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第五十一話『道中旅風景』

 女性の話し声が微かに聞こえてくる。結局緊張してあまり寝れなかった。


「ほんっとうに大丈夫なんでしょうね」

「別に私は大丈夫じゃなくても良いんだけど」

「大丈夫です。お二人とも見せて恥じない形です」

「アデーレさん、そういう問題じゃくてね」


 段々と話し声が大きくなる。顔に日の光が差し込んでくるのがわかり、嫌でも眼が開いてくる。いつの間にか壁のほうを向いて寝ていたらしい、マリエルは既にいなく壁しか見えない。

 体をゆっくりと起こして三人のほうへ向き直る。


「おはようござ――」


 途中で言葉が止まるのは三人が三人。上半身裸であるからだ。

 ベッドに座る小ぶりの胸をさらけ出すフローレンスお嬢様に、その背後には大きい胸が揺れているアデーレ。僕の斜め前にはフローレンスお嬢様よりは少し大きい胸のマリエルがそれぞれ手に布を持って僕を見ている。

 

「ちょっと、ヴェルっ早く向こう向きなさいよっ」


 フローレンスお嬢様の叫びで僕は、我に返り慌てて壁を向く。

 

「えーっと、何をしてたんです――か?」


 全員で胸を見せ合っているようにしか見えない。知らないだけで女性の間では流行っているのだろうか。

 背後からマリエルの声が聞こえた。


「此処最近暑かっただろ、せっかく宿にいるんだ体を拭こうとおもって」

「もう。だからヴェルと同じ部屋なのは良いけど、邪魔よ、そもそもなんでマリエルさんと一緒に寝てるのよ。一緒なら私じゃないのよっ」

「誰と寝たって宿は宿、私がお嫌いでしたか」

「いや、そのアデーレさんが嫌いとかじゃなくて……」


 なるほど、確かに最近は暑いし汗も出る。特に女性なら身だしなみは気をつけるだろう。僕も自分の体を拭かないといけないだろうし。

 思えばオーフェンはその辺は凄く敏感だった、僕も一日二回は自身の体を拭かされた。

 背後が騒がしい。光が差込、影となって僕が見ている壁に影絵として映っている。


「あの。もうそろそろ良いでしょうか」

「だめー」

「別に一度見られたんだし減るもんじゃないからいいじゃない」

「減るのっ私のプライドが減るのっ」


 僕の質問に見も蓋もないマリエルの言葉が聞こえる、直ぐにフローレンスお嬢様の声が聞こえてきた。


 お嬢様のプライドか……、少し笑って僕は壁を向いたまま時間が立つのをまった。


 三人の着替えが終わり、僕も手渡された布で体を少し拭く。上半身の服を脱ぐと何故か二人が僕を凝視している。


「あの。なんでしょうか」


 僕の問いにマリエルが慌てて首を振る。


「いや。気にしないで、ねっフローレンスさん」

「えっ。私。うん、ヴェルも早く体拭きなさいよっ全然みてないんだからねっ」


 そういうフローレンスお嬢様は顔を横に向けているがチラチラと僕を見ているし、マリエルもアデーレの近くへいき荷物を整理してるふりをしながら僕を見ている、なので眼が合うと慌てて荷物のほうに向き直っている。一方アデーレは特に僕を見る事もなく手荷物の整理、確認している。

 着替えにくい。まぁ裸になる訳じゃないし……、我慢しよう。


 全てが終わり部屋に忘れ物がないか確認し食堂へと降りる。店主に朝食分の代金を払うと昨夜の残り物だからと色々テーブルに並んでくる。香辛料が効いたスープにパスタやパン、封の開いた酒瓶も出てきたが、流石にこれは辞退した。


 全員で食べ終わる頃には日はだいぶ高くなっていた。

 大きく手を振る店主に別れを告げ外にでる。空を見ると多少雲はあるが晴れている。

 町といってもその中は広い、手頃な馬車を停めると全員でその荷台に乗って町を横断した。


「馬を買いましょう、なるべく早く帝国城に着きたいです」


 そう言うのはアデーレである。何故今まで徒歩だったのに馬を買おうと言ったのは、恐らくフローレンスお嬢様の事があるだから。

 僕やマリエルは一日中歩けるが彼女はそうはいかない。かといって、フローレンスお嬢様の為だけに馬を買うとなると、彼女のプライドの事だフローレンスお嬢様は絶対に『歩く』と言いそうだ。


