表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/61

第五十話『やっぱり彼女等はかってである』

 僕は今ベンチに座っている。軽い汗を掻かされた後、半ば強制的にマリエルの隣に座っているからだ。何を話していいのか無言になる。隣では笑顔のマリエルが畳んであるフード付きマントに袖を通していた。


「あの」

「ん、なーに?」

「根拠がしりっ……たいです」


 自分でも声が上ずっているのが解る。


「色々あるんだけど。どれから聞きたい?」

「色々あるんですか……」

「そうね。でも、暗くなって来るからもう帰りましょうか」


 行きと同じく帰りも無言で歩く。僕が未来人、過去をしる人間としってマリエルは僕をどうするのだろうか。未来の情報を聞き出し一攫千金でも狙うのか……でも僕はそんな情報はもってはいない。

 足を止め振り返るマリエル、自信たっぷりに僕へと口を開いた。


「私はきっと、ヴェルの世界では殺されてるのよね」


 余りにも自然に言うので言葉を失う。僕がたとえ違うと言っても信じて貰えそうにない。

 

「殺されてると思っている割には、随分明るいんですね……」

「まぁね。逆に君はいっつも暗い顔よ」

「それは昔からですので」

「占い師でもない。私達を知っている。アデーレの名前すら知っている。微妙に私達を庇う。盗賊の団員でもない。さらにっ」

「まだあるんですか」

「その強さね。私しか知らない動きするのよね、私の使う攻撃を予め知っているかのように捌く。それ絶対に継承よね」


 笑顔だったのが何時のまにか真っ直ぐに瞳を向け、真面目な顔になっている。


「だとしたら、どうするんです」

「ほら、そこよ。普通の人なら継承って言葉も知らないのよ。うちの所じゃ私とファーぐらいかなぁ……基本篭手は壊すしっ。君の力それ私の力よね」


 墓穴を掘った。


「別にどうもしないわよ。まっ。でも、君が。ううん、ヴェルがいくら何を思ったとしても気遣いは無用って事、未来は知らないから面白いのよ」


 ああ、やはりマリエルはマリエルなんだなと僕は思った。自然に口からため息が出た。正直に話そう。今ならこんな馬鹿げた話でも彼女は信じてくれそうだ。


「解りました、大体あってます。でも一つ言わせて貰えばもう、僕の知ってる未来と今は違っていると思ってます」

「そうそう。最初に会った時から何か考え込んでるというか、あれね。過去は……うーん私にとっては未来なのかな……」

 

 腕を組み唸るマリエル。


「過去でいいか、過去に捕らわれていも何も良いこと無いわよ。喋って気持ちが楽になるなら私はいくらでも聞くよ」

「そうです……ね。祭り前日の事でした――」


 僕は帰り道にゆっくりと話す。

 祭り前日に村が襲われた事、マリエルが助けに来てくれた事、篭手の事。王都でマリエル達が死んだ事を聞かされた事、そして過去に戻った事。


 全てを黙って聞くマリエル。話が終わった所で不思議な顔をしている。


「えーっと、その篭手で過去に戻れるから戻るまでは解った。でも。その助けて貰った恩義で過去に行くって事と、ファーが私の篭手をヴェルに託す意味がちょっと判らんないんだけど」


 最もな質問だ。言える訳がない、マリエルが好きでした。あの晩マリエルと肌を重ねました。マリエルも僕の事を遠からず好きだった、かもしれないなど。


「恩義があったので」


 もう。これで通すしかない。力強く言うとマリエルの細い目がますます細くなる。

 

「ふーん……」

「恩義ですよ、命を助けてくれ生き残った僕を王都まで運んでくれた人が死んで僕が生き残るよりもマリエル達が生きて欲しいと思っただけです」

「ふーん……まっ、今はそれを信じてあげましょう」

「どうも」


 宿が近くなったので話を終えたマリエル。なんとか僕の疑惑は少しは晴れた。

 扉を開けると愛想がいい店主がこっちをチラッと見てくる。


「おう、お嬢ちゃん達か。若いのに大変だねぇ、他の子なら上にいるよ二階の一番奥だ」

「どうも、ありがとう」


 何が大変なのかわからないが、マリエルは明るく言葉を返すと二階へと上がっていった。 一番奥の部屋に入ると、ベッドが二つある小さな部屋であった。壁にはフード付きマントが二着掛けれていていた。


