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第四十三話『継がれる剣』

 真っ暗な小屋の中、薄っすらと人が動く気配がある。何故解るかというと、完全に闇ではなく小屋の壁、主に昼間オーフェンが直した木を打ちつけた所から夜空の光が室内に入っていたからだ。


 音を立てないように動いているつもりであるが、僕にはばれている。

 扉が開く音がし閉められる音。念のために横になっている体を動かし、部屋が一緒のオーフェンの姿を探すと、先ほどと同じく居なくなっている。


「よくやるよ……」

 

 思わず呟くと、遠くから大きな物音が聞こえ。何処かで野生の動物の声が聞こえた。

 何かを引きづる音が外から聞こえた。

 扉が開くと、顔や手足が切り傷で沢山のオーフェンが床へと倒れこむ、律儀にも音を立てないようにしているのは関心した。


 意識が無くなったのか、傷口から薄っすらと白い煙りがでると元の肌に戻っていくのが見えた。

 なるほど、こんなにも早い物なのか。関心すると、オーフェンの指先が床を掴むように動く。


 首を動かし目を開けたオーフェン。僕の目とあうと静かに頷く。思わず声をかけてその決意を聞いてみた。


「いくのかい」

「ああ、俺は諦めねえ」


 場所が場所なら女性が惚れそうな、かっこいい台詞を吐きながら立ち上がるオーフェン。 僕の方を見ると闇の中白い歯を見せ笑っている。


「ほどほどに……」

「任せろ、四度目はないっ」


 直ぐに三回目の炸裂音が聞こえた。戻ってくるはずのオーフェンが戻ってこなかった。

 きっとこの小屋に来る前に力尽きたのだろう。


 鳥が鳴いている。部屋の中は納屋の隙間から朝の光が流れ込んでいた。

 体を動かし自分の状態を確かめる。右腕は相変わらず痛みが走った。


「無理しすぎたのかな……」


 他の部分は以前と変わらず動くようになったので気分はいい。

 小屋から一歩出ると、地面にうつ伏せになっているオーフェンを見つけた。フラン達が住んでいる家のほうからトモとミアが走ってきた。


「ベルにいーおはよー」

「おはよーおはよー」


 オーフェンの背中を踏みつけて僕の前によってくる。その後にフランがゆっくりとオーフェンの背中の上で立ち止まる。地味な服装だというのに何故かカカトが高いハイヒールという物を履いてぐりぐりと踏みつけている。

 彼の背中の上で立ち止まり無意味な足踏みをする、その度にオーフェンが短い悲鳴をあげていた。


「あの。お早うございます。えーっと。そろそろ辞めてあげたほうが」

「あんさんは、やさしいえ。でも、心配しなくてもコレぐらいの傷なら数時間で回復するさかいに。夜這いにくる誰かのせいでこっちは睡眠不足やえ」


 ヒールのカカトをぐりぐりとオーフェンの背中へ刺す、オーフェンの悲鳴が段々と嬉しそうな悲鳴に変わっていく。


 僕ももう無視する事にした。


「その顔つきは決まったのかえ」

「ええ。人質を助けに行きます」

「おや、カーヴェに行かなくていいのかえ」


 挑発するように、僕を見て笑うフラン。

 

「ええ。この気持ちのままカーヴェに行くと助け出そうとする彼女に起こられそうですからね、こっちはこっちで動きます」


 一晩寝ないで考えた答えだ。もしかしたら間違えているかもしれないし、自分よがりなのは解っている。でも、フローレンスを見捨てて助けに来ました、とマリエルに言えるわけがない。想像上のマリエルなら僕を蹴飛ばしそうだ。


 そもそも、時間が少しづつずれて来ている。村が襲われた日、第七部隊が到着した日、其処かの移動日数など、前と同じには動いていない。その誤差にかけるしかない。


「まあ、よくわからん理由やけと、あんさんがそれならウチがとやかくいう事もないねえ、ほい」


 フランが胸元に手をいれると皮袋を一つ取り出した。それを僕へ投げて手渡してくる。左腕でキャッチすると、ほんのり暖かい袋。もった感触からするとお金が入っているのがわかる。


「滞在費などはきっちりと引いてますえ、残りは返しやす」

「いいんですか……」

 

 てっきり帰ってこないと思っていた物だけに思わず聞いてしまう。

 

「ええでええで。暫くの生活費はコイツが置いていくさかいに」

「姐さん、なんだったら金より俺の子種をおいて――」


 余計な事をいうオーフェン、上げた頭をヒールで蹴られる。


「また、玉つぶそうかえ」

「姐さん、それだけは簡便を。直るのに凄い時間かかったんだ」


 思わず内股になりそうな会話を聞き身震いする。

 

