第16集《4人の強盗団》
いらっしゃいませ。
どうしたのさ。入ってくるなり変な顔して。
この格好。どう似合ってるでしょう?
似合ってる似合ってないじゃなくて、なんで屋内で帽子かぶってコート着てるんだって?
この前見た映画『俺たちに手は出せない』が面白くてね。その登場人物の格好さ。内容は……。
……最後は捕まえてエンディングを迎えるんだ。何だよその顔は、説明が長いって?
そりゃ失礼しました。じゃあ、今日のお話は映画にちなんで、ある強盗団のお話し。
☆☆☆☆
物語はカマボコ型の倉庫の中から始まる。
大小様々なコンテナが置かれている中、倉庫の中央に四人が立っていた。
四人とも揃いのダブルのスーツに、ハットとロングコートといった格好で、一見すると男性に見えるのだが、実は男装した女性達だった。
彼女達は窓から差し込む赤い光に照らされながら、現金が詰まったアタッシュケースが置かれたテーブルを囲んで、持っている銃をお互いに突きつけていた。
拳銃を両手に構えるコルトが口を開く。
「何でこんな事になったんだ」
「私は知らない」
拳銃を左手で構えたルガーが、コルトの心臓に狙いをつけながら首を横に降る。
「じゃあ、お前の所為か? バラライカ」
次にコルトはバラライカに銃口を向けた。
「ワタシは知らないよ!」
撃ったら撃つぞといった顔でコルトに持っている短機関銃を向けた。
「 じゃあ、お前しかいないな」
コルトは最後の一人トレンチの頭を狙う。
「オレは知らねえ」
反論すると同時に、持っている散弾銃の大きな銃口をコルトに向けた。
「誰も知らねえとなると、何でボク達は囲まれているんだよ!」
コルトが憤慨すると同時に外から拡声器の音が四人に向かって飛んでくる。
『お前達は包囲されている。五分以内に出てこない場合。投降の意思なしと判断し突入する。繰り返す……』
拡声器で増幅されてひび割れた耳障りな声が倉庫中を包み込む。
「……よし。みんな聞け。今仲間割れしている場合じゃない。ここから脱出するために協力しようじゃないか」
コルトの提案に三人は一も二もなく頷きます。
「警官隊はあと何分で来る?」
ルガーが答えます。
「あと三分半」
「まだ余裕あるな。よし、みんな戦闘準備しよう」
四人は、ついさっきまで銃を突きつけていたのが嘘のように、心を一つに協力する。
タイマーがゼロになると同時に扉が左右に開かれた。
現れたのは多数の制服警官隊で、その手には犯人逮捕のために拳銃型のパラライザーを握っている。
「来たぞ! みんな撃て!」
充分に近づいてきたところで、コルトの号令のもと四人の一斉射撃が始まった。
ルガーは自分の拳銃に木製ストックとカタツムリの殻に似たスネイルマガジンを装備している。
ストックを肩に当て発砲。トグルアクションが尺取り虫のように動き、空薬莢が上に飛んだ。
頭を狙って3発撃って照準を修正。また3発撃つを繰り返す。
「うおりゃあああああっ!」
無言で撃つルガーと対照的に大声で叫びながら撃ちまくるのはバラライカだ。
彼女の持つバラライカには71発入りのドラムマガジンが装着されている。
それをトリガー引きっぱなしのフルオートで撃つので、一瞬にして71発の弾丸を浴びて多数の警官隊が倒れていく。だが、その代償としてすぐ弾切れとなった。
「不味い! 弾切れた!」
そんな無防備なバラライカに多数の銃口が向けられる。
「オレに任せな」
バラライカの危機を救ったのはトレンチだ。銃口に物怖じせず前に出ると、愛用のトレンチガンを警官隊の束に向かって発射。
放たれた複数の丸い散弾が一度に数人に襲いかかった。
「ありがとう〜」
「礼はいいから、早くリロードしろ」
「そうだった!」
2人がそんな会話をしている時、コルトは一人で警官隊を相手していた。
