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第四十九話『バレタ』

 あれから町に入ると。小さな料理兼酒場で僕らは食事を取る。

 テーブルの上には肉と野菜を炒めた物や麺などが並んでいた。四人で食事が終わると誰が喋るわけでもなく、ぼーっと時間を過ごす。

 マリエルが飲んでいたお茶をテーブルに置き僕へと質問する。

 

「で、これからどうするの、やっぱ城に行くの?」


 少しキツメの言い方をするマリエル、フローレンスお嬢様が僕より先に反応した。


「むー、ちょっとヴェルをいじめないでよっ」

「なっ。私は別にイジメなどしないぞ」


 マリエルとフローレンスお嬢様を眺めてため息を付く。アデーレは静かに食後のお茶を飲んでいた。僕は改めて礼を伝える。


「所で何もかもすみません。お金借りてしまって」

「ん? 別に何かの縁って事だし。ヴェルが気にする事でもない」

「そうよ、帰ったらパパに頼んで直ぐ返すわよっ」

「お嬢様。今回はお嬢様の分も借りてますので余り怒られては……」

「うわ、ヴェルってばひっどい。私よりマリエルさんの肩を持つんだっ」

「いやあのですね」

「隊長。豪語するのはよろしいですが残っているお金はこれだけです」


 静かにお茶を飲みきったアデーレが皮袋をテーブルに置いた。僕達は喋る事を辞めてその袋の中身を見せてもらった。

 金貨が数十枚に銀貨や小さい宝石が幾つか入っている。一人旅では余裕十数日ほどもつが四人では単純に考えても四分の一。旅をするのには辛い金額である


「あの。やっぱ三人とも帰ったほうが――」


 僕の提案を手で止めるマリエル。


「そっかー。思ったより無かったわね。でもまぁ。節約すれば行けるでしょう。フローレンスさんもそれで良いかな」

「むー。そうね。いいわ、我侭は言わないようにする」

「と、いう事ですヴェルさん」


 最後にアデーレが閉めテーブルは静かになった。


「まー何にせよ。私達の正体気づいているのに城まで来いって罠かな」

「その可能性も無いわけじゃないですけど。無闇な戦闘をさけたんですし、僕は少ないと思っています。出来れば今日にでも城に行きたいんですけど……」

 

 アデーレが鞄から地図を出す。現在地は此処ですね、と帝都より二つ前の町を指差した。

 

「地味に遠いわね」

「そうなんです。今から良くと次の町には夜になりますね」

「となると、今夜はこの町に泊まりって事で。アデーレお金ちょうーだい」


 手を差し出すマリエルに、アデーレは金貨四枚を握らせる。お母さんと子供に見えて笑いを我慢する。


「ありがと、こうなった以上、一応ファーに連絡入れとく手紙屋さんぐらいこの町にもあるわよね」

「ああ。それだったら僕が知ってますね」


 オーフェンがフランへと手紙を出すのに立ち寄った事があるからだ。


「んじゃ。案内よろしくっ」

「では、部屋のほうを取っておきます。フローレンスさんはどうしますか?」

「えっ。私。うーん、アデーレさんと一緒に部屋で待ってる」

「じゃ、解散って事で」


 マリエルの号令で僕らは動いた。

 アデーレとフローレンスお嬢様は、今食事をしているこの宿で部屋を取って待っている事に決まったので僕とマリエルは外に出た。


 フードから腕をだして背伸びをするマリエル。そして僕を見る。


「じゃ、よろしく」

「はぁ」


 大まかな方向を指をさし道を伝える。僕は黙って歩くとマリエルも黙って動く。

 暫く歩くと、マリエルは突然僕のフードを掴んだ。


 僕は止まってマリエルを見ると、マリエルも止まり左右を確認していた。僕も同じように左右を確認する。道幅はそこれほど大きくもなく昼を過ぎた今はでは人通りも少ない。

 

