第八話『タチアナの町へ移送され』
何時もより視界が高い。馬に乗っているからだ。そしてマリエルに密着してる為に、ふわっとした甘い香りが僕を包む。
何故かというと僕はマリエルを背後から抱くように馬に乗っているからだ。
事の発端は、少し前だ。滅ぼされた村やマリエルが切り殺した盗賊、盗賊に殺された村人の埋葬。この辺はすべてファーと一緒にきた男達がやる事になっており、隣町のタチアナで結果を聞く事になっている。
さぁ出発しようとした所ミントが僕の包帯で巻かれ、肩で吊っている右腕を見て一言しゃべる。
「ヴェルにい。けがしてるなら。一人で馬はあぶなくない?」
「ですか、徒歩となると日がくれます。誰かの後ろに乗る事にしましょう」
「そっか。なら。ヴェル、私の後ろに乗りなさいっ。今の私は剣も何もないから掴まりやすいだろう」
僕の意見など一切聞かない集団に押し切られ馬に乗ると片腕でマリエルの腰を掴む。
街道沿いに、先頭がファー、次に僕たち、最後にミントと自然な形を取るあたり流石は聖騎士と認めざる終えない。
特に何事もなくタチアナの町へついた。この付近では大きな町であり、宿や飲食店、警備兵の詰め所などもある。
町の入り口で馬を降りそのまま宿へ向かった。
町に入り直ぐ最初の宿の前に立つ。以前フローレンスお嬢様達と来たときの事を思い出す。足を止めていると、ミントが僕の左手を引っ張り早く入ろうと急かしてきた。
一階が酒場で二階が宿になっているお店に入ると、黄色い歓声が僕らを包んだ。
普段は酔っ払いがたむろしている酒場には今は女性、いや女の子が沢山居た。
全員が青いマントをローブのように着込み、座ったり壁に寄りかかったりしている。
軽く見て十数人って所だろう。
その中で長身の女性が僕たちに向かってくる。
僕とマリエルよりも頭二つ分は背が高く、やはり青いマントをローブ代わりにしている。
しかし、他の人と違い剣すらも大きく、腰では無く背中へ背負う感じでつけているのが特徴的だった。
「よう、隊長。に副隊長おかえりっと、それとミントもお帰り」
「ただいま。チーちゃん」
男っぽいガサツなしゃべり方な長身の女性。さすがに僕がチーちゃんと呼ぶわけにも行かないので一歩でて挨拶をする。
「ヴェルです。えっと――」
「おう。チナだ、よろしくな」
握手をすると、横に居たファーさんがこちらを見て話す。
「全員と挨拶すると日が暮れますので。簡単に説明します。皆さんこちらを――、見てますね」
確かに全員の視線が僕たちに集まり、酒場の主人さえも僕を見ている。
「此方が今朝説明したヴェルさんです、客人なので故意に疲れさせないようお願いします。休日は明日の夜までですので各自お疲れ様でした。解散っ」
紹介、それと短い号令と共に女性たちが僕を通り過ぎて次々に外に出て行く。手を振ったりウインクしたりとそれぞれがこちらに軽い挨拶をしながら消えていった。
「ミントもちょっと買い物してくるねー」
ミントが喋ると、先に外に出ていたチナの名前を呼び消えていく。酒場には僕とマリエル、ファー。そして酒場のマスターだけが残った。
「さて。ヴェルさん。お疲れの所申し訳ありませんが、事件の事をお聞きできますか?」
「ちょっと。ファー。付いたばっかりよ、それにあんな事があったのに残酷よっ」
「情報は早いほど正確です。騎士団として今後の対応にもかかわると思いますので」
「で、でも怪我だってしてるんだしー」
焦るマリエルに。少しだけ眉間に皺を寄せ、深いため息をつくファー。
真実を喋っていいのか迷い、ここは卑怯ではあるが逃げの一手を使わざるおえない。
二人に向かい喋事にした。
「僕から言う事で新しい事は特にありません。祭り前日に襲われた事などはマリエルに伝えた通りです。あと出来れば一人にさせてもらいませんか」
こう言っておけば、僕が仮病まで使い篭手を隠さなければならないのか、その秘密もすべてマリエルに丸投げ出来る。
それに、僕自身は嘘はついているつもりはない。隠せといったのはマリエルであるし。
マリエルをちらっとみると、小刻みに首を頷いている。肯定の証だろう。
ファーは顎に手を当て天井を見、少し考えた顔にになり僕を見る。そして微笑みに変えた。
「わかりました。此方こそ申し訳ないです。二階の奥に部屋がありますので、休んでいてもらえると助かります。外出は自由ですが、念のため誰かを護衛に付かせますので連絡を、あっそうそう。直ぐに何か食べれる物を持って行かせます。食べれない物はありますか?」
「ありがとうございます。特に食べれない物はないです」
「どういたしまして、では。ここの主人に食べ物を注文していきます。隊長には既にご飯を作って貰っているので席について待っていてください」
ご飯と聞いて目を輝かせるマリエル。
「まっ、っと。ありがとうっ。さすが持つべき物は優秀な副官ね」
「それほどでも」
嬉しそうにはしゃぐマリエルはステップしながら大きいテーブルへと陣取り料理を待っている。僕はファーをちらりと見ると、一瞬ファーの目が光った気がした。
それでは。と僕に握手を求めるファーに握手を返す。二人と別れ階段を上る途中に急に背後からマリエルの悲鳴が聞こえた。
「いやーーー。ヘビだけはイヤーー。見てるっ見てるから目が合ったってー」
「いいえ。罰です。ヘビ料理のフルコースです。ご主人、どんどん持ってきて下さい」