2丁拳銃を交互に撃っていく。大口径の弾丸が警官隊の頭や胴体に突き刺さり吹き飛んでいく。
14回引き金を引いたところで、スライドが後退。弾切れの合図だ。
コルトは身を隠そうともせずに、空になったマガジンを落として、右手で二丁を持つと、左手で弾が詰まった新しいマガジンを二つ持つ。
マガジンを二丁同時に差し込み両手に持ち直すと、スライドを前進させてリロード完了。
新たに見現れた警官隊に弾丸を浴びせる。
倉庫には沢山の警官隊の死体が倒れているが、逆に四人は無傷だった。
「敵の増援が来るまでに乗り物を破壊しよう。ルガーお願い!」
コルトに言われてルガーが取り出したのは、りんごほどの大きさの青く発光した球だ。
それを外に着陸してバリケードを組んでいる警察のフライングシップに向かって投げつける。
青い球は一機のフライングシップの下に転がり目も眩むほどの光を発し、飲み込まれたフライングシップ2機が大爆発を起こす。
ルガーが投げたのは二発だけ持っているプラズマグレネードだった。
後の一発は後々のためにとっておく。
「二機同時に破壊した!? やるじゃんルガー」
「私もやればできる」
ルガーの投げたプラズマグレネードで二機同時に倒すことは今までなかったので、彼女はドヤ顔を披露する。
「二人とも、話は後々。ほら次の敵が来るよ」
「おっとごめんよ。バラライカとトレンチは扉を閉じてその前で敵を迎え撃って」
「「分かった」」
「ルガーとボクは窓を警戒するよ。敵はそこからも入って来るから」
「うん」
バラライカとトレンチは開け放たれた扉を閉めると、その前にあるコンテナに。コルトとルガーは左右にある窓が見える位置を陣取りました。
しばらくすると、扉の外が騒がしくなり、次の瞬間扉に穴が空きました。
そこから入ってきたのは全身黒ずくめの特殊部隊。
彼等は先程の警官隊と違い、ヘルメットにボディアーマーとサブマシンガンという重装備。
けれど四人にとっては、先程の警官隊はただの雑魚ならば、特殊部隊は強雑魚といったところだった。
「撃て!」
「おりゃあああ!」
トレンチとバラライカが射程に入った特殊部隊に向かって発砲。
サブマシンガンの銃撃を喰らった特殊部隊は倒れはするが、すぐに起き上がる。
別にゾンビなどではない。ボディアーマーのせいで大したダメージを与えられないのだ。
数人の特殊部隊がバラライカに向かって反撃。多数の弾丸が彼女に襲いかかる。
「ひゃー! トレンチ後はよろしくー」
バラライカは見事囮を務めた。そのおかげでトレンチの方に銃口を向けているものは誰もいなかった。
トレンチは勢いよく飛び出すと、歩いて距離を詰めながら、トレンチガンを撃つ。
一度撃ったら、左手を引いて押し込むポンプアクションをして、次の弾丸を薬室に装填し撃つ。
5回の射撃で100発近い散弾が特殊部隊に襲いかかった。
防弾装備をしている彼等でも、同時に何発も喰らってはどうにもならず、次々と力尽きていく。
次の敵を探していたトレンチが突然吹き飛んだ。
物陰にいた特殊部隊の1人に撃たれたのだ
「大丈夫!?」
「オレは大丈夫だ。それよりもリロードするから援護してくれ」
「分かった。とりゃあああ!」
バラライカが援護射撃をしている間に、トレンチは新たなショットシェルを装填する。
彼女はチラリと弾が当たった場所を見た。それは心臓のところだったのだが、彼女は特殊なボディアーマーを着けているため無事だったのだ。
リロードを終えたトレンチは弾が切れたバラライカと交代する形で射撃を再開。
二人の息のあった連携で、正面扉から侵入しようとした特殊部隊は全滅に追い込まれた。
因みにルガーとコルトの二人はというと、窓から侵入しようとしていた特殊部隊の隊員を阻止していた。
「お疲れバラライカ。トレンチ」
「あっコルト。トレンチが弾丸をもらっちゃったみたいなの」
