第2集《コロナバスターズ》
遥か昔から、人類は目に見えない敵に脅かされてきた。
その名はコロナ。
この見えない敵は人間の体を蝕み、最悪の場合死に至らしめるほどだ。
コロナを根絶する手段はない。
しかし、人類は諦めなかった。
長い長い研究の末に遂に対抗策を発見。
そして西暦4020年。人類の天敵コロナに対抗できる唯一の組織、コロナバスターズがここに誕生したのだ。
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「全員揃ってるな!」
「「イエス。マム!」」
赤髪の女隊長の声に部下の2人が応える。
1人は金髪、もう1人は強面の男性隊員だ。
「ブリーフィングを始めるぞ。今回現れたコロナはかなり凶暴で、既に数千人を苦しめている。うちの組織内でも何人かやられたのは知っているだろう」
女隊長の後方のスクリーンにグロテスクなコロナの姿と詳細な情報が表示されていく。
「私達ドラゴンチームの担当はゾーンE。ゾーンNはグリフィンチームが受け持つ。何か質問は?」
金髪のイケメン隊員が手を挙げた。
「何だ?」
「僕達の担当するコロナの数はどれくらいいるんですか?」
「いつもの通り無数だ。それを私達三人で倒す。他に質問は?」
2人の部下は無言を貫く。
「なら話は終わりだ。さっさと動け。あのクソ野郎どもを皆殺しにするぞ」
女隊長の女性とは思えないその言葉遣いにも部下の2人は何とも思っていない。
配属されて1ヶ月。毎日嫌という程聞いていれば自然と慣れてしまうものだった。
☆☆☆☆
三人はコックピットに潜り込む。
「こちら本部。ドラゴンチーム準備はいいですか?」
起動シークエンスを行いながら、女隊長が返答。
「こちらドラゴン1。準備完了」
隊長に続いて2人の部下も返事を返す。
「ドラゴン2。いつでもいけるぜ」
「ドラゴン3。問題なし」
補足するとドラゴン1が女隊長、ドラゴン2が金髪で、ドラゴン3が強面。
「了解。ドラゴンチームの健闘を祈ります。発進まで、カウント3……2……1……GO!」
オペレーターの合図で、ドラゴンチームの操る三機のアンチコロナマシンが発進した。
アンチコロナマシンコロナバスターとは。
人類の天敵であるコロナを殲滅することができる唯一の戦闘機だ。
白い清潔なボディは美しい流線型で、その大きさ、性能、搭載されている武装全てが唯一無二の存在である。
女隊長率いるドラゴンチームの三機のコロナバスターは、シリンジカタパルトから射出され、そのままゾーンEに到達。
既に、自動防衛機構が、戦っていの末に果てたのだろう、前方に多数の残骸が漂っている。
「ドラゴンリーダーから各機へ。残骸と衝突するなよ」
「ドラゴン2了解。こんなのにぶつかる俺じゃありませんよ」
「こちらドラゴン3。了解」
コロナバスターを扱えるパイロットは、とても少なく、数兆に達した人口の中でも、僅か数百人しかいない。
更にパイロットになれても、初戦で失敗しそのままクビになる者も多いのだ。
ドラゴンチームはガーディアンの残骸を難なく避けて、ゾーンEの更に奥へ。
「ドラゴンリーダー。こちら本部」
「こちらドラゴンリーダー。何か」
「ゾーンNでグリフィンチームがコロナと遭遇。戦闘を開始しています」
「了解。こちらも直ちに敵を発見して殲滅する」
オペレーターとの通信を終えて、しばらくした後、レーダーに反応。
白い光点が映る。
肉眼には何も映っていないが、レーダーに映ったということは間違いなく敵はいるということだ。
「ドラゴンリーダーより各機へ。レーダーに反応あり。そちらはどうだ?」
女隊長は一応故障でないか部下に確認する。
返ってきた答えは、2人とも同じ。
どちらも『レーダーに反応あり』だった。
「このまま、前進し、射程内に敵を収める。その後ロックオンして発射の後、即後退。分かってるな?」
「「了解」」
コロナが射程に入ったことを告げるアラームが鳴り、三機は足を止める。
相変わらずモニターには何も映らないが、レーダーは最初の時より光点が増え、文字通り上半分を埋め尽くしている。
コロナバスターの武装を起動。多重殲滅兵器、神々(サウザンド)の目が射程距離内のコロナをロックオンしていく。
神々(サウザンド)の目は一度に多数の敵を捕捉できるマルチロックオンレーザーだ。
ロックオン数は驚異の最大1000。
一機で1000体ロックオンできるので、ドラゴンチーム三機で3000体を捉えていた。
「ドラゴン2ロックオン完了」
「ドラゴン3完了」
「了解。撃て!」
女隊長の命令で、三人同時にトリガーボタンを押し込む。
コロナバスターから、一本の赤い線が伸び、少し進んでから一気に分裂。
まるで投網のように広がり、無防備なコロナの大群を飲み込む。
モニターに多数の光が生まれた。
「全弾命中! やったぜ」
「ドラゴン2。喜ぶのは早いぞ。まだ3000しか倒してない……来るぞ!」
ロックオンレーザーに捉らえられなかった残りのコロナが、ドラゴンチームを敵と認識して物凄い勢いで向かって来る。
その数はコロナバスター3機の数万、数十万、いやそれ以上だ。
「後退しながら、撃ち続けろ。追いつかれるな。そして絶対に一体も漏らすなよ!」
ドラゴンチームは後退しながら、神々(サウザンド)の目を発射。
幸いにもコロナは体当たりしか攻撃手段を持たないので、一方的な展開だ。
しかしそれも長くは続かない。例えロックオンレーザーで1000撃破しても、それ以上の数が追いかけて来る。
次第に追いつかれ、コロナ達が体当たりしてきた。
「回避。絶対に当たるな!」
ドラゴンチームはコロナの特攻を回避しながら、射撃続行。
次第に敵の数は減っていくが、たとえ最後の一体になっても、油断してはいけない。
避けきれずコロナバスターが破壊されれば、とてつもない被害が出るからだ。
その為に、確実に回避し攻撃できるパイロットしか、この任務は勤められない。
「敵が3000を切りました」
「了解。ドラゴン2、3。聞いた通りだ。この一撃で殲滅するぞ!」
「「了解!」」
オペレーターの報告に、女隊長は最後の攻撃を命じる。
三機のコロナバスターはロックオンレーザーを同時発射。
残っていた2999のコロナはこの世から消滅した。
「敵反応消失。ドラゴンチームお疲れ様でした。作戦完了です」
「グリフィンチームは?」
「ゾーンNも無事に作戦完了。一機の損失もありません」
「それは良かった。これよりドラゴンチームも帰還する」
三機のコロナバスターは任務を完遂し帰還する。
「ドラゴンリーダーより各機へ。2人ともよくやった。終わったらいっぱい奢るぞ」
「ありがとうございま〜す」
「ご馳走になります」
ドラゴンチームは見事にウィルスに侵されていたゾーンEつまり喉を救うことに成功。
こうして、コロナバスターズは風邪に苦しめられていた少年を1人救ったのだ。
だが彼らの戦いはどちらかが絶滅するまで終わらないだろう。
これは、世界で1番小さな、人類の生存をかけた戦いのほんの一部に過ぎないのだから。
――完――