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第7集《異世界からやって来た殺し屋》

  足を切られ血を流したエルフが身体を引きずるように逃げていた。


  足の傷はかなり深いようで彼女が通った後は、赤く濡れた線が引かれていく。


「ああっ、くそっ!」


  エルフが壁を思いっきり殴りつけた。そこは行き止まりになっていたのだ。


  後ろから複数の足音が近づいて来るのを、彼女のピンと尖った耳が捉えた。


  振り向いて音のする方を見ると、案の定そこには複数の人影が現れる。


  それは醜悪の一言だった。黒と緑の絵の具を混ぜたような皮膚を持ち、口からは長い牙が生え、腹は餓鬼のように膨らんでいる。


  オークだ。それも7匹いてうずくまるエルフを取り囲む。


「来るな……」


  怪我をしたエルフは、なけなしの殺気をこめて睨みつけるが、オーク達はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべるだけ。


  14の黄色い目が一斉に彼女に視線を送る。まるでエルフの綺麗な金の髪や、白い滑らかな肌を視姦しているようだった。


「メス。モウニゲナイノカ?」


「「ツマラナイ。モウオワリツマラナイ!」」


  オーク達は聞き取りづらい言葉遣いで、エルフを嘲笑する。


  何か言い返そうとしても、傷の痛みと、今の自分がどうやっても勝ち目がないことを痛感して、一言も言葉にならない。


  オークの一匹が近づいて手を伸ばす。エルフはそれに捕まったら、自分も仲間と同じ言葉にするのも躊躇われるような酷い目にあうのは確実。


  だが逃げようとしても身体は、地面に縫い付けられたように動かない。


  その時、突然目の前に光が溢れた。


「きゃっ!」


「「ウワッ!」」


  エルフもオーク達も揃って悲鳴をあげ、慌てて目を庇う。


「今のは……えっ?」


  目を開けたエルフの前に見慣れない格好をした一人の男性がいた。


  歳は30代くらいだろうか、闇夜のような黒いマントのようなものを羽織っている。


 その男が辺りを見回し、まずオーク、そしてエルフを見て目を大きく見開いた。


「おいおいおいおい。本当に俺は異世界に転移したのかよ。ははは。マジか!」


  闇夜のマントを着た男は顔に手を当てて大笑い。


  その男の背後から回復したオークが、武器を持って襲いかかります。


「危なーー」


  エルフが警告を発する前に、男は素早く振り返ると、右手で懐から鉄の筒のようなものを取り出し、オークの頭にピタリと狙いをつけ人差し指を動かしました。


  瞬間七回轟音が耳をつんざき、閃光がエルフの視界を白く染め上げます。


「きゃああああっ!」


  生まれて初めての体験に、エルフは耳を手で抑え、目を閉じて悲鳴をあげてしまいました。


「……い。おい。エルフのお嬢さん。聞こえるか?」


  洞窟内は静まり返り、エルフの耳に聞こえてきたのは自分を呼ぶ声だけです。


「聞こえてるか?」


「は、はい。聞こえています!」


  見ると、鉄の筒を持った男が自分を心配げに見下ろしていました。


「良かった鼓膜は破れてないみたいだな」


「あの、オーク達は?」


「ああ、やっぱりオークか。あいつらなら」


  男が指をさした方を見ると、7匹のオークは全員頭が破裂し、そこから大量の血が流れていました。


  どう見ても死んでいます。


「あなたは一体何者なんですか? もしかして伝説に伝わる勇者?」


「俺が勇者? 違うよお嬢さん。俺は勇者とは真逆の職業《殺し屋》だよ」


  男はそう言って、少年のような笑顔を見せるのでした。


――完――


 




 


 

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