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第14集《天使のささやき》

  いらっしゃいませ。


  今日はとても嬉しいことがあったみたいだね。


  国じゅう大騒ぎじゃないか。

 

  他の国の人々も祝福してるよ。流石に全部じゃなさそうだけど。


  おっと、こんな話をしに来たわけじゃないよね。


  はい。今日の話はマイナス四十度以上で出会える天使たちのお話だよ。


 ☆☆☆☆


  知っていますか? 人間界を覗きに来る天使がいる事を。


  ダイヤモンドダストと一緒に降りて来たのは小さな小さな天使の双子です。


  着ているのは、袖なしの白い服一枚でとても寒そうですが、彼女達は天使なので寒さを感じることはありません。


  趣味は人間界を観察する事で、今日もいつものように二人一緒にやって来たのです。


  お姉さんの方がある一点を指差しました。妹は指さされた方を見ます。


  二人は頷くと、そちらに向かうことにしました。


  そこは降り積もった雪で白銀に染まった森の中です。


  真っ白な地面をよく見ると、小さな足跡がついていました。


  足跡は二本の足で付けられたようで、どうやら獣ではなさそうです。


  双子天使は、その正体を見極めようと足跡を追いかけます。


  そして、その主を発見しました。


  白くてモコモコの毛皮を持った二足歩行の生き物の背中でした。


  双子天使は前に回って確かめて見ると、その生き物の正体は幼い少女でした。


  二人の天使は何故こんなところにいるのか考えますが、何も思い浮かびません。


  天使達が首を傾げている間も少女は歩き続けます。吐く息は真っ白です。


  それもそのはず。その日の気温はマイナス四十度以上なのですから。


  何枚もの防寒着を重ね着した幼い少女は、身体を震わせながら森の奥に向かってるようです。


  どこへ行くのでしょう。双子姉妹はとても気になったので話しかけることにしました。


「ねえねえ。どこ行くの」

「ねえねえ。どこ行くの」


  お姉さんは右耳、妹は左耳から話しかけました。


「ひゃあ!」


  少女が飛び上がるほど驚くのも無理ありません。


「えっ? えっ?」


  少女は耳を抑えて左右を見回しますが、誰もいません。


  双子天使は頭上に上がって、慌てふためく少女をニコニコしながら見下ろしていました。


  一通りリアクションを楽しんだ双子天使は少女の眼前に降りていきます。


  少女は信じられないものを見たように目を大きく見開いて固まってしまいました。


「驚かせてごめんね」

「驚かせてごめんね」


  双子天使が謝ると、少女は何度か目を瞬いて改めて天使達の姿を見ます。


  それは背中から翼の生えた双子です。大きさも少女の手に収まるほど小さいものでした。


「あなた達は天使なの?」


「うひゃ!」

「うひゃ!」


  双子天使達が両耳を抑えます。


「ど、どうしたの? 大丈夫?」


「声が大きいの。もう少し小さい声で話して!」

「声が大きいの。もう少し小さい声で話して!」


  小さい天使達にとって、自分より大きな少女の声は鼓膜が破れるほど強烈なものだったのです。


「ご、ごめんなさい! これで大丈夫?」


  少女はできる限り声を小さくして話しかけます。


「うん。大丈夫だよ」

「うん。大丈夫だよ」


「良かった。あなた達はいったい?」


「私達は天界に住む天使だよ」

「私達は天界に住む天使だよ」


「すごい! 本物の天使さんなんだね。私初めて見た」


  少女が目を輝かせます。その笑顔は歳相応にとても愛らしいものです。


「あなたはここで何してるの?」

「あなたはここで何してるの?」


  お姉さんは左に首を傾げ、妹は右に首を傾げながら尋ねます。


「私は森の奥を目指しているの。そこで森の主様に会いに行くのよ」


  少女の言葉を聞いて、双子天使はお互いを見ます。


「それはおかしな話」

「それはおかしな話」


「おかしな話ってどういうこと……はっくちゃん」


  少女の鼻が真っ赤です。どうやら外の冷気が少女の身体を冷やしているようです。


「これはいけない」

「これはいけない」


  双子天使は少女を大き中の穴の中に連れていきました。

  そこは見た目以上に暖かく、木の匂いのお蔭かとても落ち着く場所です。


  そこに少女を座らせて双子天使は尋ねます。


「誰から森の話を聞いたの?」

「誰から森の話を聞いたの?」


「えっと、私のお父さんとお母さんからだよ」


「あなたの両親がそんな事を言ったの!」

「あなたの両親がそんな事を言ったの!」


  双子天使は突然怒り出します。


「うんそうだよ。どうしたの二人とも、怒ってるの?」


  少女は気づいていないようですが、双子天使は気づいてしまいました。


  彼女は捨てられたのです。しかも両親にいるはずもない森の主に、会いに行くようにと騙されて森に捨てられたようです。


  少女が両手で自分の身体をさすります。見ると身体の震えが止まらないようです。


「ごめんね。すごく寒くて、それにものすごく眠くなってきちゃった」


  少女はもう立ち上がるほどもできないほど衰弱しているようでした。


  双子天使は目を合わせます。それだけでお互いの考えていることがわかるのでした。


  二人は頷くと、瞼を閉じそうな少女に近づきます。


「寝るのは待って! 私たちの質問に答えるのが先!

「寝るのは待って! 私たちの質問に答えるのが先!」


「な、に?」


  二人の激しい口調に少女の瞼が僅かに開きますが、とても重そうです。


「このまま眠るか、それとも私たちの手を取るか選んで」

「このまま眠るか、それとも私たちの手を取るか選んで」


  双子天使は少女に手を伸ばします。


  今まで感じたことのない眠気に襲われながら少女は、ひとつの決断するのでした。


  冬が開け春、夏、秋が過ぎて、また冬が訪れます。


  そしてマイナス40度となった時、天使がダイヤモンドダストと共に人間界に降りて来ます。


もちろん人間界を見物するために。


  あの双子の天使でしょうって? いえ降りて来た天使は三つ子ですよ。


 ――完―― 

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