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第4集 《子モグラは空に憧れ、母モグラは息子の無事を願う》

  ある大陸に、2つの国がありました。


  1つは貧しくて、平地がほとんどなく険しい山脈だらけの、万年雲に覆われた北の国。


  もう1つが太陽の恵みを浴び、緑豊かで資源豊富な南の国です。


  この2つの国は、覚えている人が誰もいないほど、遥か昔から戦争状態が続いていました。


  資源の少ない北の国が、資源を求めて侵攻を繰り返していたからです。


  その度に、南の国は開発した空中戦艦で撃退してきました。


  そして、今から数百年前に停戦が成立し、2つの国は平和な時代に突入したのです。


  南の国の人々は皆、地下都市に住んでいます。


 理由は豊かな資源と環境を守る為に、人間が地上に出ることを禁止されているから。


  地上にいるのは、ほんの僅かな選ばれた人しかいません。


  その地下都市にとても仲のいい親子がいました。


「ただいま。おかあさん!」


「おかえりなさい」


  母と10歳の息子は、いつもどんな時でも一緒です。

  周りから見たら、まるで離れたら二人とも死んでしまうのではないかと心配してしまうほどです。


「そういえば、おかあさん。僕の父さんはどこにいるの?」


  ある日、学校から帰ってきた少年が、母にこう尋ねました。


「どうしたの? 学校で何かあったの?」


  少年は学校で友達に『なぜお前のとうちゃんはいないんだ』と、言われたと、母に話しました。


「だから僕の父さんはどこにいるの? ねえ教えてよ。おかあさん」


  母は少し考えてから少年の質問に答えます。


「ぼうやは、お空に何があるか知ってる?」


  母は天井(そら)を指さします


「うん知ってるよ。僕達を守ってくれる《くうちゅうせんかん》のことでしょ」


  空中戦艦とは、南の国の上空に10隻配置されている防衛兵器のことです。


  その戦艦達は、北の国の侵攻を幾度も防いできた守護神です。


  子供達はもちろん、少年にとっても、その船の乗員になる事は憧れでありました。


「実は、お父さんは、空中戦艦の乗組員だったのよ」


「本当に! 本当に僕の父さんは《くうちゅうせんかん》に乗ってたの!」


「ええ。お父さんは空中戦艦に乗ってるから、お家には帰ってこれないの。けれどいつも私たちを守ってくれるのよ」


「そうなんだ。明日みんなに自慢しなくち「。僕の父さんは《くうちゅうせんかん》の乗組員なんだぞって」


  母は少年の頭を優しく撫でます。


「そうね。じゃあ明日はお寝坊しないように早く寝ないと」


「うん!」


  少年は家の天井を見上げます。いつか自分も空中戦艦に乗る事を夢見て。


 ☆☆☆☆


「母さん行ってきます」


  少年は母に敬礼。


  15歳の彼は念願の空中戦艦の乗組員になったのです。


  しかし母は喜んでくれませんでした。


「お願い。今からでも辞退する事は出来ないの? 戦争になったらどうするの。お母さんは離れ離れになりたくない。貴方に死んでほしくないの」


「母さん。まるでもう会えないみたいな言い方は大袈裟ですよ。大丈夫。戦争は終わっているんです。実戦なんて起きませんよ」


「違うわ。停戦よ、終戦ではないの。この平和は永遠ではないのよ」


  母は、少年を必死に引きとめようとしましたが、それは全て徒労に終わってしまいます。


「もう行きます。お元気で、着いたらメール送りますから」


  結局母の想いは届かず、少年は空中戦艦に向かい、15年間住んでいた家から出て行ってしまいました。


 ☆☆☆☆


  それから3年が経ちました。18歳になった少年は、空中戦艦で乗組員として活動しています。


  そこでいろいろな事がありました。

 

  父は少年が幼い頃に病気で亡くなっていた事。


 空中戦艦で出会った少女と恋人同士になった事。


  そして、つい先日、空中戦艦の主砲砲手に任命されたのです。


  そんな充実した毎日を過ごす内に、段々と少年と母は疎遠になっていました。


  最初送っていたメールも、1週間に一回が1ヶ月に一回、半年が一回。


  今はもうメールを送る事はしていません。

 

