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第二十七話『彼女達との出会い』

 いつの間にか寝ていたらしい、目が覚めると室内は赤く染まっていた。

 窓から入る夕日の光である。

 

 部屋にノックの音が聞こえ、直ぐに扉がひらいた。

 赤い髪をし、眼鏡をかけた女性。服装は僕が篭手の中で見えた通りの時代錯誤の黒いロープを着込んでいる。

 背後にはもう一人背の高い妙齢の女性を連れていて此方は上下が一枚の布から作れたように見える緑のドレスを着ていた。


 部屋へと入り僕の顔を見ると、小さいほうが挨拶をしてくる。


「おう、お主、遠い所をご苦労なのじゃ。お、どうしたのじゃ変な者でも見るような目をして、我みたいな可愛い女性を見るの初めてか?」


 どう返していいか、言葉に詰まる。どう見ても僕が篭手の中で見た女性と一緒なのだ。喋りかた、目つき、時代錯誤っぽい服装。

 しかし、相手は僕の事を知らないふり、いや本当に知らないのだろう僕の視線を無視してさっさと椅子に座り始めた。


 後から入ってきた妙齢の女性が僕へと挨拶をしてくる。


「こんばんは、お名前は、なんていうのかしら?」


 僕は椅子から立ち上がり、ヴェルと名乗る。先に座った赤い髪の女性が自己紹介をし始め、その間にもう一人の女性が席へと座った。


「ふむふむ。我の名はヒバリじゃ。こっちの、子はメリーアンヌじゃ」

「遠い所すみませんね、ヴェルさん」


 妙齢の女性事メリーアンヌ。差し出された手を握手する、シワはあるが柔らかい手で暖かい感触が伝わってくる。

 直ぐにヒバリが握手を求めてきたので握手をした。手は氷のように冷たく思わず緊張すると、僕の顔を見て小さく笑っている。


「いや、笑ってすまんな。我と握手する奴は例外なくびっくりするのでな。お主も例外なく同じ反応で笑っただけじゃ」

「いえ、あのすみません。余りにも冷たかったので」

「いいって事じゃ。さて。本題じゃ『ソレ』返してもらうぞ」


 『はよ返せ』と言わんばかりに手の平を見せ付けるヒバリ、もう片方の手は僕が着けている篭手を指している。返すも何も僕の物でもなかったしそれはいいんだけど取れないから此処にいるわけで。


「ああ、そうじゃったそうじゃった。ほれ腕を出せ」


 僕は腕をテーブルの上へとだす。ヒバリが篭手をなぞると小さく何かを呟いた。ヒバリの手が灯りも無いのに光っているのが見えた。

 余りのまぶしさに目を閉じると次の瞬間、テーブルに何かか落ちる音が聞こえた。


 目を開けると篭手は外れており、視界が急激に回り始める。

 体全体が熱く吐き気がすごい。テーブルの前にいる二人の姿が二重、三重にも見えてきた。


「っと、魔力の暴走じゃ。篭手で供給されていた魔力が行き場を失い暴れてるだけじゃ。吐き気などは暫くすれば収まり、一ヶ月もすれば魔力もゼロになり元にもどるじゃろに」

「そ、そうですか。それは助かりま――」


 最後まで話す前に口から吐きそうで思わず手で押さえると。メリーアンヌさんが横に回り僕の背中をさすってくれる。さすってくれるのは嬉しいが、余計に吐いてしまいそうになると。大きな皮袋を僕に手渡してくれた。


 直ぐにその袋へと口の中の物を吐き出す。その間もメリーアンヌさんは僕の背中を撫で続けてくれた。

 

「無理に剥がしたのに近いからのう」

「だいぶ落ちつきました」

「大丈夫、顔が青いわ」

「背中、有難うございます。ええ、何とか」


 部屋の中は薄暗くなっていった。ヒバリが手早く火打ち石で部屋の中にあるランプに火を灯していく。部屋の窓を閉めると「ちょっとまっとれ」と部屋から出て行った。


 メリーアンヌさんと二人っきりになる。聖母のような笑みを浮かべてくる、何処と無くファーに面影が似ていた。


「色々お話は伺いました。小さいのにご立派で」

「えーっとっ」

「いえ、村を焼き放たれ。さぞその篭手をお恨みでしょう。更にその篭手が外れないという。国から多額な援助をしますので」

「援助って。えーっと、国の財源など管理されてる方なんでしょうか」


 僕の質問が可笑しかったはずは無いはずなのに、上品に笑うメリーアンヌさん。小さく「そのような者です」と喋った。

 

 テーブルの上にある篭手を見つめる。まともな人なら恨んでも恨みきれない思いが出るのだろう。実際僕も、フローレンスお嬢様が殺された時は逆上をしたし、敵を恨んだ。

 しかし、恨んでいても死んだ人間は生き返る事は出来ない。


「この篭手ってなんなんですかね」


 別にメリーアンヌさんに聞いたわけでもなく、完全に僕自身の独り言であったが、メリーアンヌさんは答えてくれた。


「さぁ、ヒバリ様は過去に戻れると言った事がありますね」


 過去。聞き間違いなのか過去といった気がする。思わずメリーアンヌさんを顔をみると、背後の扉が再び開いた。


「メリーアンヌっ。滅多な事をいうもんじゃないのじゃ」

「あら、これはすみませんヒバリ様」


 部屋の中に珈琲の匂いが充満してきた。ヒバリはカップを三つお気、別に小さな小瓶を二つ用意してきた。


 僕を含め三人の前に珈琲を置き、メリーアンヌのカップには白いミルクと砂糖を少量入れるのを見た。


「ふっふっふ。お主なんぞ一生かかっても飲めない飲み物じゃぞ」

「珈琲ですよね、王都には本当何でもありますね」


 僕はカップから苦い珈琲を一口飲むとそのカップをテーブルに置いた。

 顔を上げるとヒバリとメリーアンヌさんが此方を驚いた顔で見ていた。 


 ヒバリの右手のひらから白い光があふれ出る、そこから吹き出る風によってヒバリの前髪が舞い踊る。


「お主、その名前を何処で聞いたのじゃ」


 何処って言われても、篭手の中ですと聞いたら信じて貰えるだろうか。それよりもヒバリの手のほうが気になるし。僕が言葉に詰まると、質問というよりも詰問に代わってくる。


「珈琲は我がゆっくり栽培し数は微量で城から外へは一切出ない飲み物じゃぞ。我しか扱わない筈の珈琲を何故しっておるっ」

「ヒバリ様、もしやヴェルさんは戻ってきた方なのでは?」

「何っ本当なのかっ」


 両手をテーブルに付くヒバリ。光った右手から放たれた一撃はそのテーブルを音を立てて粉砕した。

 僕はあっけに取られて固まっている、メリーアンヌさんをみると。自分の珈琲だけは守ったらしく優雅にその味を楽しんでいた。

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