バラライカがコルトに駆け寄る。
「何。一発喰らっただけだ」
「頼むぜトレンチ。あんたの耐久力の高さが頼みの綱なんだから」
「三人とも。奴が来た」
ルガーの言葉に会話をしていた三人もすぐに戦闘態勢をとった。
四人の見ている前で 扉が斬り裂かれる。
「ボスのお出ましだ」
コルトの言葉に誰かの喉が緊張のせいか大きく鳴った。
扉を斬って現れたのは、忍者の格好をしたロボットだった。
ロボット忍者はスラリとした細身のシルエットで、両手には逆手に持った忍者刀が獲物を求めるかのようにギラリと光っている。
4人が銃口を向けても、ロボットだからか恐怖を全く感じていないようで、一歩踏み出す。
五つの銃口から火が噴き出す。ロボット忍者はそれを軽やかに避け、忍者刀て弾きながら走る。
狙いは一番体力のあるトレンチだ。
「ここはオレに任せてみんな離れろ。来い!」
トレンチガンを連射して迎え撃つ。
さすがに全ては防げないのか、散弾が何発か当たる。しかしロボット忍者は止まらず、トレンチをすれ違いざまに斬った。
トレンチが崩れ落ちる。
「トレンチ! よくも〜」
「あっバラライカ。距離が遠い」
コルトの制止も聞かずにバラライカが飛び出し、特殊能力を発動した。
バラライカは10秒間だけ2体の分身を作ることができるのだ。
「「「トレンチの仇」」」」
3人になったバラライカが持つ、3梃のバラライカが竜の炎の様なマズルフラッシュを放つ。
200発以上の弾幕の中を、ロボット忍者はまるで泳ぐ様に避けていく。
「嘘!」
驚くバラライカをロボット忍者は持っている刀で一突きした。
「ごめ〜ん」
バラライカはそう言い残して倒れた。
ロボット忍者の姿が消える。
「ルガー危ない!」
振り向くと彼女の背後にロボット忍者が忍者刀の切っ先を振り下ろそうとしていた。
「その動きはチート」
ルガーも倒れ、残ったのはコルト一人。
「喰らえ!」
コルトは二丁のコルトガバメントを連射。しかしロボット忍者はそれを全て弾く。
「やっぱり強すぎる。けれどこっちだって何度も挑んできたんだがら、対策ぐらい立ててあるんだ」
コルトは一丁の拳銃を取り出した。それは古めかしい回転式拳銃だ。
レンコンの様な弾倉には6発の弾が装填されている。
ロボット忍者が走って距離を詰める。
コルトは拳銃を向けると同時に特殊能力を発動させた。
彼女の能力はスローモーション。自分以外の全ての時間の流れが遅くなる。
だが欠点もある。
「当たれ!」
コルトが撃つ。狙うはロボット忍者の弱点である額の光っているところだ。
しかし当たらない。ロボット忍者が避けたのではなく、コルトが外したのだ。
弱点はとても小さく、時の流れを遅くしても相手は動いているので当てづらい。
「あと5発」
さらにスローモーションの欠点は、6発撃ち尽くしたら強制的に解除されてしまうのだ。
2発目、3発目と撃っても当たらない。その間にもロボット忍者の刃が迫る。
更に2発撃つが当たらない。全部惜しいところで外れていた。
「もっと近づいて来い!」
コルトは捨て身の行動に出た。相手が最接近するまで待つことにしたのだ。
忍者刀が目前に迫るところでコルトは最後の1発撃ち放つ。
ロボット忍者の動きが止まった。その額には大きな穴が空いていた。
「三人とも仇は取ったぜ」
途端に世界が暗転し、こんな文字が表示される。
《GAMEOVER》
都内のあるゲームセンターから四人の女子高生が出てくきました。
「「「「あ〜〜楽しかった!!!!」」」」
開口一番そんな喜びの叫びをあげた四人は、何十回も挑んでやっとクリアしたゲームの感想を語り合いながら駅に向かいます。
彼女たちが遊んでいたのは《フォーロングライダーズ》と呼ばれる4人の強盗団を主役にしたVRシューティングなのでした。
――おわり――