「そうですね……僕もそれがいいと思います。問題はお金ですかね」

「ああ、それだったら大丈夫よ。取り合えず帝都まで付けば帰りの分は送金されてくるから、景気欲全部使ってもいいわよ」

「なるほど、副隊長にお金の打診もしたんですね」

「そ、手紙に書いてきたから怒っていると思うけどファーなら送ってくれる――はず。たぶん。きっと……」


 段々と語尾が弱くなるマリエルにアデーレはしっかりと返事をする。


「わかりました。それでは緊急用を残して一気に駆け抜けましょう」


 町の外門の近くまで送って貰い、僕とフローレンスお嬢様、それにマリエルは先に門前で待っていた。

 アデーレは馬と最低限の荷物を買いに近くの店に入っている。

 この四人の中で一番買い物が上手と思うから……、あまり役に立たない三人組みはこうして街道の端で待っている。


 王国と違いこんな大きな町でも門兵はいるが自由な感じである。僕らを見ては手を振って愛想を振りまいていた。


「自由ですね」


 兵士の姿を見て呟く。


「本当自由よね。王国が厳しすぎるのかしら……」

「私は村を出た事無いから良くわかんないけどヴェルそうなの?」

「空気ですかね。話に聞いていた帝国は軍事力が凄く皇帝の命令一つで町を直ぐに滅ぼす集団と聞いた事があります」

「なるほど、それで実際カーヴェの町が滅ぼされたわけね」

「え、ヴェル本当なのっ」


 僕が体験した未来であり、今は滅ぼされていない。僕はフローレンスお嬢様に首をふった。


「いいえ、滅ぼされてませんよ。ああ馬車が来ましたね。もう少し端に避けときましょう」


 町から出るために街道を走る馬車が見えてきた。貴族が乗るような装飾の付いた馬車。僕は慌ててマリエルに目配せをすると、マリエルは既にフードをかぶり顔を隠している。


 何も知らないで僕らの横を通り過ぎる馬車。その馬車に見覚えがある。

 馬車の窓が開いて中にいる男の横顔が見えた。カーヴェの町で出会った第二騎士団団長マキシム。時期王位継承権を持つ男、ジャッカルの報告であの男がマリエル達が死ぬ原因を作った男。それが乗る馬車が今横を通り過ぎて行く。


 僕は無意識に剣の柄を握り締め走り出す体制に入る。

 走り出すために一歩前に出ると、何時のまにか一本の剣が刺さっており、ぶつかりそうになる。その手前で何とか止まると磨かれており僕の顔が薄っすらと映りこむ。


 顔を上げると眼だけを出しているマリエルが首を振る。

 直ぐに門兵が僕らの前に走ってきた。

 いくら平和そうに見えても門の前で剣を抜いたら流石に騒ぎになる。

 

「ああ。転びそうな弟を助けようとしたら剣が勝手に飛んで言って。ごめんごめん」


 マリエルが門兵に適当な言い訳をして謝ると門兵も納得したのが詰め所へと戻り始める。入れ違いにアデーレが二頭の馬を引いて戻ってきた。


「ヴェル――」

「ああ、すみませんフローレンスお嬢様。転びそうになってしまって」

「そ、そう。ならいいんだけど……」


 マリエルが停めに入らなかったら僕はアイツを殺しに言っただろう。マリエルもそれに気づいて僕を止めた。

 アデーレが「何かあったんですか?」とマリエルに聞くと「なんでもないわよ」と普段どおりの声で答えているのが耳に入った。


「では、行きましょうか。フローレンスさんはヴェルさんと一緒がいいですよね」


 僕もそのつもりで一頭の馬のたてがみを優しく撫でる。


「えーっと、アデーレさんと一緒がいいかな」


 思いがけない言葉に僕とマリエルはフローレンスお嬢様を見る。少し怒った口調で僕らに反論する。


「だって、ヴェルと乗ると乗り方が乱暴で吐きそうになるんだもん」


 ああ、確かに前回は無理やり馬を走らせていたので乱暴だった。


「なる、ではアデーレにたのむねー。んじゃヴェル、先にのって私が後ろからサポートするね」


 二頭の馬に別れて街道をゆっくりと走る。このペースならかなり早く帝国城へ着くだろう

 少し先にアデーレ達の馬の背がみえる。

 僕は馬の手前にのり背後にマリエルが乗っている。最初に会った時と反対だなと思わず呟いた。何かあってもいいように一緒に手綱を握っているマリエルの声が聞こえた。


「なにがー」

「いえ、何でもないです」

「ふーん。最初は私が前だったのね」


 しっかりと聴いていたらしい。僕は素直に返事をする。


「ええ、まぁそうですね」


 馬の歩調が弱まる。僕が操作しているのではなくマリエルが馬のスピードを落としているからだ。


「思えば最悪な出会いよね、私達」

「確かに、牢屋の中でしたからね」

「ああ――そうだよね」


 歯切れが悪いマリエル。顔を後ろに向こうとすると、手で無理やり前を向かされる。


「手綱を握っているのに横を向かない」

「はいっ。有難うございます」

「別にこれ位礼を言われるほどでもないわよ」

「いえ。さっきも止めてくれて」


 僕が攻撃をしようとしたのを止めてくれたお礼を言う。


「あーあれね、気持ちも解らなくはないけどもう少し後先を考えないと」

「反省してます」

「ヴェルは頭が良いのか悪いのか……」

「僕ですか、悪いですよ」


 少なくともマリエル達失い、過去に逃げるぐらい頭が悪いですよ。と心の中で呟いた。

 

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