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第三十七話『面会者たち』

 本格的に胃が痛くなり、牢に戻っていいですか? と口を開こうとした時。出入り口の扉が開いた。

 綺麗な微笑みを浮かべる女性。髪は茶色く少しウエーブついた髪をなびかせ、不正を見逃さないような眼鏡をかけている。女王陛下の孫であるファーランス。その格好は第七部隊の正装である青いマントをローブのように着ていた。


「隊長、外まで丸聞こえです。そしてこんばんわ、フローレンスさんとヴェルさんですね。村長さんから大体の事は聞いています。ファーランス。名前は言いにくいと思いますのでファーとお呼び下さい」

「いやー。休みの所ごめんね、ファー」

「休みのたびに厄介ごとを入れないでくださいね。まったく、それと……」


 フローレンスお嬢様と僕にわからないように目配せをする二人。僕は気づいてはいたが黙っている事にした。


「とりあえず。君が人を殺した、その事に間違いは無いみたいなので、他の住民とも話してくるから。フローレンスの『お子様』とちょっと留守番していてねー」

「あら、聖騎士の『おばさん』なんだったらもう戻ってこなくてもいいですよー」

「隊長、騒ぎは大きくしないでください」


 だってー。と文句いうマリエルをファーが外に連れ出した。部屋には僕とフローレンスお嬢様が残された。

 沈黙が続くとフローレンスお嬢様が瞳を滲ませ僕に抱きついてくる。


「ヴェル、死んじゃいやっ」

「とりあえずまだ生きてますね」


 胸につけた顔を挙げ、僕を睨むフローレンスお嬢様。僕は思い出し尋ねる。


「そうだ、この篭手もう少しお借りしたいんですけど」

「あ、それ、もう要らないわよ」

「いや、でも中身だし」


 嬉しそうにフローレンスお嬢様は早口で喋り始める。


「そう、聞いてよヴェル。あの箱ね、蓋閉めたらもう開かないのっ、私が思うにあの時は偶然開いたのね、それでねパパから聞いた話なんだけどあの箱は元から開かない、開かずの箱なんだって。だから中身を取ったってのは、ばれてないし、パパからみたら箱さえあれば良いみたい、だから今更箱の中身が出てきても、私がこまるから、それヴェルに上げるわよ」


 顎でテーブルの篭手を指し、直ぐに頭を戻すフローレンスお嬢様。上目遣いに僕を見つめていて、体勢は先ほどと同じ椅子に座っている僕に、フローレンスお嬢様が床に膝を付き抱きついている感じである。


「はぁどうも……では、一応預かっておきますね」

「ねぇ。ヴェル、本当にどうなるのっ……」


 結果はどうあれ僕は最初の事件を回避した。もう一つの心残りはマリエル達だ。その場に僕が居ないとダメなのか、それとも今回みたいな何かきっかけがあれば変わるのか。信じて貰えるかどうか解らないが伝えてみるか……。


「――っと。ちょっと。ヴェル聞いてるのっ」

「えっ何がです?」


 僕の言葉が気に食わなかったフローレンスお嬢様は顔の頬を膨らませる。


「私はヴェルが好き、お願い。抱いてっ……」


 真っ直ぐに僕を見つめるフローレンスお嬢様。好意は感じていた、僕もフローレンスお嬢様の事は嫌いじゃない。むしろ好きだと思っている。しかし――。

 僕は黙って首を振る。


「な、なんでよ! 好きな男女が一緒になる、素晴らしい事じゃないのよ、パパだってママだって私とヴェルが一緒になるのが普通っていっていたもん」


 二人の思いを感じ胸の奥が熱くなる感じがする。


「フローレンスお嬢様、それは今朝までの話です」


 僕を信頼してくれていた夫人だって、此処に連れて行かれる時に駆け寄ってこようとしたフローレンスお嬢様を背後から止めていた。

 村長だって人を殺すボクを息子にはしたくないだろう。この牢屋にくるフローレンスお嬢様を外で止めたのも恐らくは村長だ。


「ヴェルは私の事嫌いなのっ! 正直に答えて」

「好きですよ」


 言葉を聞いてガッツポーズを取るフローレンスお嬢様は僕に向き直る。


「じゃぁ良いじゃない。ここでヴェルと既成事実が出来ればいくらパパだってヴェルを殺しはしないわよ。聖騎士達が戻ってくる前に事を済ませましょう」


 胸を隠している紐を解いていくフローレンスお嬢様、僕はその手を握り動作を止める。


「はっきり言います。僕が好きと言ったのはフローレンスお嬢様が妹のように思えたからです。僕は僕以外の人とフローレンスお嬢様が幸せになるのが一番だと思っています」


 眼に涙を浮かべ、声が震えている。


「嘘よ」

「残念ですけど、そうなんです」

「嫌……、抱きなさいよ『命令よ』」

「申し訳ありません、断ります」


 時間にしては筈かだったかもしれない。僕とフローレンスお嬢様は真っ直ぐに見つめあった。数年間も一緒に暮らし今の僕があるのはフローレンスお嬢様が居るからでもある。


 解いた胸元の紐をゆっくりと、そして無言で戻すフローレンスお嬢様。抱きつく格好から離れると、黙って扉の前へ立った。

 目元を指で拭き、少し赤い眼を僕に向けて無理に笑顔を向けてくる。


「私はヴェルの事を何でもいう事を聞く弟みたいな感じでみてたんだけどね、そして将来はママみたいにパパを尻に引く奥さんに成ると思っていたのよ。わかったわ」


 一呼吸して僕を見て頷く、僕もその続きの言葉を待つ。


「未来の村長夫人からの最後の『命令』例え、どんな絶望的な状況でも生きて」


 僕は一呼吸ため息を付いて、


「善処はします」


 と答える。すると、フローレンスお嬢様は小さく笑った。


「まったく、最後までヴェルらしいというか、ほんっと――、戻る、パパが心配してると思うから」


 フローレンスお嬢様が扉から出て行き、外で村長の声、それと何か怒鳴っているフローレンスお嬢様の声が聞こえ。小さくなった。


 一人になった部屋で黙って座っていると直ぐに壁を一枚隔てた扉の向こうから話し声がする。


「隊長、固まってないで開けてください」

「ええ、でも。もしよ。あの少年と女の子がその契りをしていたら気まずいじゃないっ」

「契り? ああ。夜這いですか。何なら隊長も混ざってくればよろしいかと、顔は隊長好みと見受けられました」

「あーのーねー」

「では、顔はお嫌いでしたか」

「だ、だからそういう事じゃ……」


 このまま会話を聞いているわけには行かないし、「誰も居ませんよ」と扉を開ける。顔を赤くしたマリエルとその後ろで微笑むファーが僕らを見ていた。


「ヴェルさん、村長さんとも話し合った結果処遇が決まりました」


 微笑を絶やさすにファーが僕に宣言してきた。

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