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第三十六話『村で最初の殺人者』

 藁の上で寝転がる。村の外れにある簡易留置所すなわち牢屋

 四方を石レンガを積み上げられて作られた壁、建物の中は部屋が四つになっており、何も無い小部屋に次が素朴なテーブルと椅子がある部屋。主に此処で話をする。

 最後の二部屋は牢屋だ、僕はその一番奥の牢屋に入っている。


 内部の仕切りも石レンガで作られており、僕が入ってきた鉄の扉と食事を入れるための小さな空気穴。後は鉄格子の窓が高い場所へと付けられてる。

 

 あの後、僕は黙って村人に従った。途中でお嬢様が此方を見ていたのに気づいた、僕に向かって来ようしてるのを村長夫人に止められていたのを見る。

 僕を見る村人の目は酷く脅えた目になっており、僕がこの村に来た時と同じような目をしていた。


「まいったな……」


 恐らくこの扉や窓なら本気を出せば蹴破る事が出来るだろう。しかし当然見張りは居るわけで。村人に危害は与えたくない。


 一人になり目を閉じ、篭手の記憶であるオオヒナに呼びかけるように意識しても反応が無い。まるで最初から何も無かったかのような感じである。


 もしかして。全部夢だったのだろうか。フローレンスお嬢様が殺され、マリエル達と出会い。王都まで旅をして、この国が腐る過程まで白昼夢だったかのようにも思える。

 

 あの盗賊達は偶然あそこに来た盗賊で僕の持っている篭手とは全然関係なかったんじゃないかな、だからこそあっさり撤退したのでは?

 

 誰も答える物はいないのに考えだけが溢れてくる。

 本当に参ったな……同じ言葉を繰り返し呟くと、外が騒がしくなった。

 村長の声が聞こえる。


「何も、自ら検分をしなくてでもすね。いえっ別にそういうわけでは……はい、大事な家族だったんです、何かの間違いであれば――それはもちろん、使いをだしました」


 壁越しなので聞き取りにくい。なおも村長の声が聞こえた。


「解りました。では明日までお願いします。ええ、例えどの様な事になっても文句はいいません。悲しいですがそれも村を治めるためですので」


 辺りが静かになった。直ぐに建物のドアが開く音が聞こえる。

 次の部屋の扉の開く音、更に牢屋の廊下へ続く扉のが開く音、最後に足音が聞こえ僕のいる牢屋の前で止まった。

 小さな出入り口では相手は確認できない。食事用の小さな穴から手紙などを入れる事は可能であるが、今はそれもないだろう。


 女性の鼻歌が聞こえ僕の牢の前で止まる。数度鍵穴の音が聞こえると鉄の扉が開く。

 

「やー少年。気分はどうかな」


 場違いな声、肩までの短い金髪、細く力強い瞳。そして懐かしさも感じるマリエルの声とともに顔が牢屋内を見渡してきた。

 彼女の顔を見て確信した。やはり此処は戻った世界だ。


 部屋から出される僕は、隣の部屋へと通される。僕の顔をみても驚きもせず軽く笑みさえも浮かべているマリエルは先に「よいしょっと」声をかけ椅子に座ると、僕へ座るように勧めてくる。

 黙って座るとマリエルは僕の顔をみてため息を付く。


「やーねー。自分ばっかりが歳みたいじゃないの、掛け声かけて座ったのが恥ずかしい」


 僕は無言でいると、少しすねた顔のマリエルは喋り始める。


「場を和ませようとしてるんだから笑ってよ」

「えっ。あ、えーっと。マリエルは歳に見えないよ」


 僕の顔をみてにっこりと微笑むマリエルは。眠いのが欠伸をしながら話しかける。


「私まだ名前言ってないわよ」


 言葉に詰まる、確かに一回も自己紹介をしてないからだ。直ぐに僕は口を開いてごまかす。


「その篭手、聖騎士ですよねその中でも第七部隊のマリエルっていったら美人で有名なのでそう思っただけです」

「ほ、本当っ!? いやー。少年君。君は良い眼をしてるわ、良く見ると顔もいいし。これで殺人者じゃなかったら、付き合ってあげてもいいわよ」


 気分を良くしたのが僕の顔を笑顔で見てくる。


「で。本題に入るわよ。私が此処に居るのはこの際どうでも良いので」


 知ってる、祭りが楽しみで前夜から村に来てたマリエル。なるほど本来ならこの時間に村に来たのか。


「君は、川原で旅人を殺した。間違いないわね」

「そう……ですね」


 素直に頷く僕に、唇をすぼめ「んーー」と声をだすマリエル。


「随分素直なのね」

「結果は結果ですから」

「うんうん。まぁ、私としては過程も大事なんだけどね。えーっとあとは。そうそうその篭手つけてるとハグレと間違われるわよ。っても解らないか。要は私みたいな聖騎士の真似をするのはいいけど。本当の聖騎士にいちゃもん付けられる事もあるわよって事」


 僕の右腕に嵌められている篭手を指差す。


「えーっと、その外れないんです」


 僕の答えに眉を潜めると腕を出してみてと命令される。言われたとおりに机の上に腕をおくとマリエルは篭手をさわり繋ぎ目を押した。


「本当? どれどれ、外れるじゃない」


 僕の右腕を触りあっさりと腕から篭手を外すマリエル。驚きのあまり声が出ない。


「あれ、どうしたの?」

「いえ、あの……ずーっと外れなかったので」

「そう。何処かひっかかってのかもね」

 

 他人事のように軽く話すマリエル。いや実際他人であるけど、あまりの事にどう喋っていいのか判断に迷う。 

 僕がマリエルを見ていると、外が騒がしくなる。男性と女性の喧嘩する声が聞こえ、その後に控え室の扉が開けられ、フローレンスお嬢様が飛び込んでくる。


 フローレンスお嬢様は僕とマリエルを交互に見ると、マリエルの事を指を指す。


「ヴェルを殺したらダメっ! 出てってよ、この『オバサン』っ」


 あっけに取られたマリエルは僕とフローレンスお嬢様を交互にみて自らの顔を指差した。

 笑顔で笑っているが、こめかみに青筋が薄っすらと見える。

 喋る言葉の一部が強調されているのは気のせいか。


「なんだなんだ。少年、随分『子供』らしい彼女がいたもんだ、『子供』は我侭だからなー機嫌を取るのも一苦労だろう」

「ヴェルはそんな事思わないし、『いき後れ』だからって心配して貰わなくても結構です。それに私は知っているんだらっ、聖騎士は見た目の歳が取らないって若つくりした『オバサン』が嫉妬なんてみっともない」


 フローレンスお嬢様にも青筋が出来、マリエルの青筋が二個になる。


「これだから『子供』で『我侭』で『無知な子』は困る。聖騎士も歳はとるし、私はまだ十代だっ」

「えー……ごめんなさいね。じゃぁ『老け顔』なんですね。お仕事が苦労されているんですね、辞めた方がいいですよ聖騎士」


 部屋が暑い。夏だからなのだろうがそれ以外な気もする。

 僕はいますぐにでも、壁を壊して逃げ出したい衝動に駆られた。

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