「えっと、なんでしょう」

「その。あーもう、先に言うわ。ごめん」

「何がです?」


 マリエルと再会して、まだ少ししか経っていない。謝られる理由がまったく思いつかない。


「あのねー……私は君を殺そうとした。それに対してよ」

「ああ、僕はともかくマリエルが無事でよかったです」

「そりゃどうもありがとう、って違うでしょっ」

「知ってます。僕の方は余り気にしてませんので大丈夫です」


 最悪の未来は回避出来た、それが解ればひとまずは僕が殺されかけたぐらいは良いだろう。


「ヴェルはマゾか何かなの? それだったらマリエルおねーさんちょっと引くわあ」

「違いますよ」

「そ、そう?」


 違うと言っているのに軽く引くマリエルと道を歩く。

 手紙屋が見えてきた。僕は店の前で待つことにする。

 直ぐにマリエルが店から出てくる。


「お待たせっ」

「いえ、特に待ってもいませんか」

「さて。ちょっと歩きましょうか」

「はぁ」


 段々と人通りが少ない場所へと歩くマリエル。いづぞやの模擬戦を思い出す。

 建物も無くなり、少し広めな公園に出た。

 子供向けに作られた遊具があるが今は誰も使ってない、それ所が人がいない。


「えっと、手紙屋の人に教えて貰った場所なんだけど。さて、ヴェル剣を抜いて」

「はっ?」


 なぜ此処まで来てマリエルと戦わないと行けないんだ……思わず間抜けな声が口から洩れていた。

 マリエルのほうはフード付きマントを外しており畳んでベンチへと置いている。


「ちょっと、早くそれ脱いで構えてね」

「あの。一時休戦って事で戦うのは今度って事に」

「んー……いいからいいから。これ以上待たすと、本気で殺すよ」


 さらりと怖い事を言うマリエル。訳もわからずフードつきマントを脱ぎ同じくベンチへと置いた。

 マリエルは僕の剣鞘を見ると、柄、鞘、顔を交互に見ては、とうとう鞘へと触りだした。


「えーっと。マリエル……さん?」

「ああ。んーん、ごめん。なんで貴方が、ヴェルがこの剣を持っているが不思議なんだけど。取り合えずは今はいいわ。それジャ、此処に立っていて、今度はだまし討ちじゃないから安心して」


 僕から数十歩離れるマリエル。大きく手を振るので僕は控え目に手を振る。

 マリエルが剣を斜め下に構えてにっこり笑う。

 次の瞬間、その姿は一瞬で掻き消え僕へと攻撃を仕掛けてくる。


 反応が一瞬遅れたが僕も同じく斜め下から振り上げるように剣を抜く。お互いの剣がぶつかり合い、金属音が鳴り響いた。

 僕の体全体に重みが感じられる。足をしっかりと広げないと倒されてしまいそうだ。


 マリエルの気合の声が口から洩れると、後方へと引くマリエル。

 僕は肩で息をしながら剣を構えたままマリエルを見ていた。


「うーん。やっぱりか……よし。次行くよ――」 

「はっ? 次って――」


 僕の声を聞いてなく、抜いた剣を鞘に収めるマリエル。体を中腰にして一瞬で間合いを詰めてきた。

 彼女の間合いから体を離す。なおもマリエルは足を動かし踏み込んでくる、剣を抜くマリエル、当然居抜きの間合いは外しているが僕は知っている次に来る突きの攻撃を。

 

 薙ぎ払った腕を聖騎士の力で強引に止め、突きの形にもって行く。僕は冷静にその距離を計り後ろに下がった。

 突きの形のまま固まるマリエル。納得したのか元の位置に戻っていった。


「んじゃ、ヴェルー私がしたのと同じ事してー」


 元気な声で僕に命令をしてきた。 

 同じ事と言っても僕も困る。

 僕が困っていると、「早くしなさい」と怒り出してくる。


「じゃ、あの。じゃぁ行きますよ」


 確か斜め下からの攻撃。先ほどの僕と同じように攻撃を捌くマリエル。力を入れてもマリエルの体は動かず、僕は直ぐに離れた。

 そして剣を鞘に納め。居合い抜きの構えを取る。

 一気に僕はマリエルへと突進する、居合い抜きの構えからの突き。同じようにマリエルは捌いて行く。


「えーっと終わりましたけど。これでよかったんですか」

「うんうん。次に手を前にだして」


 訳が解らないままに言われたとおり両手を前に出す。小さい頃よく遊んだ前に習えというポーズである。

 足を一歩前に出して、といわれて。一歩前にだす。その横でマリエルも同じように一歩前に出している。


「よし組み手しよう」

「あの、本当に訳がわからないですけど」

「えーヴェルは頭良さそうなのに……」

「どうも……」


 マリエルは剣すらも腰から外すので、僕にそれも習う。お互いに数人分の距離を離れ左足を一歩前にして礼をする。

 気分が良いのがマリエルは何度も頷く、直ぐに顔つきが変り僕へと攻撃を仕掛けてきた。


 暫く下後、僕は地面へと大の字になっている。呼吸が荒くなり今は深呼吸をしようと勤めていた。


「しゅうりょうー。ありがとうヴェル」

「ど、どういたしまして。う、運動不足でしたらアデーレとやってくれると助かります」


 息を切らさず。僕の横で座り込み、顔を覗かせているマリエルへと喋った。

 僕をみては顎に手を当てて遠くを見ている。


「アデーレじゃダメなのよ」

「そう、なんです、かっ」


 息を整えゆっくりと喋る。上半身を動かし地面へと手を付くとマリエルがフード付きマントを持ってきてくれた。

 

「ねぇヴェル。君は別世界、いや若しくは未来から来た人でしょ」


 マリエルの直球に僕は再びむせ始めた。

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