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第六話『覚醒者』

 黒と白いや。巨漢の男とマリエルの戦いを見ているだけの僕。

 マリエルが間合いを取るときつい目をして巨漢の男を詰問する。


「貴方はハグレか……それとも」

「答えると思うのか、聖騎士殿よ」

「ハグレって――」


 逃げずにいた僕を軽く振り向くと、前を向くマリエル。


「まだ居たのっ、少年。ハグレとは聖騎士崩れ、その力を悪用する奴等の呼称」

「聖騎士という名の腐った集団には言われたくないな」


 巨漢の男も短く言葉を吐き捨てる。

 マリエルが巨漢の男の挑発に顔を赤くすると地面に刺さる剣を抜き切りかかる。巨漢の男はその動きを見切るとマリエルの腹に重い一撃を食らわした。

 くの字になるマリエルの手から剣が落ち、巨漢の男はマリエルの頭を片手で掴み空中に持ち上げた。


「私のっ、命と――引き換えに――っあの少年を見逃せっ」


 マリエルが頭を掴まれたまま巨漢の男へと取引をする。

 巨漢の男はマリエルと僕、そして僕の手元にある篭手を見て言い放つ。

 

「この状況でよくもまぁ。良いだろう聖騎士の首ともなれば価値はある、部隊の全滅ぐらいのお釣りは来るだろう。俺の任務は、そこに転がっている篭手の回収と住民の抹殺だからな。小僧。俺の気が変わらないうちに去れ」


 去れ。どこに去れというのだろう。住む場所も奪われ恩を返す人も居ない。こんな僕に行く場所はあるのだろうか。

 

 タチアナに行く話しだって、お嬢様や村長夫妻の事を思っての行動だ。

 そもそもこの篭手はなんだ、それほどまでに、村の、いやフローレンスお嬢様の命より重いものなのだろうか。


 僕は巨漢の男とマリエルの両腕を見る。銀色の無期色と篭手、そして真紅の模様が入った篭手。どちらも魔道装備だ。

 あの巨漢の男が欲しがるこの篭手はやはり付けると強くなるのだろうか。

 

 復讐? いや違う。あの巨漢の男を討った所で死んだ人が戻るはずも無い。

 そうこれは自分への逃げだ。

 

 自分が満足する為の逃げだ。


 僕は落ちている黒い篭手を右腕に嵌めた。


 

 声が響く。いや、部屋が見えた。

 狭い部屋に赤い髪の女性が一人椅子に座って本を読み顔を伏せていた。その様子を部屋の隅、上空から見つめる僕。声を出そうにも声が出ない。手を見ようにも手が見えない。

 そもそも僕は誰だ……。


 ふと女性が顔あげ此方を向いた。手にしていた筈の本は既に消えていた。


『やぁやぁ。ヴェル君そんなとこに居ないでお茶でもどうだい?』


 眼鏡を掛けた女性が一言放つと僕は上空から床に落とされた

 頭を振りかぶると左右に手が見える、下を向くと尻餅をついた自分の下半身が見えた。そう名前を呼ばれると僕の名前が思い出す。


『こんな時は、珈琲がいいかな』


 女性は手をパンと叩くと、湯気が立ち黒い水が入ったカップが二つテーブルに並んでいる。

 何も無い所から現れ僕は驚いて声を上げた。


『なっ』

『美味しいとおもうで』


 鼻に近づけると苦味のあるような匂いを感じられる。一口飲むと口の中に野草を詰め込まれた感じだ。


『ふむ。苦いか、どれ』


 もう一度女性は手を叩くと持っていたカップの中に白い色が追加されていく。驚いて女性をみると、一人頷いていた。


『ミルクと砂糖と足しておいた、これなら美味しいだろう、さぁ飲め』


 別に飲まなくても良いのだろうか僕はそのカップへと口を寄せ一口飲む。先ほどとは違い珈琲の苦味がミルクで緩和されゆっくりと胃の中へ入っていく。


『あの――』

『ふむ、何かな?』

『僕は死んだのでしょうか』


 きょとんとした女性は、小さく笑いだす。


『くっくっく、そうか死んだとおもうたか。ある意味死んだほうが良かったのかもしれんな』

『ですが、この飲み物は僕は飲んだ事ありません』


 急に真面目な顔で僕の顔をみる女性、丸眼鏡の奥にある瞳はキラリとしている。


『安心しろ、ここは記憶の中じゃ。我のな、時間は合ってない様な物、死んでも居ないし現実では一秒も立っておらんだろう、もっとも我の力でもこの空間を保てるのはあと少しという所だろう。その珈琲は我を造った人の記憶じゃ中々行けるじゃろ』


 という事は僕は篭手を嵌めたのか。

 先ほどまで何も付いていなかった右腕に黒い篭手が唐突に現れる。


『ほらな。認識をする事で篭手が出てきた』

『僕も――、僕にもあの巨漢の男と戦えるぐらいの力が出せるんですかっ』

『無理じゃろ』


 あっさりと否定する眼鏡の少女に何も居えない。


『そんな落ち込んだ顔をするな、機関銃にライフルで抵抗するようなもんだ』

『あの、例えが良くわからないのですが』

『ふむ、そうじゃな。虚を付くぐらいは出来るだろうに』


 虚でも何でも良い。せめて勝てなくてもいいんだ。


『この篭手は――』


 なんなんですか? と聞こうとすると視界が切り替わっていく、体がふらっと浮き始めた。女性との距離が離れていくのに声がしっかりと聞こえる。

 

『そもそも。我は最高の成功作であり失敗作でもあるのだ。さて、次の再開までしばし眠るとしよう。決して命を粗末にするではないのじゃぞ』


 女性の声が聞こえた。苦悶に満ちた声。目の焦点が次第にあっていく。

 目の前でマリエルが苦しそうな顔をしている。

 巨漢の男と目があった。


「ほう。小僧、その篭手をつけるか」


 何故か嬉しそうな声で僕を見る。捕まえていたマリオンを無造作に投げ飛ばす。

 地面に叩き付けられたマリオンは数回咳をして僕を見ていた。


「その目、その勇気、益々気に入った。もう一度問おう。仲間になれ、命令だ」


 体がビクっと跳ねた。こんな巨漢の男が僕に命令。

 再び僕を仲間に誘う巨漢の男。答えはもう決まっている。


「断ります」


 解かりきっていた答えを聞き、満足そうに頷く巨漢の男は近くの剣を抜く、僕の目の前に投げとばす。はっきりと解かった。この巨漢の男にとって殺人や任務なと関係ないのだ、ただ強い奴と戦いたい、それだけなのだと。


 体全体が熱い。巨漢の男が腕を引き腰を引いたのが見えた。右型を振り上げ此方に向かい拳を放つのが予想出来た。

 僕は投げ込まれた剣を右手で引き抜き引きずるように構えた。

 

 巨漢の男と僕は同時に動いたっ。


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