第四話『周り始めた悲劇』
日も暗くなり夕食の時間である。
僕の前には村長夫妻に横には視線を合わせようとしないフローレンスお嬢様。
怒って先に家についたフローレンスお嬢様は口を聞いてくれなく部屋にこもりっ放しだった。流石に夕食の時間まで部屋にこもるわけも行かないので呼びに行くと素直に食卓へと来てくれた。
「所でフローレンス。箱は持って来てくれたかな」
「も、持って来たわよ。あっちに置いてあるでしょ」
あっちと指を指したほうには無造作に床に黒い箱が転がっている。その箱をみて青くなる村長、食事の途中というのに立ち上がり急いで箱を抱き上げ、大事に棚へと置いた。
「フローレンス。それにヴェルも。あんな所に置くんじゃないっ」
「パパ。ヴェルは悪くないっ、私がそこに置いたんだもん」
確かに何処に置いたまでかは把握してなかった、怒られてもしょうがない。
赤い顔をしながら「まったく――」といい、席にもどる村長。隣の夫人は可笑しいのか少し笑い出しそうな顔をしてる。村長が席に座ったと同時に喋りだす。
「貴方、そんなに大事なら貴方が行けば良いのでは。任せた箱を持ってくると言う事はちゃんとやって来てるのですし」
「いや、そのしかしだな」
村長自身が怒られるとは思ってなかったのだろう、次第にしどろもどろになっていく。
僕は隣を見ると、フローレンスお嬢様が「そら見た事か」と何故か勝ち誇ってる。
「所で。貴方、その祭具の箱の中身はなんなんですか? 私も祭事はまだ三回目ですし」
「ふむ。そうだったかな、アレはな開かずの箱である」
思いかけない言葉に思わず隣にいたフローレンズお嬢様が「はい?」と返事をした。そりゃそうだろう、実際に空けたし僕等はその中身さえも知っている。
「まぁ黙って聞け。この世界には勇者が居る。いや居たと言うべきか」
勇者。大人が子供に聞かせる物語の定番の主役だ。魔王を倒し国を統一した勇者、しかし今では魔王の配下と言われる魔物すら存在したのかと怪しまれている。
「その従者である魔法使いが、己の知恵を全て埋め込んだのがあの箱だ。悪用されないように秘密裏に守るように言われてな、ワシも昔あけ様としたが空かなくてな。今では十年に一回祭事に出すだけで後は厳重に保管してある」
「そうだったんですね」
夫人が頷くと村長はがっくりと肩を落す。
「そもそも、お前の父親からワシは聞いたんだぞ。お前が知っていなくてどうするんだ」
「可笑しいですわねぇ」
妙におっとりとした夫人が首を傾げると食卓に笑いが起こる。フローレンスお嬢様も笑い出し機嫌も良くなってきたようだ。
夕餉が終り、それぞれの時間に入る。村長は明日の最終準備を確認し、夫人は食べ終わった物を片付けている、フローレンスお嬢様も一緒に手伝いをし。僕は裏口にいる馬へと食事を与えに行く。最後に戸締りを確認し、一人食堂で仕事をしている村長に報告をした。
「全て終わりました」
「ふむ。今日もご苦労、所でそのなんだ。男同士の話なんだが」
「はい、なんでしょう」
小声で僕に質問する村長。
「フローレンスの事をどう思っている」
「お嬢様ですか。活発な所はありますが何処に出しても、いい女性と思います」
「ふむ……そのなんだ。最近ワシも歳でな。いやなんだ。明日の祭りは頼むぞっ」
何か納得した村長は寝室へと向っていった。
最後に食堂と玄関の戸締りを確認し全ての事が終わると後は僕も寝るだけとなる。
廊下を歩き突き当たりにある部屋に行こうとすると手前の部屋から小さな手が出てる。
僕は側によると小さく声をかけた。
「フローレンスお嬢様どうかなされましたか」
「っと、来た来た」
「呼ばれたから来たのですが。勿論部屋には入りませんので用があるなら明日にお願いします」
「あーのーねー……明日は忙しいでしょうがっ。お祭りの最後終わったら昼間の洞窟の前に来て。それだけよっ」
言うだけ言って扉を閉めるフローレンスお嬢様。
直ぐに再び扉が開くと困った顔したお嬢様の顔が出てきた。
「あと、昼間はごめん。おやすみ」
二度目の扉が閉まると廊下に一人取り残された僕は頬を掻くしかなかった。
昼間の事もありゆっくりと睡眠をとる。
どれぐらい寝たのだろうか、僕は目が覚めた。この家へと幾つかの音が近づいて来るのが解かった。
慌てて起きると、枕元へ置いてあるランプへと火をつける。ドアをあけ廊下を走り玄関へと向った。
その音で目が覚めたのか村長夫婦の寝室の扉から村長も顔だしてきた。
玄関の扉を激しく叩く音、直ぐに鍵をあけると若手リーダー格のクルースの顔が現れた。背後からは焦げ臭い匂いが押し込んで来る。
夜だというのに彼の背後は赤い光が漏れている。
「っ。ヴェルかっ。逃げろっ」
僕の顔を見て行き成り叫ぶクルース、背後に来た村長の顔を見ると事情を説明し始める。
「村長、逃げてください。盗賊ですっ、いや」
一瞬僕の顔を見て言いよどむ。
「僕の事は気にするな。盗賊、何人だっ怪我人は、死者はっ」
「わからん。あいつ等は突然火を放って逃げる奴を切っている、恐らく村人はもう、ほぼ全滅です……それと賊は東のほうからだ。俺達家族は床下に隠れてなんとか。隙を見て何とか逃げ出し村長に伝えに。ヴェル、フローレンス様を連れて逃げろ。俺は妹が心配だ戻るっ」
叫ぶように言うと乗ってきた馬に跨り坂道を走って行く。
僕と村長は頷き合い慌てて夫人とフローレンスお嬢様を起す事にする。
フローレンスお嬢様が寝ている寝室の扉を激しく叩く、中から盛大な音が聞こえたかと思うと直ぐに開いた。
「何よ――まだ真っ暗じゃないのよ」
「直ぐにこっちに」
寝ぼけ眼の顔をみて安心すると、直ぐに手を引っ張り廊下にだす。横では村長も夫人を廊下に出した所だ。
全員の顔を確認すると村長が大きな声で喋りだす。
「いいか。二人ともよく聞け。村に盗賊が押し込んだ、六年前とは違い村には騎士は居ない。ワシとお前は東のロザンへ。フローレンスとヴェルは北西のタチアナの町へ逃げ救援を頼む。少ないが路銀を渡してお――」
村長が喋り終わる前に玄関の扉が破られた。
直ぐに押し込んでくる盗賊団、僕等は必死になって裏口へ逃げたのだが……。