第8集《サカサ言葉》
未開拓惑星U―2010で、一人のイカ型生命体が10本の腕を組んで途方に暮れていました。
彼等は高度な文明を持った宇宙人で、様々な惑星を開拓していく種族です。
今回も、1つの未開拓惑星の調査のために、彼は一人でやって来たのですが、そこで不幸な事故が起こってしまったのです。
ワープ中にトラブルに遭遇、宇宙船は操舵不能に陥ってしまいました。
何とか態勢を立て直すも、船は惑星の重力の網に捕まり、そのまま星の大地へ真っ逆さま。
宇宙船が不時着したのは深いジャングルの中でした。
不幸中の幸いか腕一本と欠けてなかったのですが、用意していた食料や修理のための機材が全ておじゃん。
その為宇宙船も直せません。
「とりあえず、ここにいてもしょうがない。言葉が通じる生命体がいないか探してみよう」
イカ型宇宙人は服も着ずに――彼らは皆とても頑丈な皮膚を持っている為ですーー二本の腕で唯一無事だった翻訳機を持つと、八本の足でジャングルの奥へ歩き始めました。
しかし奥へ進めば進むほど、言葉が通じる生命体は一つもおらず、現れるのは凶暴な生物ばかり。
恐竜型の生物に追い回され、巨大な蜘蛛型生物に糸で拘束され、何とか無事に逃げ出したと思ったら、食虫植物ならぬ食烏賊植物が口を大きく開けて待ち構えていたのです。
「おい! 私を食べても上手くないぞ! そうだ。足の一本をやろう。それで勘弁してくれないか」
本音は腕の一本もやりたくはありません。
イカ型宇宙人は、十本の腕全てを使って、食烏賊生物の大きな口を必死に抑えますが、ジリジリと口がしまっていきます。
このままでは食われる。と思ったその時、突然食烏賊生物は動きを止めました。
イカ型宇宙人はこのチャンスを逃すものかと、その口からすごい勢いで抜け出します。
「ふう〜〜助かった。なんでこいつは動かなくなったんだ? おや?」
突然動かなくなった食烏賊生物の背後から、新たな生命体が現れました。
それはピンクの髪に褐色の肌をもつ地球人型の原住民だったのです。
外見から推測するに十代前半の少女のようで、服も何も来ておらず全裸で、じっとイカ型宇宙人を見つめています。
イカ型宇宙人は、この生命体なら言葉が通じるかもと思い、翻訳機を通じて話しかけました。
何故なら、彼等の種族は地球人とも交流があるからです。
「君はこの星に住んでいるのかい。私は事故でこの星に落ちてしまってね。できれば助けてくれないだろうか?」
彼が話しても、少女は何も言わずにじっとこちらを見つめ続けています。
まさかとは思いましたが、もう一度話しかけてみました。
「私が何言っているか分からない……のか?」
少女は何も言いません。どうやら、イカ型宇宙人の不安は的中してしまったようです。
何とか、助けてもらおうと、十本の腕を使って身振り手振りで、こちらの意思を伝えます。
イカ型宇宙人も必死です。
この一時間たらずで、様々な生物に食われそうになって、やっと話しが通じる生命体と会えたと思ったら言葉が通じない。
(諦めるものか!)
