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第9章《最後の晩餐?》

  いらっしゃいませ。


  今日の物語は四人の冒険者のお話だよ。


  いくら極限状況でも私はアレは食べられないなー。

 

  ん? 何のことだって? 気になるなら最後まで読んでみて。


 ☆☆☆☆


 暗闇に包まれた部屋の中心で、突如灯りが灯りました。


  それは、焚き火の火です。


  部屋にいるのはフルプレートの騎士に、ローブで全身を覆い隠した魔法使い。立派な髭を生やしたドワーフ。そして紅一点の女エルフのの4人です。


  彼女達は冒険者です。冒険者とは主にダンジョンに潜り、そこにある財宝を持ち帰って生計を立てている人達のことですね。


  四人のパーティは、ダンジョンに潜ってこの部屋を見つけ、小休止をとることに決めたのです。


  焚き火を囲むように座って間も無く、誰か一人の腹の虫が鳴き声をあげます。


  つられるように残りの三人のお腹も一斉に鳴き始めました。

 

  それもそのはず、四人はろくに休憩も取らず飲まず食わず。それが三日も続いていたのです。


「ねえ。ご飯作りましょうよ」


  口を開いたのはエルフです。


「だが食べ物などないぞ」


  ドワーフの言う通り、持ってきた食料は既に底をつきました。


「……周りにたくさんあるわよ」


「何! アレを食べるのか!」


  たとえ腐った物を食べても、痛くも痒くも無い鉄の胃袋を持つドワーフでさえ、その提案は驚愕に値するものでした。


「今は、躊躇っている場合じゃないわ。ここから出て目的を果たすには、まず体力をつけないと」


「それは、そうじゃが……」


  エルフの決意に満ちた表情にドワーフは何も言えなくなってしまいました。


「この提案に誰か文句ある?」


  エルフは、まずフルプレートの騎士を見ますが、無口な彼は首を縦に振るだけ。


「あなたは?」


  エルフは魔法使いに問いかけます。


「俺ハ、何ノ問題モナイ」


「そう、良かった。あなたが一番反対するかと思っていたのだけれど」


「ソンナ事ハナイ。一度食ベタ事ガアルガ、案外イケルゾ」


「……そうであってほしいわね」


  最後にエルフはドワーフの方を見ます。


「あなたはどうするの?食べるの食べないの?」


「儂は食べん! そんなものを食べるくらいなら、酒で腹の虫を騙すとするわい!」


  ドワーフは大きな身体をしていながら、まるで子供のように駄々をこねて背中を向けてしまいました。


「分かった。じゃあ私たち三人で食べるわ。準備しましょう。私達二人で食材の調達」


「心得タ」


  エルフの問いかけに魔法使いは頷きます。


「調理はあなたに任せるわ」


  無口な騎士は、頷くと鍋とフライパンを取り出しました。


「美味しく作ってよね……」


  その切実な願いは、ドワーフを除く全員が共有するものでした。


  エルフと魔法使いが調達した食材は肉でした。


  今しがた取ってきたばかりだからか、血の滴る綺麗な赤身のお肉です。


  無口な騎士は、それを受け取ると慣れた手つきで下ごしらえをしていきます。


  塩胡椒をつけた肉を、油の引いたフライパンで熱し、沸騰させた鍋の中にはぶつ切りにした肉となけなしの野菜。そして残っていた香辛料を入れて煮込みます。


  肉が焼ける香ばしい香りが辺りに漂い、自分たちが置かれている状況も忘れて、お腹がぐうぐうと鳴き喚きます。


  そして料理が完成しました。


  ジュウジュウと音を立てるステーキと、肉と野菜の煮込みが、三人の取り皿に運ばれます。


  お腹が空いているとは言え、最初エルフは口に運ぶのを躊躇っていました。


  それを見兼ねたのか、無口な騎士が自前のナイフで切り分けたお肉を、器用に兜をつけたまま一口。


  パクリ。モグモグッ、ゴクン!


