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第二十八話『真夜中の密会』

 壊れたテーブルや床は珈琲が流れ綺麗な敷物に黒い染みを作っていく。


「お主、もどって来てるのかっ」


 ヒバリが僕に詰め寄るも意味がわからない。


「あの、意味がわからないんですけど」

「解らない筈があるまい、お主は我の珈琲を知っているんじゃからのっ。何時。何処の未来から戻って来たっ」


 僕の胸元を掴むと強引に体を揺らす。目の前がぐるぐると回り、収まってきた吐き気がまた上がってくる。


「まっ。揺らされると出っ」

「そうじゃ、吐くのじゃっ。何時から先だっ」

「あのっまっ――」


 僕はヒバリの手や服に盛大に吐く。今飲んだ珈琲色の胃液が彼女の衣服に染みをつけた。


「おまっ。何はいとるんじゃーこの小僧がっ」

 

 もう、無茶苦茶である。


「でも、本当に戻り人であるなら。安易に篭手は外しませんよね」


 メリーアンヌさんの言葉でヒバリの動きが止まった。

 吐しゃ物が掛かったヒバリが白い目で僕をにらみつけている様にみえるが、僕の視界は目が回っているのでいまいち確認できない。


「お主、とりあえず着替えをして来いっ」

「着替え、ああ、いいでうっぷ」

「ええいっ。吐くなっ」


 首根っこを捕まれ廊下へと引っ張られる。廊下には誰も居なく、そのまま暫く引きずられ小さな部屋へと押し込まれた。


「序にその辺にある奴に勝手に着替えろ」

 

 そういい残すと部屋から出て行くヒバリ。

 直ぐに扉が開いた。


「ああ、そう。汚い服は捨てるからその端に入れとけ」


 もう一度しまり僕一人になる。回る視界を何とか押さえゆっくりと部屋を見渡すと、大きな樽を半分に切った場所に水が流れていた。上から下にながれ、溢れた分は樽の下に小さな穴が開いておりそこから別の場所へ流れていた。

 樽の横には空の水差しや衣服が綺麗に並んであった。

 差し詰め倉庫の役割しているのだろう。


 汚い服を言われたとおりに隅の箱へと押し込む。口の中をすすぎ、顔を洗った。

 頭がだいぶすっきりしてきた。何が誤解はあるが面倒見はいい人なのかもしれない。

 適当に白い服を選び着替えをした、廊下にでると静まり返った城内なのが確認された。

 

 確かここだろうと出てきた部屋へともどる。室内には珈琲の匂いが充満していた。

 テーブルも直っており、ヒバリとメリーアンヌさんが珈琲を飲んでいるのが見えた。

 微笑むメリーアンヌさんに。ヒバリのほうは少し怒った顔をしている。しかしテーブルを黙って指を指すと僕の分の珈琲が入れてあり早く座れという合図をしていた。


 席に座り、少し飲む。暖かい液体が空っぽの胃の中へ染み渡るのが感じられた。


「で、だ。お主、本当にこの篭手を使っておらんのか?」

「使った使ってないといえば。途中で胸を刺されまして傷が治ったぐらいでしょうか」


 ヒバリの問いに僕は素直に答える。僕の言葉を小さく繰り返す。


「確かに治ったじゃな?」

「あ、すみません。確か戻したって、言ったほうがいいかもしれません。信じて貰えるか解りませんが――」


 僕は篭手の記憶という場所でヒバリと同じ顔をした女性と会ったこと。篭手の力は治すじゃなくて戻す事、即ち傷を無かった事にした説明を受けたなどをヒバリとメリーアンヌに伝え珈琲を一口飲む。


 正直信じて貰えるとはあまり思っていないが、他に説明しようがないからだ。

 僕の話を聞いて険しい顔になるヒバリ。黒い篭手を触ってはその感触を確かめているようだ。


「なるほどな。嘘はいっとらんみたいじゃの」

「信じるんですかっ」

「信じてる何も、篭手の記憶は初耳であるが、その他の情報は確かなものじゃ。はーどっど疲れたわい」

「良かったですねヴェルさん。ヒバリ様の疑いが晴れて」

「ええ」


 妙齢の女性であるメリーアンヌさんがヒバリを様付けで呼ぶのは少し変なきもするがテーブルを壊した力を見ても聖騎士の一人なんだろうか。


「ちがうぞ」


 顔をあげ僕を見るヒバリ。いたずらを仕掛けた子供みたいに笑いだしそうな顔で僕をみていた。


「えっと、なにが」

「だから。我は主が思っているような聖騎士ではないぞよ」


 心を覗かれたっ。


「あーそれも違うぞ。我は心を読んでいるわけじゃなくてじゃな、我に向けられる簡単な思考なら何となく感じる程度じゃ。さて邪魔したな、明日には金を出すからもうねれ」


 ヒバリは立ち上がる。別に篭手の力を知りたかったわけでもなく本当に独り言だった。


「未来から過去に、戻れる、いや戻れたらどうなるんですかね」


 メリーアンヌさんが僕をみて喋りかける。


「ヴェルさんは変えたい過去がおありですか?」

「メリーアンヌっ下らない事を話すなのじゃっ」

「良いじゃありませんかヒバリ様。日は落ちたばかりです」


 部屋を出て行こうとするヒバリを引き止めるメリーアンヌさん。優雅に珈琲で喉を潤し、真っ直ぐに僕を見つめる。

 変えたい過去、過去があるから今の僕がいるとしても、やっぱり――。


「そうですね。やっぱりあると思います」

「変えてどうするのじゃ。己が満足する結果が出るまで何度でもやり治すのか? 途中で捨てられた世界はどうなるのじゃっ。残った者達は何を目指して生きるのじゃっ」


 狭い部屋にヒバリの叫び声に近い怒声が響く。誰かの事を言っているらしいが僕にはわからない。いや、過去に戻れる話など所詮は妄想である。妄想であるはずなのにヒバリの目は怒りに燃え僕を見つめていた。

 

「正直……わかりません。それでも、もし過去を変えれる人が居たのならですが、後悔をした過去を変えたかったんだと思います」


 僕は叫んだヒバリを見る。舌打ちをし部屋を出て行った。

 残ったメリーアンヌさんは僕の頭を優しく撫でる。


「怒られたわねー、ごめんなさいね私が変な事を聞いたばかりに。私はヴェルさんの意見は好きよ。それじゃお休みなさい。又明日会いましょうね」


 なで終わった後に扉から出て行くメリーアンヌさんを見送った。

 結局良くわからない密会だった。解ると言えば篭手を外した事、口から珈琲や胃液を吐いた事、綺麗な女性と篭手の記憶と同じ姿の女性から叱咤を受けた事だ。疲れが一気に襲ってきた僕はベッドへ行き薄い毛布に包まった。

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