第10集《ガラクシアス・オリンピック》
いらっしゃい。
今日も来たんだ。物好きだねぇ。
えっ、初めて来たって。そんな細かいことはどうでもいいじゃない。
じゃあ今日の物語は、あるスポーツ大会の物語だよ。
☆☆☆☆
辺境の惑星にあるコロシアムでは、四百年に一度大会が行われています。
その名は《ガラクシアス・オリンピック》という名前です。
ここに集まるのは、宇宙に無数にある銀河系から四千の銀河系の代表である四千人が集まっていました。
彼らは、故郷の為にこの大会に出場し様々な競技を行って四千の頂点に立つために競いあって来ました。
その四日間に渡る大会もついに最終日。
優勝決定戦の舞台になったコロシアムでは、多数の観客が会場に現れる選手達を今か今かと待ち構えています。
行われるのは拳闘です。
向かい合わせの扉が同時に開き、選手達が入場して来ました。
観客達は歓声を上げて二人を迎えます。
現れたのは二体の人型サイボーグです。
大会に出場している選手は皆強化骨格のサイボーグで、生身の部分はごく一部しかありません。
選手達は機械の体になる事に対して、特に抵抗はありません。
何故ならサイボーグ化は一般的な事ですし、この大会で優勝できれば生身の身体に戻る事は簡単ですからね。
現れた二体のサイボーグは、まるで大人と子供のように体格差がありすぎます。観客達の目はまず太った方に向けられました。
全長は三メートル。厳密にいうと太っているわけではありません。
強化骨格の上からどんな衝撃も吸収する半透明の緑のスライムを纏っていて、それがまるで脂肪の塊のように見えるのです。
しかし、そんな肥満体型でも連戦連勝。実力は確かなのです。見た目で判断してはいけませんね。
見た目通りの重い一撃は、対戦相手の防御ごと全身を叩き潰して来ました。
対する相手は細くて脆そうに見えてしまいますが、これが標準体型。
緑のサイボーグに対するは赤いサイボーグ。
全長二メートルの上質な筋肉を纏ったボディは、まるでアスリートのように整った身体をしています。
二体はお互いの攻撃が届く一歩前で立ち止まり、試合開始の合図を待ちます。
そしてゴングが鳴り響きました。
赤のサイボーグが両腕を前に伸ばし、掌を開いたままの構えをとります。
対する緑のサイボーグは構えもせずに、試合開始と同時にスライムを纏った右腕で、いきなり殴りかかって来ました。
自分の頭よりも大きな拳が迫ります。
赤いサイボーグは伸ばした左腕を、内側から外側に動かすようにして弾き飛ばし、受け流すと同時に間合いを詰めます。
緑のサイボーグが左、右と拳を振るいますが、赤いサイボーグは避ける事はせずに全て受け流し、更に間合いを詰めました。
そして自分の間合いに入った途端一気に動きます。
まず左手の掌底打を緑のサイボーグの顔面に当てました。
もちろんダメージは吸収されてゼロですが、目的は別にありました。
一瞬だけですが、相手の視界を塞いだのです。
サイボーグとはいえ、人間と同じく視界は情報を得るための大事なもの。
視界を塞がれ、緑のサイボーグの動きが一瞬止まりました。
赤いサイボーグはその無防備な相手に、右手で渾身のフックをお見舞いします。
人間でいえば急所である耳の下に直撃。スライムが衝撃で大きく震えます。
緑のサイボーグの両腕がダラリと垂れ下がりました。
やった! と思った赤いサイボーグは完全に油断していました。
突然腹部に、レールガンの砲弾が直撃したような衝撃が加わり、思いっきり吹き飛ばされてしまいます。
どうやら、緑のサイボーグのアッパーカットを食らってしまったようです。
地面に倒された赤いサイボーグが頭を上げると、近づいて来る相手を見据えて、慌てて立ち上がります。
ダウンは敗北を意味しているからです。
何とか立ち上がりますが問題が発生です。両足がうまく動きません。
何とか下半身に力を込める事はできても、その場から一歩も動けなくなってしまいました。
緑のサイボーグがスライムでできたお腹をブルンブルンと揺らしながら近づいてきます。
こちらが満身創痍なのを見抜いているのか、全身隙だらけです。
赤いサイボーグは左手をまっすぐ構え、右手を頭上に持っていきます。
その構えは、盾を持ち槍を構えているかのようです。
緑のサイボーグが殴りかかってきたので、盾のように構えた左手を自分に迫る拳に向けました。
赤いサイボーグの左手はめちゃくちゃに砕けて肩口から吹き飛びます。
しかし、勢いが弱まったおかげで、緑のサイボーグの拳を、顔を動かす事で避けることに成功しました。
そのまま、自分の間合いに入って来た緑のサイボーグの顔面に右ストレートを繰り出します。
上段構えから、何とか動いた右足を踏み出して繰り出された拳は、相手の顔面に直撃しました。
しかしそれではスライムを貫けません。しかし、赤いサイボーグには奥の手があったのです。
拳から鋭いスパイクが射出され、その鋭い槍のような一撃が皮下脂肪のようなスライムの鎧を貫き、中にある脳味噌毎、緑のサイボーグの顔面を破壊しました。
観客が、割れんばかりの歓声で優勝者である赤いサイボーグを称えます。
こうして、今回のオリンピックは赤いサイボーグが四千の貧乏銀河の一番となりました。
そう貧乏銀河です。
地球を出た人類は数千年をかけて、多数の銀河系に移住していました。
しかし、人口が増えれば増えるほど、資源は無くなり世界ではなく各銀河系は貧困に喘いでいきます。
そうして、裕福な銀河系は片手で数えるほどしかなく、それ以外の無数にある銀河系は戦争して他の銀河系から資源を奪わなければいけないほどの貧乏でした。
それを解決する為に長らくやってこなかったオリンピックが復活したのです。
敗北した銀河系は、勝利した銀河系に全ての資源を差し出さなければなりません。
参加した時点でもう拒否権はないのです。
それこそ、惑星も、太陽も、そこに住む人間さえも……ある物は全て一位の銀河系に差し出すのです。
こうすることで、増えすぎた人口を調整しているのでした。
故郷に帰った赤いサイボーグは、その銀河で英雄として祀られました。
彼はその大会の後遺症で、一生サイボーグ生活を送ったそうですが、不満は全くなかったそうです。
何故なら、自分の銀河を守ったことよりも、自分の妻と生まれたばかりの子供と幸せに暮らす事ができたのですからね。
めでたしめでたし。
――完――