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第七話『まどろみの朝』

 全身が酷くだるい。鳥の羽音が聞こえる。

 ああ、こんなにだるいのは珍しい、早く起きて戸締りを空け食堂の火をつけないと……。

 それからフローレンスお嬢様を起して、いや今日は祭りだ。

 昨日は色々あり――。


 目を開き当りを見回す。違う、昨日までの平穏な日々はもうないんだ。

 辺りが騒がしい街道の横にある森の中で寝ていたらしい、右腕を見ると大げさな包帯がぐるぐると巻いてあり、首から吊り下げられている。

 街道にでると、辺りに大量の血痕があった。

 

 村長宅が会った場所へと歩くと無残にも焼け落ちた家がある。眼下に広がる景色も酷く殆どの家が焼け落ち田畑も荒れていた。


「やぁ少年。体の調子はどうかな」


 聞き覚えた女性の声が聞こえ振り返る。

 馬に乗った聖騎士、マリエルがゆっくりと馬から下りて僕に声をかけた。


「気分は最悪ですね」


 ふと家の脇を見ると土が三つ盛り上がっていた。

 僕はマリエルに質問した。


「お墓、ありがとうございます」

「いや、結局私は何も出来なかった、それに逆に助けてもらった」


 頭を下げられ困惑する、耳が隠れるぐらいまでの髪からうなじが見えた。


「いえ。頭を上げてください、えっと。僕の名前はヴェルと言います、たしかマリエル……さんでしたよね。あの巨漢の男はどうなったんです」

「マリエルと呼び捨て構わない、何も覚えてないのかヴェルは」


 僕と巨漢の男と対峙した事、一瞬の交差で僕の剣が巨漢の男の左腕を切り落とした事、何故か「気分がいい」と腕を持って巨漢の男が帰った事、そして傷だらけの僕がその場に倒れた事を教えてもらった。

 

 言われてから全身を見渡す、手も足も傷がなく、マリエルを見てもあれほど巨漢の男に痛めつけられて居たのに今は傷ひとつない。


「気づいた。そう、聖騎士の特徴の一つ。切り傷などであれば一晩もあれば回復する、ヴェルも体のほうはピンピンよね」


 自身の体を見回すと確かに傷が無くなっている。しかし腕の包帯をみて疑問に思った。

 訳を聞こうと顔を上げた所で、遠くから馬の音が聞こえた。直ぐに女の子の声が辺りに響き渡る。


「たいちょおおおおおおお」


 声の主に思い当たる人がいるのか少し困った顔であるが嬉しそうな顔のマリエル。僕にそっと耳打ちをする。


「悪いけど、篭手の事は周りには秘密にしておいてくれ、そして出来れば一緒に王都まで来てほしいの」


 返事を聞かずに声をのするほうを向くマリエル。僕もそちらを向くと馬に乗り、ピンクの髪を三つ編みにした女の子が突進してくる。

 あのスピードのままはぶつかんるんじゃと、一歩引くと。マリエルの前で手綱を思いっきり引く女の子。

 驚いた馬が前足を上げ急停止すると、馬から飛び降りマリエルへと抱きついた。


「たいちょーっ。怪我は。はっもしかして、くっころされましたっ」

「怪我も何もこの通り。くっころとは何だ」

「えー知らないんですかったいちょー。くっころとは、たいちょーみたいな騎士が敵に捕まり『くっころせ』って言うの。男の敵が『殺すよりひどい事をしてやる』ってポロンなのですよ」


 マリエルがため息をつくと、女の子が僕をみる。背は低く僕の胸ぐらいまでしか身長がない。


「何処で覚えてくるんだ」


 直ぐにマリエルに後頭部を叩くマリエル。


「一般人に聖騎士の変な所を見せるな、ファーに怒られるぞ。この人は、村で唯一生き残ったヴェルだ。状況や今後の為に王都まで護衛をする」

「よろしく。ヴェルです。えーっと――」


 名前の知らない女の子に開いている左手で握手を求めると。右手を出して握手してくれる女の子、この女の子にも赤い模様の入った篭手が装着されていた。

 腰にも身長の半分ぐらいの短めの剣を着けているのに気づいた。 


「せいきし団。七部隊のミント。よろしくヴェルにい」


 僕を『にい』付けで呼ぶ女の子。握手が終わると、続けて複数の馬の足音が聞こえた。

 先頭は女性で茶色の少しウエーブが付いた髪をなびかせ眼鏡をかけた女性。青いマントを羽織り僕らの集団に気づくと涼しい笑みを浮かべてきた。


 少し手前で馬をおり、背後の馬へ乗った男たちに色々指示をし女性だけが歩いてくる。ほかの男達は僕らを通り過ぎ滅ぼされた村へと散っていった。


「お初にお目にかかります。聖騎士団、七部隊副長のファーランスと申します。ファーとお呼び下さい」

 

 青いマントから見える手には同じく赤い模様の篭手、それよりもマントから飛び出るような豊満な胸が特徴的だった。

 もちろん彼女も剣を腰につけている。


 僕はファーに自己紹介をし握手する。それまでやさしい笑みをしていたファーはマリエルに向きなおすと。目じりを吊り上げた。


「マリエル隊長、お仕置きです」


 短い一言にマリエルやミントが青い顔をして震え上がる。


「まっ、まて。ファー。そもそも休日なんだし自由行動だろう、その戦闘は不可抗力であって困っている人々が居れば助けるのが聖騎士だっ」

「ええ、それと規則はまた違いますので。単独行動をとった罪でお仕置きです」

「しかし、あの場合――」

「ええ。ですから報告書は読みました。祭りと聞いて抑えきれなくなった誰がさんが夜中に移動中。村の方向が赤く光っていると突進し、謎の部隊と遭遇、備品である剣を紛失し、尚且つハグレ一名と交戦し逃げられる。と、そして」

 

 僕の方に向き直り優しい笑みへと変わり、続きをしゃべり始める。


「村人一名を保護。襲撃の慣例性の調査、および護衛のために王都へ移送。大丈夫ですよヴェルさん、貴方の安全は聖騎士団が保障します」


 悲しみに浸る余韻もなく僕の運命は回り始めていた。

 僕は三つの墓へちらっと視線を向けた。

 さよならです、フローレンスお嬢様、僕は君が好きだったのかもしれない。

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