  少年が砲手に任命されて3日後の事でした。


  突然艦内に警報が鳴り響きます。


『北の国の侵攻を確認。全乗員は戦闘態勢を取れ。これは訓練ではない。繰り返す……』


  少年と少女はその放送を聞いて飛び起きると急いで服を着て、配置につきます。


  最初は何かの間違いだろうと思っていたのですが、艦内のモニターに映る物を見てその考えが変わりました。


  侵略者は、北の国を長い間覆っていた雲を割って、姿を表しました。


  それはとてつもないほど巨大な……キノコの形をしています。


  北の国の雲の中で、数百年間製造されていたキノコ型要塞がついに完成し、南の国に宣戦布告したのです。


  南の国はすぐさま防衛態勢に入ります。10隻の空中戦艦が一斉に戦闘態勢をとりました。


  南の国を守る空中戦艦の形は、横倒ししたタケノコによく似ています。


  全長は1キロ。内部には高級ホテルのような居住空間があり、船体には百を超えるレーザ副砲と対地対空に使えるマルチミサイル。


  そして少年が砲手を務める船首に搭載された主砲(プラズマビーム)


  タケノコ型戦艦10隻は、まず副砲を斉射。


  1万のレーザーがキノコ型要塞に命中しましたが、それは全て青いバリアに阻まれてしまいます。


  次にマルチミサイルを撃ちますが、それも全て防がれてしまいました。


  しかし、これは時間稼ぎにすぎません。


  その間にプラズマビームのチャージを完了させていたのです。


  少年は艦長の発射命令を受けて、トリガーを引きました。


  放たれたプラズマビームの威力は絶大です。1つのビームで都市1つが消滅します。

 

  その10のビームがキノコ型要塞のバリアに直撃。要塞は青い光に包まれました。


「やった!」


  少年はガッツポーズをとりましたが、モニターを見て愕然とします。


「う、嘘だろ?」


  キノコ型要塞は健在でした。傷どころか、バリアさえも破れていません。


  空中戦艦は諦めずに攻撃しようとしましたが、キノコ型要塞の反撃が始まってしまいます。


  要塞のバリアは全ての攻撃を無効、あるいは反射するというとても強力なバリアで、スペック上は、超新星爆発にも耐えられるそうです。


  そのパワーを発揮する装置が小型化できずに、キノコ型要塞はこんな大きさになり、完成まで数百年かかったのでした。


  放たれたプラズマビームは全て吸収され、威力そのままにタケノコ型戦艦に迫ります。


  10隻のタケノコ型戦艦はほぼ同時に自分が撃った主砲で爆砕。


  もちろん少年の乗った戦艦も、反射されたビームを喰らい、大爆発を起こしました。

 

  もうもうと黒煙を上げながら船首を下にして大地に落ちていきます。


  大地の下には少年の生まれ故郷がありました。


「そんな、駄目だ落ちるな。落ちたら、落ちたら母さんがいる街に――」


  とてつもない衝撃で、少年の身体が吹き飛び、そこで意識が途切れました。


 ☆☆☆☆


「う、うーん」


「目が覚めたのかしら」


  少年が目を開けると、そこにはとても懐かしい顔がありました。


「か、母さん! 大丈夫なの? 痛っ!」


  身体を起こそうとしましたが、全身は激痛が走り全く動きません。首さえも動かせず、辛うじて動くのは目と口だけのようです。


「動いちゃ駄目。貴方はひどい怪我をしているのよ」


  どうやら仰向けに寝かされているようで、後頭部にとても柔らかい感触を感じます。


「街はどうなったの? 僕の乗っている戦艦がこの街に落ちて……それにここは?」


  少年が動く目だけで周りを見ても、あたりは漆黒の闇に包まれ、ここがどこだか全くわかりません。


  ただ、母の姿だけがボンヤリと光り輝いています。


「そう、戦艦が落ちてきたのね。突然の事だったから私も何が何だか分からないの。

  気づいたらここにいて、倒れた貴方を見つけたのよ」


  少年の目から涙が溢れてきて、全然止まりません。


「ごめんなさい。僕が、僕がいけないんだ。ちゃんと敵を倒していれば、こんなことにならなかったのに、ごめんなさい。ごめんなさい母さん。

  あの時、ちゃんと母さんの言うことを聞いていれば……」


  母は優しく彼の涙を拭います。


「いいのよ。貴方は何も悪くないわ。それよりも貴方と再開できてよかった。この3年間で、こんなに大きくなったのね」

 

  優しく頭を撫でなられて、次第に少年の瞼がドンドン重くなっていきます。


「あらあら、眠くなっちゃったの?」


「うん。でも寝たくない。眠ったら母さんと離れ離れになってしまう気がするんだ。そんなの、そんなの嫌だよ!」


「大丈夫よお母さんは、ずうっと一緒にいますから、ね」


  少年は母の優しさに包まれながら、深い深い眠りにつきました。


 ☆☆☆☆


  それから数年後。侵略した北の国の軍人が地下都市の瓦礫を片付けていると、そこから、2体の人骨を発見します。


  その2つの骨は男女の物で、女性の方が男性を護るように寄り添っていました。


 ――完――

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