「あ、あんさん、ちょいまち」


 思いついたかのようにフランは家へと帰っていく。その間にオーフェンは立ち上がるのだが背中が傷だらけである。

 家から出てきたフランは一本の剣を持っていた。古い皮の鞘に納まった剣であるのが見えた。


「これもっていき、ウチが昔使っていたボロさかいに、放置していたから錆びているかもしれへんけど」


 手渡された剣は柄の部分から綺麗に磨かれておりとても放置していたとは思えない。剣の柄の部分は模様があったのか削られた後がある。


「もらえません。こんなに手入れされて大事になっている物」

「なら俺が」


 僕の言葉に即答するオーフェン。フランが軽く手を二回叩くとトモとミアがオーフェンの手を引っ張り遠くへ走っていく。

 足を引きずられ僕の視界から消えていった。何事も無かったかのように喋るフラン。


「貰っときえ、本当は拾い子であるトモかミアに残しておいたんやけど。あの子らは剣よりも体動かすほうがすきみたいやし。ただ眠っているよりはええ」

「貰う義理もありません」


 僕が剣をそのままフランへ押し返そうとすると、フランはその剣を更に僕へと渡そうとする。お互い無言で剣を押し付けあうと顔が近く眉を潜め口元が震えてくるフラン。


「…………あんさんな。ウチがやるっていうてんねんえ」

「怪我を手当てしてくれたのは感謝しますし、旅費を返してくれた事も感謝します。しかしこれ以上僕に何かをして貰っても返す当てはありませんし」


 素直に何かを頼んでくれたほうが僕としても気が楽だ。もっとも。以前の温泉での出会いがあるから余計に勘ぐってしまうのはあるんだけど。

 遠くから叫び声が近づいてくるとトモとミアがオーフェンの両腕を沸きに抱え走ってきた。オーフェンは後ろ向きに引きずられ疲れた顔をして僕とフランの間へと割ってはいる。


「よ、よう。出発の準備できたか」

「ママーお話終わったー?」

「どうするー」


 三人の質問を聞いてフランは小さく首を振る。


「いってきまーす」

「ごーごー」

「ま、まてっすこしは手加――」


 悲鳴が小さくなり、三人の姿が視界から消えていく。


「もう、面倒だから正直にいいますえ。これはウチのためでもあるえ」

「と、言うと」

「あんさんを助けた時に名前を言っていたっていったねんえ」

「ええ」


 確かに、昨夜そういう話をされた。恥ずかしい記憶である。


「あれな。マリエル。聖騎士第七部隊のマリエルの事やろ。ウチかてその名前は重々しっとるし、そのなえ」


 突然左右を見渡すフラン。周りに誰も居ない事を確かめると、突然僕によって来る。

 耳の横に手をあててくる。僕の視線では彼女の胸元が見えるために目を閉じた。


「副団長のファーランス、あれウチの妹やえ」


 あまりに驚き目を開けると既にフランは一歩引いていて僕に剣を再び突き出してくる。


「いや。でもあの。公認ハグレって……、そう。それにミントも殺そうと」

「あれま、あんさん。そんな事はしっていたんえ。なんで公認なのか訳しらへんかったんえ? それにミント。あんさんミントもしっとるんです。殺す殺さない話はわかりまへんけどな。憎たらしい子供にはお仕置きが一番や」


 あれは、殺そうとしてなくてお仕置きだったのか、と思い出す。それにしてはやり過ぎなきな気もするが、すぐに「だから」と呟くフラン。僕の顔をみて大きく喋る。


「あんさんが動く理由はしらへんけど。あんさんが助けようする人が助かると自然に妹も助かるえ。これで納得したかえ、それに――」

「えっと、まだあるんですか」

「そうやえ。別にあんさんに全てを掛けている訳じゃなく保険ってわけえ。わかるやろ」


 なるほど、保険か。それなら納得もする、別に僕がどうこう気になるって訳じゃなく目的のための保険。

 遠くから野獣のような叫び声が聞こえそれが近くなってくる。

 今度は何故かオーフェンがトモとミアを抱えるように両手に掴み走って来た。


「ハァハァ……まとまったか?」


 僕とフランの顔を見て確認してくる。話はまとまったはずなのにフランは小さく首を振る。それを見ていたオーフェンは息切れした顔を下に落とした。

 トモとミアが歓喜の声を上げ始める。


「おーふぇん。もっかいもっかい」

「空中ふゆうごっご、もっかいー」

「ああ、何度だってやってやる。俺の力の限りなっ」


 場所が場所なら女性が惚れそうな台詞を言うと、トモとミアをつれて来た道を走り出す。 両手に掴んだトモとミアが空中に浮かび楽しそうな笑い声を上げ視界から消えていった。

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