「どう?」


  騎士は頷くと親指を立てます。


  それを見て、エルフは顔を綻ばせて、自分の口に皿に乗った肉を運んで行きます。


  因みに魔法使いはそんな二人を尻目に既に半分ほど食べ終えていました。


  まずはステーキから。切り分けるとレアで焼かれた中は綺麗な赤色で、いつも見る醜悪な姿からは想像できないほどの鮮やかさ。


  それを口に入れると、柔らかくて油の乗ったそれは口の中でとろけていくよう。


「……っは〜〜。美味しい……」


  それは、エルフの心からの感想でした。


  三人は、それから無言で肉を切り分け、噛みちぎり咀嚼し飲み込んでいきます。


  「クソー……もう我慢できん! 儂にも分けてくれ!」


  仲間たちが食べているのを見て我慢できなくなったのか、ドワーフが駆け寄ってきました。


  無口な騎士は煮込みを皿に取り、ドワーフに渡します。


「はぐっ……」


  ドワーフは飲み込むのが嫌なのか、しばらくの間ずっと肉を噛んでいましたが、やがてゴクリと飲み込みました。


  両目から涙が溢れていました。


「くそっ。うまいのう。奴らの肉など絶対食うもんかと思ってあったが、身体が、美味いと言って欲しておるわい」


  四人はそれからも夢中で食べ続けます。部屋の外から扉を激しく叩かれても無視です。


  扉の大きさは、人が十人横並びでも余裕で倒れるほどです。


  いつもなら誰にも分けないドワーフが、残しておいた最後の酒をみんなに振舞います。


  四人ともさらに上機嫌。エルフなんか顔を真っ赤にして、森に伝わる踊りを初披露してしまうほど。


  さらに扉が激しく叩かれますが、気にすることなく四人は大いに騒いで飲んで食べ尽くしました。


「「「「ごちそうさまでした」」」」


  四人の声が重なります。綺麗に料理を平らげ、酒を飲み干した四人の顔はとても満足気でした。


  扉は激しく叩かれ続け今にも壊れそう。


  四人は今初めて気づいたのか、ゆっくりと扉の方を見ました。


「みんな。お客さんが待ちきれなくなってるみたい。そろそろ行きましょうか?」


  エルフの言葉に三人は頷くと、立ち上がりそれぞれの得物を握りしめます。


 無口な騎士は、魔法をコーティングした長剣とカイトシールドを、


 フードをとって戦闘態勢に入ったオークの魔法使いは、ある魔法使いから奪ったという杖に魔力を注ぎ込み、


  ドワーフは「よっこいしょ」と、おじいさんのような声を出して、彼にしか引けない剛弓を構え、これまた大きな矢を番えます。


  そして、パーティのリーダーであるエルフが、今にも壊れそうな魔法で守護されている扉の前に立ちました。


  彼女の手には、風の精霊の力を纏った長柄の斧が握られています。


「みんな。行くよ! (あいつ)の首を持って王国に凱旋しよう!」


「「「おおっ!」」」


  その言葉が合図となったのか扉が吹き飛び、巨大な白い竜が炎を吐こうと口を開きます。


  四人は逃げようとも避けようともせず、雄叫びを上げながら得物を構えて竜に突進して行きました。


  その後、彼らがどうなったのか知るものはいませんしどこにも記録は残っていません。


  けれど、死んだ証拠もどこにもないので、これが最後の晩餐かどうかは本人たちしか知らないこと。もしかしたら今もどこかで冒険をしているのかもしれませんね。


  えっ、彼らは何の肉を食べていたのかって?


  それはですね。その部屋に居座っていたオークの肉ですよ。


  結構いけるそうなので、今度機会があったら食べて見ては如何でしょうか?


  えっいらない? そりゃ残念。


  でも人間。極限状態になったらなんでも食えるものですよ。


  そう、何でもね。


 ――完―― 

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