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第19輪《放課後の他愛ない会話》

好きな映画の話を小説にしました。是非とも読んでいただければと思います。

  暖かな春の午後。眠くなるような陽気が高校を包み込んでいました。


  時間は放課後、運動部がグラウンドで練習している以外は、校舎の中はとても静かです。



  けれど全員の生徒が帰ったわけではありません。3階の教室の窓が開いているので誰か残っているようです。

 

  教室には2人の女子生徒がいました。他には誰もおらず2人きりのようです。


  教室には机が縦5列に並んでいて、2人は真ん中の列の2番目と3番目、ちょうど教室の中央にいました。


  机をくっつけた二人は、お互い向かい合っていて、机の上には、教科書やノートが開いてあり、どうやら勉強中のようです。


  二人のうち金髪の女子高生が「う〜んう〜ん」と唸ったかと思うと、具合でも悪いのか、突然机に突っ伏しました。


  でも、向かい側にいる黒髪の女子高生はまた始まった。と言わんばかりの呆れ顔で一瞥すると、すぐに教科書に目を落としてしまいました。


「ちょっとちょっと、なんかリアクションしてよ!」


  金髪ちゃんは黒髪さんに構ってもらいたかったようです。


「ちょっと無視しないでよ〜。まさか聞こえてないとか?」


「聞こえてる」


  黒髪さんが一言。その一言はかなり冷たい突き放すような言い方で、金髪ちゃん以外が聞けば、心に深い傷ができたかもしれません。


「そんな冷たい言い方しないで〜。少しはわたしの話聞いてよ〜」


 心配ご無用。どうやら金髪ちゃんの心は、黒髪ちゃんの鋭い刀の様な言葉では斬れないほど頑丈のようです。


  金髪ちゃんは子供のようにジタバタしながら、黒髪さんの気を引こうとします。


  観念したのか、黒髪さんが教科書に落としていた視線を金髪ちゃんに向けます。


「何?」


  その視線はまるで5・56ミリ口径の弾頭のように鋭いものでしたが、小さい頃から一緒にいる金髪ちゃんには全く効果がありません。


「怖いなー。そんな顔で睨まれたら誰だって逃げちゃうよ。もっと笑顔になろうよ。わたしみたいに」


  ここで金髪ちゃんは黒髪さんに満開のひまわりのような笑顔を向けます。


  「そんな顔見せるために私の時間を無駄にしたの?」

 

  しかし、黒髪さんの永久凍土に守られた心を溶かす事はできませんでした。


  これには、金髪ちゃんの心も凍り付いてしまったのか、シュンと眉が下がってしまいました。


  どうやら落ち込んでしまったようです。


「はあっ……分かった話聞いてあげるわ」


  深いため息をついた黒髪さんがそう言うと、金髪ちゃんに笑顔が戻ります。


「ホント!? やったー!」


  満面の笑顔は本心から嬉しそうです。黒髪さんは視線をそらします。


「……聞くには聞くけど、私勉強しながら聞くから」


「うん! それでいいよ!」


  視線を落とした黒髪さんの顔が、少し赤くなっているのに金髪ちゃんは気づきませんでした。


「最近面白い映画見つけたんだ。《ジョンウィック》って知ってる?」


  黒髪さんは教科書とノートに目を向けたまま相槌を打ちます。


「今その映画にハマっててさ。何度も繰り返し見てるんだ〜」


「ふーん」


「主演のキアヌリーブスの事は知ってはいたんだけど、ジョン・ウィック観てから大好きになっちゃった!

  アクションシーンで使われる《ガン・フー》がとってもスピーディで凄いんだよ!」


「……どんな話なの?」


  黒髪さんは視線を上げずに尋ねます。


(フフフ食いついてきたな)


  金髪ちゃんはそこで小さくニヤリ。黒髪さんが質問してきたと言う事は、興味を持った証拠だからです。


「えっとね。キアヌが演じる元殺し屋のジョン・ウィックが大事な飼い犬を殺されて、そのマフィアに復讐していく話だよ」


「それだけ聞くとどこでもありそうな話ね。復讐ものってありきたりじゃない」


  黒髪さんの興味がまた勉強にいってしまいそうなので、金髪ちゃんは慌てて興味を引こうと慌てますわ


「ま、まあ、シンプルで分かりやすいストーリーなんだよ」


  金髪ちゃんは瞼をくの字の様に閉じて両手をブンブンと振ります。


「この映画の1番の魅力はアクション。アクションなの!」


  ピクリと黒髪さんの身体が一瞬だけ動きました。


「キアヌ扮するジョン・ウィックは、銃と格闘技を組み合わせた《ガン・フー》でマフィア達をバッタバッタと倒していくの」


「銃と、格闘技?」


「うん。ブラジリアン柔術をベースにそこにハンドガンとか組み込んで、超接近戦で相手を華麗に倒していくんだ」


「銃は何が出てくるの?」


  いつの間にか黒髪さんの持つシャーペンの動きは止まっていました。その代わりに身体が小刻みにプルプルとしています。


  視線は下がったままですが、金髪ちゃんの話す映画が気になってしょうがない様です。


「ジョン・ウィックが使うのは口径9ミリのヘッケラーコッホP30L。反動を抑えるコンペンセイターが付いてるタイプにグロック26。更にはアサルトライフルやショットガンも出てくるんだよ。