 フローレンスお嬢様は既にベッドで寝ており。アデーレもその横の椅子に座っていた。


「お帰りなさい」

「ただいまーっと」


 小さな声で喋る二人。僕はもう一つの椅子に座るとマリエルも開いているベッドへと腰掛けた。

 夜飯を食べた後がありアデーレが僕達に勧めてくる。まだ暖かいパンであり、切り込みが入れられ中に野菜やソーセージ、チーズなど挟まれている。

 一口食べるとチーズが程よく溶けていて食欲を増大させた。


「美味しいっ」

「隊長、口元にソースが付いてます」


 ポケットからハンカチを出すアデーレ、マリエルはそれを受け取ると口元を拭う。


「そうそう、アデーレ聞いてよ。ヴェルは篭手の力で未来から来たんだって」

「そうなんですね」


 普通に会話がなされ、僕は思わず口に含んでいたパンを吐き出した。アデーレが別のハンカチを僕にそっと手渡してくる。


「どうぞ。ヴェルさん、口元が汚れてますよ」

「あ、ありがとう」


 寝ていたはずのフローレンスお嬢様の体がゆっくりと置きだした。

 眠いのだろう、目をこすりこっちを見る。


「ああ、お帰りヴェル。悪いけど眠いから静かにして……」


 もう一度布団に戻ると薄い毛布を頭までかぶる姿を確認する。

 僕はマリエルを見ると、口元に人差し指を立て静かにとポーズを取らされた。

 口の中に残っていたパンを無理やり飲み込むとマリエルを見る。

 僕はなるべく小さな声を出そうと心掛けてマリエルに詰め寄る。


「あのですね……なんでそう直ぐに言うんですかっ」

「え。秘密だったのっ。君の、ううんヴェルの負担が軽くなる様にって思って」

「そりゃどうも、でも普通こんな話信じません」

「隊長が言うんだ。私は信じるよ」


 アデーレが静かに僕に語りかけてきた。


「ほら、信じてくれたじゃない」

「えーっと。アデーレが信じても、余り回りにいうとマリエルが頭おかしい奴と思われます」

「言いたい奴に言わせばよくない?」

「良くないです」

「でも。うーん……まぁ。ヴェルがそういうなら黙っとくわよ、所であのジンって男に心当たりある?」


 話題を変えられて怒る矛先を見失った僕。ジン、フローレンスお嬢様を連れ去り、オーフェンも連れて行った男。腕には僕と同じ篭手をしていた。


「ないです……」

「気づいてた? あの男、ヴェルと同じ篭手をしてた事」


 黙って頷く僕。


「なるほど。それで私達の名前を……ではジンも篭手の力で未来から来たと?」


 アデーレが僕をみて確認してくる。

 僕は黙って首を振るしか返事は返せない。


「ごめん。僕が知っている未来ではジンとは会ってはいない。それ所が僕が知っている未来はもう殆どが変っている。カーヴェの町が襲われて第七部隊は全滅した。でも、今現在でもカーヴェの町が教われと話は聞きません」


 アデーレが小さく頷くと一言喋る。


「作戦指揮は、マキシムか……隊長。やはり王国へ戻ったら彼を直ぐ処刑すべきです」

「あの、僕はまだ何も言っていないんだけど……」

「ああ、そうだったな。悪いが第七部隊がそう簡単に全滅すると思えない、そうなると指揮官が別にいるというのが私の考え」

「アデーレの言いたい事もわかるけど。アイツ一応は王位継承権もってるからねっ」


 呆れた顔でマリエルが喋ると、無表情のアデーレが押し黙る。


「王位ですか……」

「そうなのよ。ヴェルが何処まで知っているがわからないけど、王国も一枚岩じゃなくてね。私としては別な人を推薦するわ」


 名前こそ隠しているが、恐らくファーの事だろう。知っているが黙っている事にする。


「さて、あまり話しているとお姫様が起きちゃうから寝ましょうか」

「わかりました」


 アデーレが座っている椅子からフローレンスお嬢様が寝ているベッドに横たわり毛布の中へ体を潜らせた。

 マリエルも開いているベッドへと横になる。毛布を片手で開き空間を作るマリエルは僕を手招きしていた。

 僕は椅子に座ったまま固まった。

 

「いやいやいやいや。おかしいでしょっ」


 大きくなりそうな声を無理やり小さくし、意義を唱える。

 反対に寝ていたアデーレの声が背中越しに聞こえてきた。


「ヴェルさん、節約の関係上部屋は一つしかありません。大丈夫です、宿の主人には兄妹という事にしてますので、では明日も早いのでお静かにお願いします。」


 何が大丈夫なのか何か駄目なのか、まったくもって根拠が無い。

 身振り手振りで僕は床に寝ますとマリエルにジェスチャーすると、マリエルは黙って首を振る。布団の上を軽く叩く仕草を始めた。

 

 僕はもう一度無言で首を横に振る。外を指差し外で寝ますと合図する。まだ気温は暖かいし野宿なら何度もある、なんだったらオーフェンと旅をしてた時だって野宿は当たり前だったし。


 そういえば、以前の野営キャンプの時もマリエルは一緒に寝ようとしていた。女性としての感覚はどうなっているのだろうか……。

 僕がマリエルを白い眼で見ていると、気づいたのか腕を引っ張り強引に毛布の中に押し込んだ。

 マリエルのお腹が目の前にあり女性特有のにおいが毛布の中に広がる。そして背中を見せた。恐らく壁側に顔を向けたのだろう。そりゃそうか……。


 変に意識してた自分が恥ずかしい。僕もマリエルと背中を合わせる体勢になり瞳を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=245169854&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