第五話『弱き力なき者』
馬の悲鳴が聞こえる。直ぐに大きな音と共に馬の鳴き声は聞こえなくなった。
僕らは裏口から逃げようとして見事盗賊団に捕まった。
盗賊団は、僕らを縛り上げると地面にバラバラに転がし、飼っている馬を淡々と殺した。
盗賊は全員が姿は闇に紛れる為か、全身が黒い服を着ていた。顔もわからない様に大きめの革マスクで隠している。唯一違うといえば腕に付けている黒いリングの数だろう。僕らを縛り上げた奴が一個のリングを付けており、見た限り一番人数が多い。
馬を殺したのは二個のリングを腕に着けていた。
普通の盗賊団に見えない。それが僕の第一印象である。
四個のリングを付けた大男が、縛り上げている村長へと何かを問う。青白い顔をした村長は静かに頷いた。
大男が子分に何かを伝えると、家へと入り直ぐに出てきた。
子分の手には祭具である箱がしっかりと握られていた。
大男が箱を受け取ると地面に転がっている村長の所へ行くとしゃがみ見せ付ける。何かを言っているらしいがバラバラに転がされた僕には何を言っているかはわからない。
満足したのか大男が立ち上がると、手を振りかざした。
僕は嫌な予感がヒシヒシと感じられる。
盗賊時代に習った縄抜けを必死にためすも、中々解けない。
リングが一個の黒服が背後から村長の首を切り落とした――。
思わず僕は固まった。驚いた夫人が呆然としてると、夫人も切り殺される。村長宅は既に火をつけられ赤く燃え始めていた。
フローレンスお嬢様の横顔が赤い炎に照らされて神秘的に映る、既に目は焦点が合っていなく考える事をやめたような目だ。
縄が外れた。
無意識に体が動いていた。フローレンスお嬢様を守らなければっ。
「あああああああああああっ」
雄叫びが耳を通り過ぎる。自分の口から出しているという感じはしなかった。フローレンスお嬢様の目に生気が戻り僕を見ている。
「ヴェ、ヴェル――」
今にもフローレンスお嬢様の首を切り落としそうな盗賊に体当たりをぶつけると、その剣を奪う。
反対に地面に転がった盗賊へと迷う事無く剣を突き刺した。
転がされているフローレンスお嬢様の手足の縄に切れ目を入れる、周りが緊迫した空気になる中、三個のリングを付けた大男の目が笑っているのがマスク越しに見えた。
格が違う。全身に鳥肌が立つ。僕の背後に今は盗賊は居ない。
「はぁはぁっ。お、お嬢様。逃げてください」
「ヴェルは、ヴェルも死んじゃうのっ」
「いいえ、死にません。死にませんから逃げてください」
「やだっ。ヴェルも一緒じゃなきゃやだっ」
僕は小声で話しかける。
「わかりました。僕があの大男に切りつけ直ぐに逃げますからお嬢様は先に逃げてください、後ろの森を抜ければタチアナの町に行く途中に小さな店、そこに行く近道があります。そこまで行けばなんとかなるでしょう」
「う、うんっ」
悲鳴も上げずに絶命している盗賊の体から剣を無理やり引き抜く、少しでも時間を稼いでフローレンスお嬢様を逃がさなければ。
後から追いつくといっても僕の腕前はで無理だろう、大男は動かず僕の戦い方を見てるだけだだから。
数人の盗賊が僕等へと向ってくる。その剣をさばき逆に斬り付けた。
当りに生臭い匂いが充満してくる。フローレンスお嬢様も何とか立ち上がり背後で逃げる準備をしている。
「一二の三でいきますよっ」
背中に居るフローレンスお嬢様に喋りかける。パニックが収まってきたのか小さく、そして力強い返事が返ってきた。
一、二、三っ。心で数字を数え一気に大男へと切りかかった。大男は嬉しそうな顔をし僕の剣を腕一本で受け止めた。
鈍い金属音が響き、直ぐに剣先から手に大きな振動が伝わってくる。
剣を落としそうになり堪えると、残った左腕で僕が持っていた剣を無理やり奪い取って来た。
その表紙に僕の体は遠くへ飛ばされ地面へと投げ出される。
「や、やめ。やめろ……」
大男が僕の持っていた剣を無造作に投げた。お嬢様が逃げていった森の方角で鈍い音が聞こえ。短い悲鳴と共に人が倒れる音が聞こえた。
もう、守るべき物も何もない全身切り傷まみれの僕は力なく地面へとうつ伏せになった。
倒れた僕の側に誰かか座り込む。髪をつかまれ無理やり上へと向かされると大男のマスクが見えた。
「その歳でためらいも無く剣を振るう勇気を認めよう。我の仲間に入らないか、実力主義の軍だ。その度胸なら直ぐに二等ぐらいには成れるだろう」
仲間? 仲間とはなんだ、二等という事はリングを二個つけた集団か、村人いやフローレンスお嬢様すら守れないのに生きていてどうする。
そもそも僕は六年前に死んでいて当たり前の人間なんだ。
「――断ります」
「そうか。残念だ」
引っ張り上げていた髪から手を離した。
遠くから馬が駆けてくる音が聞こえた。地面に近いので僕はそれがよくわかった。
周りがざわつくと直ぐに金属音が聞こえ人が倒れる音。
痛みの中顔を上げると。フローレンスお嬢様と同じ金髪であるが、こちらは髪が短く、切れ目の女性が中腰になっていた。
「すまない少年、もう少し早く着いていれば……」
僕に言葉を掛けると剣を握る右腕がみえる。その右腕には真紅の模様が入った篭手が付けられていた。
「我が名は、聖騎士マリエル。ここが王国内と知っての狼藉であろう。我が剣、折れるまでお前らを討つっ」
マリエルと名乗る女性が次々に盗賊を切っていく。僕にとっては踊るように舞っているように見え、その横で盗賊が倒れていく。
ざっと十数人を切ったにも関わらず息切れ一つしてなく片手に持った剣先を真っ直ぐに大男へと向けていた。
大男の目が笑っている。死んだ盗賊の剣を取るとマリエルへと向き直った。
一瞬で双方が切りかかる、剣と剣がぶつかり数度の打ち合いの後マリエルが唐突に後ろに下がる。
その表情は最初に見せた余裕よりも焦りの色が強い。
「まずいな。少年よ……かっこよく助けに来たはいいけど。逃げなさい。後ろに私が乗ってきた馬があるから」
マリエルが僕に喋ると対峙している大男が口を開く。
「目撃者は全て排除するべき。そう命令されているんだがな。思わぬ手土産が出来た」
大男が剣を捨て一気に間合いを詰めてきた。その巨体を地面に突き刺した剣一本で受け止めるマリエル。
一本の剣を堺に境界線が張られた。マリエルは直ぐに蹴りを繰り出し、そこからの回し蹴りを打ち込む。
大男の腹を強打し、腹から黒い箱が転がり落ちる。初めて見せた大男の歓喜の目がマスク越しに見えた。
僕の前へと転がる箱、空かずの箱である祭具は今は空いており黒い篭手が輝いている。
僕はそっと――。