第二十五話『秘密の一夜』
マリエル達、第七部隊と別れてから既に数日が過ぎた。
サンという青年に連れられて馬を引きながら王都を目指している。
馬には数日分の食料や日用品を積んでおり、座るスペースは一人分である、その席も誰も乗っては居ない。
僕としてはサンが乗り、僕が徒歩で行こうとしたのだが、サンが懸命に「客分を歩かせて自分だけが楽するのは無理です」とはっきりと断られたからだ。
僕としても、客分と思っていないし、流されるままに動いてる感じである。だからあの夜も……。
「所で……本当に何も無かったんですかっ」
僕の横を歩いているサンは目を輝かせて聞いてくる。
一日一回は同じ質問をし詰め寄る。
「何度も言うように、無いよ」
僕としてはこれしか応えようが無い。
あの日、直ぐに町を出るわけでもなく準備と生じて一泊した。
酒場一件借り切っての豪勢な食事であった。
酒を飲まされて、体が火照ってきたので僕は早々に部屋へど移動した。部屋に戻り毛布を巻き寝ていると、誰かか僕を起した。
目を覚ますと、顔の赤いマリエルが僕を見ていた。僕の目に映る上半身は裸であり。息が酒臭く、右手には僕が餞別にと渡したタチアナで貰った三十年物の酒瓶が握られていた。
そっと下半身部分を見ると、上半身と同じく何もつけていない。
驚く僕に、マリエルは『なんで私の部屋にヴェルがいるのー』と酔っ払っていたが、それは『僕のせりふです』と返したのは覚えている。
質問には答えてくれず『裸に清潔な毛布って最高に気持ちいいのよね』と僕に違う答えを返してくれた。
マリエルの顔が妖しい笑みを浮かべ僕を押し倒してきた。『ヴェルってさ、本当に男なわけ。こんな可愛い子が居るのに手を出さないだなんて』なんとも無茶な意見である、聖騎士に手を出せるわけが無い。いや、たとえ聖騎士じゃなくてもそもそも女性に手を出すのはダメであって……。
『ヴェルは私の事嫌い?』そう聞いてくるマリエル。『嫌いとかじゃなくてですね、あって数日』僕の言葉を全然来ていないマリエルは納得したような顔になった。
『嫌いじゃないのは嬉しい』一言いうと両腕が押さえられたのだ。
色々考えている内に、僕の唇はマリエルによって塞がれた。
必死に抵抗するも、いくら回復力が増えた半ゾンビといえと力は一般人である、到底かなう訳も無く色々あって朝を向かえた。
いつの間にか寝ていたらしくノックの音で目が覚めると、サンが『出発の準備が出来ました』と部屋へ入ってきたのだ。
部屋には裸を毛布で隠したマリエルと、やはり裸の僕が居た。
大声で叫ぶサンに、同じ宿に止まっていた他の隊員が部屋を覗き込んできた。その場はファーの『一兵卒が見ていい者ではありません』とサンを部屋から追い出し、機転で収まったのだが……。
見送りの時にマリエルは居なく、ミントは僕の顔が『ヴェルにい顔あかーい』とからかうし、ファーは一言『今日は赤飯を頼みましょう』と短く言う始末である。他の女性隊員数人も何かを察した顔をしていた。
なので。気になるのか、この数日サンが同じ質問をしてくる理由もわかる。
けど。
『何かがあっても』表向きは『無い』と答えるしか一番良い解決方法だ。
日差しがあがって来ている。軽い昼食もとりもうそろそろ聞いてもいいかな。
「所でサン。次の休憩地点はまだ遠いの」
「え。まさかヴェルさん、もう疲れたんですかっ、やっぱりあの夜に」
「あのね。これだよ、これ」
僕は空になった水袋をサンに見せた。ちなみに、僕が呼び捨てなのは。『サンさん』と呼ぶと、部隊でもからかわれているらしく、サンで結構と言われたからだ。
「サンが水を全部飲んだから馬に飲ませる分がないんだけど」
馬の鼻息は荒く、成るべく早めに休息させたほうがよさそうだ。
なるほど、と手を打つと。「もう直ぐ付きます」と力強くいうサン。
「サン。『もうすぐ付きます』ってもうそれ四回目」
「おかしいなぁ。あ、見えてきましたよ。休憩所っいやー今日も暑いですねー」
遠くには薄っすらと小さい建物らしきものが見えた。木が数本立っておりその下にあるのが休憩所だろう。
歩くとしてもまだ暫くはかかりそうだ。サンの言うとおり確かに歩くと汗ばむ陽気である。
僕は馬の頭を優しくなでる。馬は疲労もみえるが大人しくなった。
もうすぐだ、と僕が思った矢先にサンは馬の手綱を引っ張り急いで走りだした。
僕も手綱を持っているのを忘れているのか、力が強く半ば引きずられながら僕は後に付いていった。
休憩所までノンストップで走るサン。やっと止まったと思いサンの肩を軽く叩いた。
「あれ。ヴェルさん、そんなに息を切らせて喉渇いてました?」
「…………、これはサンに引っ張られて走ったからだよ」
「お、これは失礼しましたっ。しかし、ヴェルさんも離せばいいのに」
「今度からそうするよ……」
王都に連れて行く人間を置いて行ってどうするんだと思うも、篭手を見せ敬礼するサン。怒る気もうせる。
木陰に馬を引っ張り、水を飲ませる僕。
サンは店主と談笑し必要な物を買い付けているらしい、商品に指をさしては両手を合わせ値切っているのがわかる。
聖騎士といえと随分庶民的なんだなと彼らと行動して感じた。
昼は歩き、夜は寝袋で寝る。朝が来ると再び歩く。
この数日行動してわかったが、彼。サンは明るい、王都の流行や食べ物などを鮮明に教えてくれた。
僕はまだ海とう物をしらない。知識として知ってはいるが、実物は見たことないからだ。
数日もすると風に少しだけ生臭さが感じられた。
思わず鼻を抑えると、サンが笑いかける。
「どうですかっ、潮の匂いを感じましたか」
「塩?」
「そう、潮です。海です。この丘を越えると王都がみえますよー」
食べる塩かと思って聞いたら別の答えが返ってきた。なるほど潮の匂いというのか。
言われたとおりに丘の上に立つと。大きなお城、城下町、そして広がる青い海。話には聞いた事があるが海を見るのは初めてだった。
遠くには船が数隻小さくみえた。




