第四十八話『救出作戦そして』
僕らは街道を歩いている。
先頭には僕、右にフローレンスお嬢様、左にマリエルで背後にアデーレである。
僕とフローレンスお嬢様も今は古いフード付きのローブを体に巻いている。
一軒の休憩所に入る。付かれきった店主が店の裏からのっそりと出てきた。
「いらっしゃい。悪いがあんまり持てなせねえけど、ゆっくりしていってくれ」
「どうかなされたんです?」
背後にいるアデーレが店主へと質問すると、ため息とともに話してくれる。
「いやね。ついさっきまで兵士の人が居たんだけど何処かの賊が襲ってきてね、煙でる奴は投げ込むは、馬は盗むは、店にいた旅人は怪我をしたり。もう人生の厄日がいっぺんに来た感じだよ」
「ご愁傷様です。賊は捕まったんですか」
「ああ、一人捕まえたらしいなぁ。丁度良く檻を運んでいたらしくそれに入れて旅立っていたよ」
僕はほっとため息を付く。よかった殺されては居ないみたいだ。
そう僕達は、直ぐに帰らずに先ほどの現場へと来ているのだ。
「ありがとう」
アデーレが僕の代わりに返事をすると店主がフードの隙間から顔を覗き込み驚いている。
「なんだ、男かと思ったらねーちゃんなのか」
「ええ」
僕達をゆっくり指先で数えると、白い歯を見せ笑い出す。
「男一人に女三人とは、兄さんもてるなっ。毎晩大変だろう」
軽い冗談を飛ばしてくる店主発言を聞いたマリエルは、「何言ってるのよっ」と張り倒す。力の加減を忘れたのか店主が数十歩先まで吹っ飛んでいった。
「ご、ごめんおじさんっ」
「げ、げっふ、言いって事よ。こんな事はよくある事でな。っと、嬢ちゃんかた能力者か何かか。その篭手」
「えっまぁ。そ、そんな感じ」
答えに詰まるマリエル。そりゃ聖騎士とはいえないよ、と見ていると店主は笑顔で返事をした。
店主の話によるとこういう怪我は結構あるから慣れているとの事。
「でも、それじゃ特別な力を持つ人が襲ってきたら怖いんじゃないの?」
フローレンスお嬢様の発言だ、王国では聖騎士は憧れの的でもあるが畏怖する的でもある。
「まぁな。しかし力が在ろうか無かろうか問題は使う人間によるからなぁ。こんな可愛い子も居れば、さっき来てた黒眼鏡の何考えているかわからん兵士も居るぐらいだし、あれはもう数人はやってるな」
やってるなという事場の意味は殺人の事だ。僕もそうおもう、僕に向けられた殺気というのを感じたからだ。
なおの事オーフェンが心配である。態々捕まえたという事は直ぐ殺さないとは思うけど、急いだほうがいいだろう。
だからこそ僕一人で動きたかったし、皆には帰って欲しかったんだけど……。
まず、僕が一人でオーフェンの様子を探るというと、マリエルが反対した。理由は僕の不可解な行動や発言を知りたいとの事。
後で必ず説明しますからと説得すると、今度はフローレンスお嬢様が、僕と一緒じゃなきゃ帰らないと言い出す。
そして最後にアデーレも私一人で帰ってもしょうがないだろう。と短く言い、こうなってしまった。
店主が「何か食べていくかい」と声をかけてくる。
朝から何も食べて無い事を思い出す。僕の財布は空に近い事も一緒に思い出した。
アデーレが人数分の軽食を買って来る。使い込まれ油の染みた片手サイズの入れ物には細く切られた芋が油で揚げてあった。
店主が伝える金額が聞こえると町で買う食事の四倍ぐらいの値段である。
「おじさん。美味しいけど高すぎだよっ、これじゃ王国のっ――、なんでもない。とにかくっ周りより四倍ぐらい高いじゃないのよ。少しぐらいまけてよ」
一本を味見しながらマリエルが値切りにはいる、直ぐに指を鳴らす店主。
「ほれ、この入れ物を次の町にいる弟の所へ持って行ってくれ。そしたら金額の半分以上は返金するって事よ」
なるほど、僕達はその商売に関心しながら店主と別れを告げた。
これだったらいくら高いといっても町で買う二倍程度だ、さらには弟の店でも同じ事をしているのだろう再購入者も増える。仮に持ち逃げされても相場よりも数倍儲けれるし旨く考えたもんだな。
なお、値引きはされなかったがマリエルの熱心な頼み込みで果汁たっぷりの飲み物を一本サービスで貰った。
「しっかし、自由よね」
割と大きな声で呟くマリエルにフローレンスお嬢様が「何がよ?」と疑問に答える。
「いや、王国じゃ。いくら商売でもあんな事していたら国から怒られるわよ」
「本当なの? ヴェル?」
「フローレンスお嬢様。僕にいわれましても、僕は旅などした事が無いからですね」
「そう。思っていたんだけど、ヴェルっ! 私はもうお嬢様じゃないんだし、その呼び方はおかしくない」
僕が立ち止まると、全員が止まった。右にフローレンスお嬢様。左にマリエル。背後にアデーレ。
確かに、村を出た僕はもうフローレンスお嬢様をお嬢様と呼ばなくてもいい筈だ。
「ほらほら、そこのマリエルさんみたいに、私の事をフローレンス。って呼んでよ」
難しい質問をしてくる。僕の意見など関係なしに矢次に喋る。
