第四十六話『襲撃前夜』
突然の大雨で足止めも食らうもその後は順調だった。
山を登っては降り。湖に当ると渡し船で反対へと運んで貰う。
ほぼ真っ直ぐに進んで来た僕たち、おかけで今朝ついたシグマという商業都市ではまだジン達、帝国の兵が来る前に先回り出来たのだ。
「予定通りというか順調すぎるな」
「本当気味が悪いぐらいね」
「そういうなって」
嬉しそうなオーフェンに僕も頷く。場所は人が少ない朝の公園である。
朝食を取る事になりベンチに座った。
手には先ほど買った、肉とソースを大量にかけたパンと果物を搾った飲み物を二人で食べる。
口の中に濃いソースの味が広がり、さっぱりとした柑橘系の飲み物で口の中を洗い流す。
オーフェンは、煙球の材料を買いに街に出るらしい。二人で行く事でもないので僕は町を見て回る事にする。その提案に驚き声を上げるオーフェン。
「なっ。俺の買い物に付き合わないのかっ」
「なんで――」
「此間も、別行動した日。ヴェルお前部屋の中にずーっと一人だっただろう、俺は心配をしてだな」
「あー……僕自身が欲しい情報手に入れたら余り遊びには行く習慣がないから。普通はそうじゃないのかな」
村に暮らしている分には別に仕事があるし、町に買い物などもあるが遊びに行くという習慣が余り無い。
自分が遊びに行くよりはフローレンスお嬢様の後を付いていった回数のほうが多い、なので、いざ町に付いても僕自身は何処にも行く気が無い。パンを包んでいた包み紙を畳むとオーフェンに向き直る。
「それに、高い」
「何が」
「物だよ、村暮らしをしていた僕には信じられないぐらいだ」
今僕達が食べた物だってこの町では安いのかもしれないが、村の中では言えば四日分の食費に値する。村と商業都市を比べるのは失礼なんだろうけどそれぐらいの差があるのだ。
「せっかく帝都の近くまで来たんだ、俺がおごってやろう」
「それも断る。気持ちだけ貰っておくよ、それでなくても……」
そう、それでなくても。途中で尽きた僕の旅費はオーフェンが払ってくれている。
「なんだ、そんな事気にしていたのか。高級ホテルに高級素材、そうでもないんだしきにするな。それは作戦で返してくれればいい」
僕は首を横に振る。意思が固いと思ったのだろう、笑顔になりベンチから立ち上がるオーフェン。
「それじゃ俺はいくぜっ宿で会おう。夜中には戻る」
「ほどほどに」
旅をしてからの事を思い出す。四つの町を駆け足で通り過ぎたのだが、何処の町でもオーフェンは自称彼女が働いている店へ僕を誘いだそうする。
最初はまだ良かった、段々と変な店に変っていく。
これから人質であるフローレンスお嬢様を助けたいって言っているのに、そんなお店などに行く気になれない、だから部屋で体を休めているだけなんだけど、それが解ってないらしい。
更に数日が過ぎる。オーフェンが何処かから仕入れてきた情報では明日の昼には西の街道を通るらしい。
街道の周りは大きな草原になっており、人は余裕で隠れる事が出来る。街道沿いにある一軒の出店、そこには馬も繋がれており襲撃場所はその場所に決まった。
僕が横から突進して部隊をかき回す。隠れているオーフェンが実行部隊と補給部隊を見極め背後から発煙球を投げる。僕は直ぐにフローレンスお嬢様が捕まっている檻を壊して、出店の馬へ乗って逃げる。お互いの位置は腕に鈴をを付けての作戦だ。
後は好きなように逃げればいい。と言う訳には流石に行かず、オーフェンからの提案でフランの所まで逃げれば、時期をみてフローレンスお嬢様は王国に帰れるとの事。
彼女の過去は何があったか知らないが、公認ハグレとなっている今でも帝国や王国との上級貴族といわれる一部の人たちと強い関係があり、その辺は抜かりないとの事である。
ファーランスの姉であるフラン、普通だったら王位継承の人物、オーフェンにはその事は話してはいない。
町に出てもする事がない僕は、この数日はひたすら体力の回復に努めた。酒場や口利屋。帝都ではギルドと名乗っている所でカーヴェの話しを探すも平穏無事である事を確認する。
王国内では他国の話しは余りはいって来ないのに、逆に帝国では王国の話しが簡単に入るというのも嫌な話だ。
