第20輪《ストレス解消》
ある日の晴れた午後。
人々が行き交う歩道に一人の女子高生が歩いています。
名前はミキ。紺のブレザーにチェックのスカート。黒く艶のあるロングヘアに、キリッとした目元には紫の瞳が輝いています。
いつもなら、その美しい容姿にすれ違った人は皆振り返るほど、しかし今は道行く人が彼女を避けていきます。
何故なら、大股でズンズンと歩き、眉を釣り上げたその表情はどう見ても怒っている様にしか見えないからです。
(あーイライラする。何よあんな言い方しなくたっていいじゃない!)
ミキは付き合っていた彼女に振られてしまったのです。
しかも一方的に、だから彼女は怒り、むしゃくしゃしていたのでした。
通行人が引いているのにも気づかずに、肩に下げたカバンからスマホを取り出すと、ある人物に電話をかけました。
2度ほどコールすると相手が出ます。
『もしもし』
相手は落ち着いた口調の女性の声でした。
「もしもし私。何か仕事はない?」
『おいおい。いきなりどうした。イライラした声を出して』
「実際イライラしてるの! で、仕事あるの?ないの?」
『何個かあるが、リクエストは?』
「悪い奴らに拉致された美少女を救う仕事、ない!」
『それは具体的すぎないか?』
「いいじゃない。美少女を助けたいの! 新しい美少女と出会いたいの!」
『またフラれたな』
「美少女助ける仕事ないの。無いなら切るわ」
『あーちょっと待て。お前に御誂え向きの仕事がある。まるでお前のための様な仕事だ』
「どんな仕事?」
ミキは仕事内容を聞きます。
『……という仕事内容だ』
「受けるわ」
ミキは即答しました。
電話を終えて、自分のマンションに戻ったミキは、すぐさま隠し部屋の扉を開けます。
中には古今東西新旧の拳銃、散弾銃、自動小銃が所狭しと整列していました。
勿論オモチャではありません。
全て本物の人を殺す道具です。
「今日はどれにしようかな……」
使う仕事道具を指をさして決めていきます。
「うん。コレに決定」
彼女が選んだのはタボールTS-12というセミオートショットガンです。
イスラエルのIWIが作り上げたこのショットガンにはある特徴があります。それは3本のチューブマガジンが内蔵されている事です。
1本のチューブに5発のショットシェルが入るので、合計15発が入るのです。
メインウェポンを選んだら、次はサイドウェポン。
「拳銃はコレにしよう」
ミキが手にとったのは、S&WのM&P9コンパクト。
名前の通りコンパクトで扱いやすいのですが、マガジンには口径9ミリの弾丸が17発入ります。
TS-12のチューブマガジンにショットシェルを込め、M&P9に弾が満載されたマガジンを差し込んで、スライドを引いて初弾を装填し安全装置をセット。
得物を選んだミキは、腰にマグポーチとホルスターが付いたベルトを腰に巻くと、予備マガジンとM&P9をセット。
TS-12をバッグの中に入れて背負うとマンションを後にしました。
その日の深夜。車が1台も通ってない道路に、3台の黒塗りの車がヘッドライトで闇夜を切り裂きながら走っていました。
中央はベンツで、その前後をクラウンが挟んでいます。まるでベンツを何者から守るかの様です。
その3台が今回のミキのターゲットです。
ミキはおもむろに物陰から出ると、3台の前方に立ちます。
車列は止まる気配はなく、ミキを轢き殺そうと迫ります。
「やっぱり悪人は容赦ないな。まあ、私も容赦しないけど!」
ミキは持っていたTS-12を構え、トリガーを引きました。
夜の静寂を打ち破る轟音が5回響き、無数の散弾が先頭のクラウンのフロントガラスに襲いかかります。
運転席と助手席にいた砕けた二人は、フロントガラスを浴びながら一瞬で蜂の巣になります。
撃たれた運転手が衝撃でブレーキを踏み、タイヤが軋みをあげながら車体はミキに触れる寸前で止まりました。
ミキは飛び上がって、ボンネットと屋根の上を歩きながら、トリガーガード内部にあるリリースボタンを押し、ロックの外れたチューブマガジンを回転。
回転し終えると同時に、自動的に薬室に新たな弾が装填され発射準備完了。
ミキが1台目の車を乗り越えると同時に、残り2台から男達がワラワラと出てきます。
(あそこに美少女がいるな)
ベンツを見て、そう推測したミキは、まず周りの雑魚から片付けることに決めました。
男達が銃をこちらに向けるより早くTS-12の銃口を敵に向けて撃ちます。
太い銃声が轟き、赤い空薬莢がアスファルトに落ちるたびに、男達の身体に複数の穴が空いて吹き飛んでいきます。
10発撃って弾の尽きたTS-12を捨てると、腰のホルスターからM&P9を構えます。
敵は3台目のクラウンに乗っていた4人。
ミキは素早く動いて敵の射線をかわしながら肉薄。
1人の腹と頭に銃弾を叩き込み、2人目の頭にも銃弾をお見舞いします。
3人目が銃を向けてきたので1人目を盾にします。
一瞬撃つのをためらった3人目の右手に銃弾を打ち込んで指ごと銃を吹き飛ばしてから、額に狙って引き金を引きました。
3人目が後頭部から血を流しながら倒れると同時に、4人目が撃ってきました。
ミキは姿勢を低くし、車を盾にしながら4人目に近づき、男の伸びた右腕に絡みつくと、体重をかけて投げ飛ばします。
背中を強打して動けない4人目のこめかみにM&P9を押し付けて引き金を引きました。
雑魚を片付けたミキはマグチェンジしてから、クラウンの後部座席へ。
「扉を開けないと死ぬよ?」
銃口でコンコンとスモークガラスを叩くと、扉が開いて中から、ブランド物のスーツが似合わないでっぷりと脂肪のついた男が現れました。
「あんたがボス?」
「そうだ。言っておくが、俺を殺したら――」
男の言葉は銃声で掻き消されました。
「喋るな。息が臭い。ってもう聞いてないか」
ミキは車内を覗き込みます。
(いたー!)
後部座席に座っていたのは白くて薄い服を着た腰までの長さの金髪を持つ美少女。
その少女のエメラルドの瞳がミキに向けられます。
美少女を見つけて喜ぶミキとは対照的に、その少女の瞳は恐怖の為か震えていました。
「おねーさん。誰ですか?」
「私? 私はそうね、貴女みたいな子を助ける正義の味方かな」
そう言ってミキは少女の頭を優しく撫でるのでした。
――おわり――