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第九話『生きている理由』

 狭いながらも整頓された部屋に入った。

 ベッドに机、古い使い込まれた毛布が一枚、ランプに水差しが置いてある。

 近くのベッドに腰をかけてため息をつく。


 参ったな。それが僕の第一感想であった。

 何も考える事が出来ない、僕の人生は村があり誰かのために生きていたのだ。全てが灰になり二度目のため息を付く。


 部屋の扉が乱暴に開け放たれた。驚いてそちらを見ると、片手にトレイをもったマリエルが目を見開き僕を見ている。


「ふー……よかった、生きてる」

「えっ」


 意味がわからず聞き返すと、小さな笑みを浮かべて答えてくれた。トレイに乗っているスープからは湯気が立っており、トマトの香りが部屋の中へ広がっていく。


「ノックしたんだよ? 返事がないからさ。悲しい気持ちがあるなら精一杯生きなきゃね」


 ノック? 何時の間に、気づいてなかった。素直に謝ることにする。


「ああ、すみません気づきませんでした」

「ううん、いいのいいの、でさ」


 マリエルが必死に生きる喜びや生命の素晴らしさを喋り僕に説き伏せる。

 なるほど、僕が事件のショックで自殺をするのではないか、と心配しているのだ。そうだ、なぜ自殺をしなかったのか。


「――――だから、約束しよう」


 マリエルが『約束』という言葉を僕の耳に言葉として入れた。

 思わずマリエルの顔を見ると、突然の事でびっくりしたのか言葉が止まった。


「なっ何っヴェル」

「いえ。大丈夫ですよ、心配されなくても自殺はしませんし。王都でしたっけちゃんと付いていきますので、そう約束です」

「う、うん。それならいいんだけど」


 僕がまだ引き取られて間もない頃。フローレンスお嬢様に連れられて森へと遊びにいった。

 夜になり案の定迷ったフローレンスお嬢様は泣き出し、道を覚えている僕が手を引いて森を抜けようとした。

 そこに野狼が現れ僕たちは小さな洞穴へ逃げたのだ。

 村までの道のりはフローレンスお嬢様にも伝えた。二人でここに居ても食われるのを待つだけである。それならと僕はフローレンスお嬢様に伝えた。

 『僕が囮で食べられてる間に村へ行ってください』数秒きょとんとしたフローレンスお嬢様はいきなり僕の頬をグーで殴った。

 『ヴェル。絶対に自分から死のうだなんてがんかえてはだめ』

 『めいれいですか』

 『ううん。やくそく』

 だから僕は死んでないのかも知れない――。


「ふむ。笑えるのだな君は――」

「えっ」


 黙っていた僕を優しい眼差しで見ているマリエル。


「笑ってましたか」

「ああ、さてスープも冷めないうちに飲もう」


 僕の前に赤い色のスープとパンを差し出してくる。固めのパンを一口かじる、直ぐに口の中の水分が無くなるのでトマトを煮込んだスープで胃の中へ流し込む。

 半日ぶりの食事で胃が熱くなるのがわかった。


 使い慣れない左手で食事を終え机の上に食べ終わった食器を戻す。


「で。僕の怪我は何時まで隠せばいいんでしょうか」


 いい加減生活に支障が出るのは避けたい、篭手だって外してしまいたい。別に強さに興味はない、一人であれば何処かのコマ使いでもいい。

 丸椅子に座っているマリエルは僕を見て喋る。先ほどの慈愛に満ちた目ではなく真剣な目だ。


「最短でも王都まではそのままでいてもらいたい」

「篭手も外さすに、ですか」


 あっ。と小さな声をあげ真面目な顔に戻るマリエル。


「外さすにじゃなくて、外れないわよそれ」


 余りにも普通に言うので包帯をとり始める僕。その行為を見ても何も言わないで黙っていてくれるマリエル。

 八割ぐらい外れた所で黒く輝く篭手が出てきた。繋ぎ目である部分を探すも繋ぎ目が見当たらなくなっている。

 僕は思わずマリエルを


「でしょ。外れないわよ」

「え?」

「だから困ってるのよ……。そもそも――私たち第七部隊はこの付近にハグレのアジトありって事で調査に来たのよ。ハグレというのはね」

「確か言ってましたね。聖騎士の力を持ちながら国を捨てた人達」


 僕の答えに拍手で答えるマリエル。


「よく出来ました。で、すっごい簡単に言うとハグレの討伐が任務。ヴェルが此処でその篭手を見せて歩くと私の部隊で処理をしないといけないの。規定によって両手両足に縛り王都まで移送か、篭手の破壊とかしないと」


 討伐と優しく言っているが、素直につかまる相手ではないだろう、昨夜の巨漢の男だって桁外れの強さであった。その先は抹殺。

 静かに頷く僕をみて続きを喋るマリエル。


「でね。私達聖騎士やハグレってこの篭手に選ばれ。訓練を積んで強くなるの。詳しい話はあんまりおぼえてないんだけど、ファーのほうが詳しいのよね、ごめんね」


 ファー、あの眼鏡をかけてたファーランスという副隊長の事だ、確かに知的に見えるファーならその辺も詳しいだろうなと想像する。


「いえ、大丈夫です。で外れない理由とは」

「ああ、そうだった。自己強化を最優先させ体に馴染ませるのに一度はめたら数日から数年は取れないようになってるのよ。そして外れたらさらに上のランクの魔道具に切り替えるの、本来は……ううん」


 何かを言いそうになり首を振るマリエル。


「僕の事で気にしてる事があれば言って下さい」

「ん。わかった。本来は、貴方、ヴェルみたいな力の強い魔道具をいきなり付ける事もないし、付けれないのよ。体に合わない篭手は自然に抜け装着できないのが普通なのよね」


 確かにフローレンスお嬢様が腕に付けた時は体に合わなく飛んでいった。


「困りましたね」

「ええ。とっても、私としては被害者のヴェルをそんな風に王都に連れて行きたくないし。でも任務もあるしーって事。王都にいけば私の上司が居るので丸投げしようかなーって」


 最後のほうは目線を合わせずに喋るマリエル。なるほど。


「ちなみに先ほど話しにあった篭手を破壊するとどうなるんですか」

「篭手自体にも修復機能はあるし滅多に壊れないんだけど、手順を踏めば普通の力に戻れるわよ。ただ無理に壊すと後遺症あったら困るし」


 口の中が乾いたのかマリエルは水差しからカップへと水を移し口に含んだ。

 静かにノックの音が聞こえ直ぐに声が室内に響く。


「マリエル隊長。もうそろそろヴェルさんとの一発終わりましたでしょうか」


 ファーの真面目な声でいう低俗な内容にマリエルが口に含んでいた水を盛大に噴出した。

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