  ショットガンは映画だとあんまり見かけないダブルチューブのKSG。ちゃんと空薬莢が下から飛び出てる所も見れるよ」


「HKのP30……いいチョイスね」


  黒髪さんの口角がほんの少し上がります。彼女はドイツ製の銃器に目がないのです。


「あと車もマスタングとか出ててそれを使ったアクションも《カー・フー》――」


「車はいいわ」


  金髪ちゃんは好きでも、黒髪さんは車に興味はありませんでした。


「それで、他にも銃は出るの?」


「うん。続編のチャプター2だと、カスタムされたグロック34にAR―15とベネリM4。この3つを使ったトンネルでのジョン対多数の殺し屋とのアクションがとってもカッコよくてオススメ!」


「……ふーん」


  黒髪さんはいつの間にかシャーペンを置いていました。完全に金髪ちゃんの話しに食いついてしまったのです。


「……ってる?」


「うん? なになに?」


「《リベリオン》って映画知ってる?」


  金髪ちゃんは口元に指を当てて考えますが、


「りべりおん? ごめん知らないや」


「それは勿体無い!」


  両拳を固めた黒髪さんが顔を上げます。その黒い瞳には炎が燃えている様に、金髪ちゃんには見えました。


「うわっ! どうしたの? 目が怖いよ」


「そんなことはどうでもいい。リベリオンを知らないのはアクション映画好きとして勿体無い!」


  黒髪さんは、今にも力を込めた拳を机に叩きつけそうな勢いですが、流石にそんなことはせずに自分の中の熱い思いを、口に出します。


「この映画に出てくるアクションは最高なのよ。《ガン=カタ》って聞いた事ない?」


  金髪ちゃんは迫力に押されて首を左右に振るばかり。その目尻からは今にも涙がこぼれそう。


「ごめん知らないや」


「じゃあ教えてあげる。素晴らしいガン=カタの魅力を!」


  黒髪さんは今までのクールな雰囲気から一変して、熱く語り始めます。


「主演のクリスチャンベイルが演じるクールな処刑人プリストンは、国家の反逆者達を倒していく。けれど同僚を処刑したことで、彼の心境に変化が訪れていくわ。

  ストーリーは実際に見てちょうだい。今はアクションの事を話すわ

  そこで使われるガン=カタは凄いのよ。体術と銃を組み合わせたそれは、たった一人で複数の敵を華麗に舞う様に倒すの。

  そしてプリストンが使う銃はベレッタを改造した《クラリックガン》! 」


  黒髪さんは椅子から立ち上がり、胸の前で硬く拳を握ります。


「おお〜」


  その堂々とした姿に金髪ちゃんは呆然。けれど黒髪さんはそれに気づきません。


「このクラリックガンが凄くかっこいいの。鋭角的なフォルムにグリップ底面から飛び出すスパイク、そして美しく十字形に広がるマズルフラッシュ。

  はぁ〜最高……」


  両手を組み、瞳を潤ませ頰が赤く染まった恍惚の表情をする黒髪さん。


  口からよだれが垂れていることに気づいてない様です。


  金髪ちゃんが口元を指さします。


  それで気づいたのでしょう。黒髪さんは慌てて口を拭うと、静かに席に着きました。


「ごめん。我を忘れてた」


  黒髪さんは顔を伏せますが、耳まで真っ赤です。


  暫く二人に会話はなく、開いた窓から部活中の生徒の掛け声だけが聞こえてきました。


  その沈黙を破ったのは金髪ちゃんです。


「そうだ。今日家に来ない?」


「え?」


「今日は私の家で映画見ようよ。わたしのオススメのジョン・ウィックと、あとリベリオン借りてさ」


  黒髪さんは顎に手を当てて考え込んでいる様です。


「駄目、かな?」


  金髪ちゃんは首を傾けて尋ねます。断られたらと思うと声も震えてしまいます。


「……そんな悲しそうな声出さないで。分かったわ。今日はお邪魔しようかしら。それとリベリオンのブルーレイ私の家にあるからそれを見ましょう」


「本当! ありがとう!」


  金髪ちゃんは黒髪さんの両手を掴んでブンブンと、手が引っこ抜けてしまいそうなほど激しく振ります。


「それと、浮かれてるところ悪いけど、映画見るには1つ条件があるわ」


「条件?」


「ええ。貴女の宿題(それ)が終わるまでは絶対見せないから」


「え、え?」


  金髪ちゃんは自分と黒髪さんの机の上を見比べます。


  黒髪さんは宿題をいつの間にか終わらしているのに、自分のは白紙のまま。


「大丈夫。私も手伝うから。早く終わらせましょう」


「ええーーー!!!」


  放課後の教室に金髪ちゃんの悲鳴が木霊するのでした。


 ――おわり――

最後まで読んで頂きありがとうございました。


女子高生二人がアクション映画を熱く語る。とても微笑ましい?光景だと思いませんか。


このお話に出てきた映画はどちらもとても面白いと思うので、興味がありましたら是非見て見てください。

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