作戦は明日、僕は早めに安宿へと向かい部屋へとはいった。
オーフェンはまだ戻っていないらしく周りに誰も居ない事を確認してから左腕に着けている篭手を触る。
繋ぎ目が見えない無い篭手を上から下へとさわり瞳を閉じた。
体が引っ張られる感触も何も感じられない。
「ふぅ……今日もだめか」
手ごたえが感じない。まだ過去戻ってからオオヒナと話せては居ない。
過去、いや未来になるのかもと苦笑する、以前に数回同じ感じで別空間に居る彼女と話せたのであるが、今回はまったくダメである。
彼女は確かに『全てを戻す』と言った。時間さえも戻す力、人が使っていい力ではないと、散々使った自分が最近思う。
誰か何の溜めに作った物なのかを彼女に聞いてみたい、他にも質問はあるがそれはあった時にでも聞いてみよう。
今回の作戦が成功したらオオヒナには悪いが篭手は封印使用と思う。マリエルもフローレンスお嬢様も無事。それ所がファーや第七部隊の皆も今は誰一人死んだと聞かない。
僕が本当に好きだった二人はやはりもう居ないのだ。
そして僕はひっそりと何処かで暮らそうと思う。
「マリエル……」
僕が好きだったマリエルに、僕を殺そうと向ってきたマリエル。どちらが本当のマリエルだったのか。一人で呟くと、部屋の扉が開け放たれる。
「うっ」
「なんだー、よう兄弟暗い顔をしてるぞお」
僕が短く叫んだのは、オーフェンから漂う匂いが酒臭いからである。
「僕は暗いかもしれないけど、君は酒臭い」
「まぁまぁまぁ。実は彼女と飲んでいたんだけどさ、別の彼女と鉢合わせちゃって。酒掛けられた。本当彼女達はかわいいぜ」
そもそも別彼女という表現がおかしい気がするが、僕は触れないで置く。
「それは感謝するよ」
「飲めっ」
お礼を言う僕に突然酒瓶を差し出すオーフェン。ああ、だから酔っ払いは困るんだ。コッチの話しを全然聞いていない。
「断るよ」
「なんだぁ。俺の酒が飲めないのかー」
「飲めないから、とりあえず着替えたら。臭いよ」
「お、そうかーならしょうがない。そうだな眠いし着替えるか」
僕の前で着替えるオーフェン。壁を見ながら着替える彼の背中には、一人で付けれない場所にキスマークが何個もついている。
何処で何をしてきてるんだが……。僕がため息を付くと着替え終わったのが冷たい布団に倒れイビキを書き始めた。
夏でよかった、窓を開け空気の入れ替えをしながら僕も布団へと潜り込んだ。
少し寒さで目が覚める。目が覚めるとオーフェンがベッドに座っていた。
「ああ、すまん起こしてしまったか」
「あれ。オーフェン起きてたの」
僕をみて少し笑うとそのまま窓の外を眺め始めた。
「まぁな。酒臭かっただろ。飲みすぎた」
「ほどほどに」
「所で、万が一乱戦になったとしてジンと戦うという事は思わない事、それと万が一俺が失敗したり死んでも振り返るな」
此方を見ずに真面目にいうオーフェン。
「それは僕も……そうだね。失敗する気はないけど、人質救出失敗や僕が死んでも構わないでほしい」
僕もオーフェンも夜空の光しか入らない部屋で無言になる。
ここ数日ともに過ごした友情というか信頼の形だ。
あれから仮眠をし朝早くに宿を引き払う。
数本の催涙筒を受け取り腰へのポーチへと入れた。
大きい街道に出て二人とも無言で歩く。まだ店が開いていない休憩所を確認するとそっと道を外れ背の高さ以上にある草むらの中に身を潜めた。
合図はオーフェンの笛である。笛の音に気をとられている間に僕は背後から攻撃をする。
休憩所の店が開く音が聞こえる。旅人達が挨拶する声、馬の歩く音。
空の日差しが段々と高くなる時。大人数の足音が聞こえた。
軽装ながらも剣を腰につけている黒髪を後ろで縛った男性。その周りに規則だ足しく動く若い男達。
後ろからは馬車が二台ついている。一台はホロがついており積荷を積んでいるのがみえ、もう一つは木で作られて周りに兵がついている。窓は一つしかなく鉄格子になっているのが見えた。
ジン達の一団が休憩所の前へと止まった。馬車の馬が木に縛り付けられ休憩を始める、他の人間達が思い思いに休憩しようとする時、オーフェンの笛が鳴り響いた。




