第三十五話『守った代償』
東の森へと入る。村を襲うほどの人数になると潜伏場所は限られる。小さな泉か、川沿いの平原か、迷ったまま川沿いの平原へと足を速めた。
簡易テントが幾つか見え、川沿いには普通な格好をした男達が何人も見えた。
川には木で出来た竿がかけられており、見た目には釣りをしているようにしか見えない。
警戒心を残しつつ僕は手前の一人に近づく。
気づいた男達が小さく頷き合うのが見えた。その中の一人が僕へと近寄ってきた。
手を挙げ好意的な印象を僕へと持たせてくる。
「おや。地元の方ですか」
「ええ、まぁ。釣りですか?」
釣竿があるんだから釣りに間違いない、僕としても変な質問をしてしまった。しかし、気にした様子も無く男は話しかけてきた。
「実は我々はタチアナ釣り同盟の仲間なんなんですが、この付近で凄いのが釣れると聞きましてね。今は坊主なんですけど……あっもしかして勝手に釣りをしたら不味かったですか」
男は今にも泣きそうな顔で僕を見つめている。見た所盗賊には見えなく多少は怪しいのかもしれないが、人の良さそうな人物である。
違うのかな……。確かにこの川は良く魚も釣れるし、そこそこの大物もいて遠くから釣りに来る人もいる。
「いえ。釣りぐらいでしたら特に報告も無くても、勝手に伐採や乱獲とかになると村長の許可は欲しいですけど」
「なるほど、その点は大丈夫です。我々釣り同盟は、迷惑をかけないを信条にしてますので、ひっそりと釣りだけ出来ればいいのです。ただ今回は参加者が多くてちょっと人数増えてしまいましたが」
となると、盗賊は泉のほう、もしくは別の場所に潜伏してると考えたほうがいいだろう。
「えっと、この辺は夜になると危ないのでその前に帰る事です、僕は定期的に此処を回って村長の言葉を伝えて回っているのです」
もちろん嘘である。そうでも言わないとこの人達は帰らずに二次被害を受けるだろう。
続けて僕は言い聞かせる。
「数日前にも野狼に食い殺された人間がいるので、テントぐらいじゃ間に合わないです」
「こ、こわいですね」
「ええ。怖いんです。一人二人でしたら村にもお泊め出来るんですけど。もしよければロザンの町に行くといいですよ」
「なるほど、色々すみません、では夕方前にはロザンの町にいって明日の昼間にまた通っても大丈夫でしょうか」
「ええ。それでしたら安全です」
僕の話を聞いてた他の釣人も顔を青ざめた。
次は湖のほうへいかなくては。
「それでは僕は別の場所に人が居ないかを確認してきますので」
「いあー此方こそ大変ご迷惑を――」
僕が釣り人に背を向ける。背後で「――かけますねっ!」
殺気ともとれる気配が僕を頭上に現れた。
同時に後頭部目掛けて両腕での釣人の攻撃が入った。僕は右腕の篭手でその一撃を防御する。
そのまま振り返り、釣人の格好をした男と蹴りを入れる。手加減なんてしない、先ほどの好意的な男の顔が歪み、僕をにらみ付けてながら川へと落ちていった。
水しぶきが立ち、浮かんではこなかった。
テントから数人の男が出てくる、手には細い剣や腕より長い剣を持っている者もいる。先ほどまで友好的だった他の釣人も小型の剣を取り出し始めた。
その中の一人が仲間へと小さく叫ぶ。
「黒い篭手の確認、能力者の可能性あり。殺しても構うな。篭手を奪い取れっ」
一人の男が叫ぶと僕へと攻撃してくる。大きな剣を僕へと振りかぶり、篭手でガードしようとすると、篭手に当らないように無理やり起動を変える男。
僕はそいつ腹に蹴りをいれ吹き飛ばす。
僕の足に掴み吹き飛ばされないようにする男の口からは鮮血が飛び、僕の衣服を血で汚す。その隙をついて別の男が背後から羽交い絞めにした、首には釣竿が当てられ窒息させるきだろう。
全身の力を使い、吹き飛ばす。
首に巻かれた釣り糸を力任せに引きちぎると、首や手てに痛みが走り血が流れ出る。
武器が欲しい、一人の男に狙いを定めると一気に走る。
行く手を阻む別の男の頭を蹴り飛ばし前に進む。目が慣れて来たのかこの程度ならかわせるだろう。
剣で切りかかる男の一撃を見切り背後に回る、その後頭部へと勢いをつけた肘で攻撃を与えると。鈍い感触が爪先まで伝わってきた。嫌な感触である。
盗賊が手から落とした刃こぼれした剣を奪う。直ぐに力任せに近くに居る盗賊の体を貫き、蹴りをいれ無理やり引き抜く。
無言のまま攻撃し、倒れていく男達。
「まてまてまてっ。お前ら黙って離れろ」
テントから一際大きい男が出てきた。熊みたいな体格で鳥肌が立つ。
耳の穴をほじって、嬉しそうな顔で僕をみている。
「小僧、直で聞くぞ。目的はなんだ」
周りの盗賊が一人「お頭っ」と叫ぶと。叫んだ男の近くにより、その男の腕を取り間接を反対に曲げた。
叫び声を我慢して地面に倒れこむ盗賊。
「俺は黙れと言ったんだっと、すまんな小僧。で目的はなんだ」
「村への襲撃をやめて貰いたい」
「なるほどなっ、よしいいぞ。序に俺ん所に来ないか?」
周りの盗賊が目を見開いてお頭と呼ばれた男を見る。
普通に手を引くと聞いて、僕も驚いてお頭と呼ばれる男を見た。
普通は盗賊であれば、金品を要求する。または、依頼されていれば作戦を遂行する為行動を起す、そうじゃないと盗賊の信頼にかかわり次回からの仕事が無くなるからだ。
此方の理由もいっていないし、相手の理由も聞いていない。全部過程を吹っ飛んだ同意である。
だまし討ちされるのか。僕は身構えるが特に何もしてこない。それ所が欠伸までしている。
なるほど、確かにそうだっだ。過去を入れれば僕が誘われるのはこれで三回目か、くだらない事を考えて首を振る。
「断ります」
答えが解っていたかのように白い歯を見せる。
「よし、撤退」
お互いに名前も尋ねずに盗賊達は全ての物を片付け移動し始める。
死体を指差す部下にお頭は川へ指差した。
僕にそれでいいか? と目配せしてくる。
静かに頷くと川へ水しぶきが六つ。直ぐに浮いてきた体は流れにそって消えていった。
「ヴェルっ!」
名前を呼ばれ振り向くと、村長にクラース、それに村人が数人いた。
全員が青ざめた顔をして何人かは僕を指差す。
「ひ、人殺しっ」
血溜まりや、僕が握っている剣に注目している。
「あの……」
僕が一歩前にいくと村人達が一歩引く。
「やっぱ、やっぱ人殺しは人殺しの仲間なんだ。だから、俺は引き取るのは反対だったんだっ」
「まて。まだヴェルが誰かを殺したといっているわけじゃっ……」
僕を援護する村長の言葉が小さくなって行く。顔見知りの村人が僕を指差し震えている。
「いいや。みろ、死体は川に投げ捨てたんだ。前々から怪しいと思っていたんだ」
「俺もだ」
「ヴェル、本当にお前が何かやったのか?」
やったかどうかを聞く村長。
村を守るために盗賊を殺しました。そういって納得する事はないだろう、手に持っている血まみれの剣を地面に置き両手を挙げた。
「どう思われても結果は結果です。殺しました」