すると、伝わったのか少女が満面の笑みを浮かべます。
「ヨルアガケイニチッコ」
「んん?」
少女は何かを言いましたが、高度な知能を持つイカ型宇宙人でも、チンプンカンプン。
翻訳機も理解できなかったようで、煙を上げて壊れてしまいました。
「ヨダチッコ」
少女は、混乱するイカ型宇宙人の腕を掴むとジャングルの奥へ連れていきます。
「うわっ、ちょっと待ってくれ。結構力強いんだな君は、ちょっと力を緩めてくれると助かるんだが……って通じてないか」
子供のような見た目からは想像もできない力で、どんどんと進んでいくと、そこには池がありました。
「ルメノズミデココヨダケイハココ」
少女はニコニコと楽しそうに、イカ型宇宙人の背中を押します。
「おお、池だ。これはありがたい――ってなぜ押すんだ――わぷっ」
大きな水飛沫を上げながらイカ型宇宙人は池の中へ落とされました。
「こら何するん……」
水面に浮かぶと、少女はこちらを指差しとても楽しそうに笑っていました。
「全く、何がおかしいんだか」
その笑顔を見ていると、イカ型宇宙人は怒る気も失せてしまいました。
池の水は冷たく、長いこと歩き詰めだった身体を心地よく癒していきます。
ある程度回復したイカ型宇宙人は、少女がこちらを興味深そうに見ていることに気づきました。
「何をじっと見ているんだ君は?」
「イクトハギヨオネノルイテシタガスイロシモオモテトタナア」
(相変わらず何言っているか分からない)
イカ型宇宙人は、二本の腕で頭ならぬお腹を抱えます。
(このまま、意思疎通できないまま終わりか)
そう思っていると、少女が思いっきり飛び込んで来ました。
水飛沫を勢いよくかぶったイカ型宇宙人を見て、少女はまた大笑い。
「私は今悩んでいるんだぞ。この!」
イカ型宇宙人は十本の腕全てを使ってお返し。
少女はそれを避けるように潜ってしまいました。
「それで逃げられると思ってるみたいだが、甘いぞ!」
潜った少女を追いかけて、イカ型宇宙人も水の中へ。
追っかけて来たイカを見て少女は素早く逃げます。
その速さは人間離れしていて、追いつける人は中々いないでしょう。
しかし、こちらはイカ型宇宙人。泳ぐのだって得意なのです。
頭とその上にある外套膜の隙間から、水を吸い込み、噴出口から勢いよく水を吹き出しました。
まるでロケットのような見た目通りの速さで、少女を一瞬にして追い抜きます。
びっくりして目を見開く少女の周囲で、イカは噴出口から水を吹き出しながら、泳ぎ回ります。
少女は笑顔でイカ型宇宙人に拍手を送っていました。
「ふふふ。どうだ? 私の方が泳ぎはうまいのだぞ」
調子に乗ったイカ型宇宙人が通じるわけないのについ口を開くと、少女も口を開きます。
「アナタ、オヨギトッテモ、ウマイノネ!」
「何! 今なんて言ったんだ?」
慌てて泳ぐのをやめて少女に問い詰めます。
「アナタ、オヨギ、トッテモウマイ。 ワタシ。ビックリ!」
どうやら聞き間違いではないようです。イカ型宇宙人でも理解できる言葉を喋っているではありませんか。
さらにこちらの言葉も通じているようです。
「一体何故?」
考えていると、少女が慌てたように水面に上がっていきます。
どうやら息が切れたようです。イカ型宇宙人もすぐに後を追いました。
「大丈夫か?」
陸に上がったイカ型宇宙人は少女に声をかけます
「ネノルレグモクガナクゴスタナアブウョジイダハシタワ」
また言葉が分からなくなってしまいました。
「うん? 何でさっき言葉を理解できたんだ? 水の中で何があった……」
イカ型宇宙人は、十本の腕を組んで考え込み、ある考えに思い至りました。
ぐるんと、彼は体の上下を入れ替えて少女に話しかけます。
「アナタ、ナニシテルノ?」
「うん。君の言葉が分かるようになる方法だよ。私の言葉もこの状態なら分かるんじゃないか?」
「ウン! ナンデ? ワタシノコトバガワカルノ?」
「やっとこれで君と話ができるよ何簡単な事さ……」
イカ型宇宙人は、目の前の少女とコミニュケーションが取れるようになって、ほっと胸をなでおろします。
その解決法は至極簡単なものでした。
イカ型宇宙人は今まで、頭を下に胴体を上にして、少女と話していたのですが、それを上下逆、つまり逆さまになることによって少女と意思疎通を図ることに成功したのでした。
こうして、頭を上にしたイカ型宇宙人と少女は、救助が来るまで、力を合わせてその星で生き抜きましたとさ。
――完――