「それとも、マリエルさんの事は名前で呼ぶのに。私の事は子供扱いなわけ? 命令よ命令」
「いや、えーっと。フローレンス……」
僕の返事に眼を輝かせるフローレンス……。
「――お嬢様」
やはり呼び捨てに出来るはずがない。僕の言葉を聞いて前のめりに倒れるフローレンスお嬢様。
横にいるマリエルが何故か勝ち誇った顔をして鼻を鳴らしている。
「やはり君は、それだけ子供っぽいって事だ」
「隊長のほうが子供っぽいです」
背後から喋るアデーレに言葉を止めるマリエル。僕はその光景に少しだけ笑う。
「お嬢様はお嬢様です。ご了承ください、オーフェンが心配ですので急ぎましょう」
「えー……でも、大丈夫と思うよっ」
フローレンスお嬢様の言葉で一歩前に出した足を止めた。
「なぜって顔してるわね。だって私捕まっていたけど不自由しなかったもん、それよりもヴェルが来た時のほうが怖かったよ」
「えーっと。殺される心配とかは?」
「一日二食はあったし、暇つぶしに本や遊び道具の差し入れあったし、そのトイレだって女性の人が付いて来て休憩所毎に住ましていたし。外が見えないが難点だったわね……」
嬉しそうに喋る姿をみて疑問が出る。
「って、ことは何の目的だったんでしょうね」
「私に言われても……あっでも。ヴェルが助けてくれたのは凄い感謝してるからね、いくら待遇が良くても先は不安だし」
「だから、僕としてはマリエル達と先に帰っていて欲しいんですけど」
僕の呟きを聞く三人。マリエルがため息を付く。
「またそれか。君の罪状がはっきりしてないんだ置いて行けるわけないだろう」
「なっ。ちょっと罪状って何よ。村から追い出したくせにまだヴェルを不幸にするのっ聖騎士だからって横暴でしょ」
失言をした、という顔をするマリエル。怒っている、フローレンスお嬢様に対して言い訳を始める。
「村の問題と、彼の問題はまた別問題。フローレンス、君の家族であるヴェルは不明な点が多すぎるのよ」
「不明ですか……」
「ええ、あーもう、面倒。私はファーみたいに頭良くないから直接聞くわ」
僕の歩幅に合わせて歩くマリエル。口では明るく言っているが眼は真剣に僕を見ている。
フードで隠している腰の剣、その剣をいつでも抜けるようにしているのを僕は視線で確認した。
「貴方……ヴェルの言うとおり。タチアナの北東に賊は居た、事前にわかっていた事なので死者は出なかったけど、手練れが多く寝込みを襲われていたら危なかったわね」
「さすっがヴェル。大活躍じゃないって……あれ。でも何でそんな遠くの事わかるの?」
フローレンスお嬢様が僕を褒め、疑問の声を出す。
「そうなのよ。そして直ぐに、フェイシモ村が襲われたと話がきてね。祭具と我侭な尊重の娘がが忽然と消えましたって」
「ほうー、おかしいわね。フェイシモ村には可愛くて美人な村長の娘しか居ないはずですけどー。どこぞの聖騎士様は目も記憶も悪いのかなー」
マリエルとフローレンスお嬢様が僕を挟んで対立を始める。せめて一緒に来るならお互いもう少し仲良くして欲しいんだけど。
「偶然ですよ」
僕は三人に、まったくの偶然だ、という事にする。一人時を戻しました、やはり信じて貰えるか謎であるし。戻した理由がマリエルを助けたい、その気持ちに嘘は無いが、お嬢様が居るこの場所で言えるはずも無い。
それに、フローレンスお嬢様をないがしろしたいわけじゃなく皆生きているその結果に満足もしているからだ。
「本当に偶然と思うか?」
男性の声が僕の耳に届いた。
町の入り口が見えている場所、旅人や商人などが疎らに見えるその街道で黒眼鏡のジンが僕らの前に立っている。
短く喋る男に。僕ら四人は足を止めた。フードから手を出さすに僕は剣の柄を握る。左にいるマリエルも黙って黒眼鏡の男ジンのほうを見ていた。
「そう警戒するな。今は戦いに来たわけじゃない。聖騎士マリエル・グランダーに聖騎士アデーレ・フォス。それとも、此処で戦い被害を大きくするか? 無関係な人間が多数死ぬだろう。フローレンス、こっちに来い」
「っ――」
マリエルの息を呑む声が左から聞こえる。
ジンは呼び捨てにし、右腕を前にだしフローレンスお嬢様を呼ぶも。僕の右腕にしがみ付くフローレンスお嬢様。
「何故拒む。俺は君を不自由にしなかったはずだ」
「うん……でも、怖い」
「怖い? 君が助けを求めている男も過去に何人も人を殺しているんだ。俺と何が違う」
しがみ付く力が一層強くなった。
「オーフェンは無事ですか」
僕はジンに説明をすると、此方をみて口元を笑う。
「今の所はな……気になるなら城にでも来ればいい。会わせてやろう。ではお姫様に嫌われてた俺はこの場を引こう。また会おうフローレンス、俺は今度こそ君を幸せにしてみせる」
ジンは左腕だし発煙棒を数本折ると地面に投げる。直ぐにあたりが煙まみれになり周りの通行人が咳き込む声が聞こえた。
僕は呆然と立ち止まる。ジンが発煙棒を取り出した左腕に見慣れた物があったのだから。




