の礼儀だ。

 

 そんな理由からソフィアと共にエルフニアから来たは良いが暇を持て余してしまっていたジェシカは、ソフィアの命令でグレンの秘書的な立場を任命されていた。


「手間を掛けさせて心苦しいが……私が求める人材の詳細を王達に伝えて、各国の騎士団から推薦させるしかないだろうな。現代は人だけに限らず異種族という様々な技能に秀でた者がいるし、私はまだ全てを把握していないから選抜は任せるしかない」


 グレンの考える軍事改革に含まれる人材育成だが、各国の騎士団をまとめて教導するのは人手も時間も足りない。

 そこで、秋斗の技術改革と同様にまずは少数で構成された特殊部隊を作る事にした。いくつかの部隊をグレンが訓練し、彼らが更に別の人材を教育する。

 

 一気に全てを作り上げ、結果を出すのは不可能だ。故に、グレンも秋斗も改革の基礎作りから始めている。


「どのような部隊を?」


「そうだな。まずは敵国へ秘密裏に潜入して情報を集める情報部隊。集めた情報を基に素早く攻撃・占拠・救出を行える実働部隊。実働部隊を目的地まで運ぶのを専門とした支援部隊。この3つは必ず必要だ」


 グレンの考える3つの部隊の仮想作戦は西側に囚われて奴隷となった東側住人の救出作戦だ。

 帝国に潜入して奴隷達の情報を集め、各地に囚われている奴隷を素早く救出し、救出した者と実働部隊を東側まで安全に運ぶ。


 この3つのプロセスをクリアする部隊から作り上げよう、というのがグレンの最初の取り組み。

 敵側に味方の人質がいないのであれば帝国領など更地に変えても良し、というのがグレンと秋斗の認識であった。


「うーん。西側に潜入する部隊は人族で構成しないとですね。向こうは人族以外はいませんし。実働部隊はグレン様の想定する動きを可能にできる人でしょうし……。支援部隊はケンタウロス族ですか?」


「まぁ概ねその通りになりそうだが、支援部隊はケンタウロス族だけ、という訳ではないな。向こうの土地をケンタウロス族が駆けていたら目立つだろう。私の考える人の輸送に関しては秋斗の研究成果と連携しないとだろうな」


 流石にケンタウロス族が走っていたら西の住人に目撃されて、向こうの軍に報告される可能性が高い。

 では、グレンの考える実働部隊の輸送は迅速かつ敵に察知されない隠密性の高い移動手段とは。


 現段階で理想を語れば『空輸』を想定している。もしくはマナカーのような陸を高速で走れて、相手に追いつかれる心配の無い移動車両による運搬だ。

 秋斗に頼めば用意してくれるだろうが、用意してもそれを操作できる人員の教育もある。


 グレンの考える順番としては、まずは戦争にも投入できる実働部隊を1番最初に。実働部隊と同時進行、もしくは次の段階で情報部隊。支援部隊は用意する物の製作時間も掛かるので最後だろう。


「実働部隊は最低でも来年の春には動かせるようにしたい。欲を言えば情報部隊も来年までに形にしたいな」


 その後、グレンは現代で使われている剣や槍など武器や防具類をジェシカに解説してもらいながら特殊部隊以外、現騎士団の新戦術なども考案するべく必要な情報を調べていった。


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