第二十四話『突然の別れ』
山道を下る。僕はといえば最後尾でジャッカルをの縄を掴みながらである。
両手をしらばられて居るにも関わらず器用に歩く姿はさすが問いべきだ。
なんで盗賊であるジャッカルがこんな大人しいかというと、最初はミントが持っていたのだが、子供とおもって逃げ出そうとしたのだろう。
ファーの命令でミントは野山を走り出したからだ、全身打ち身になったジャッカルは大人しくするからと。縄を僕に持つ事を願ったのだ。
「で、ヴェル坊、何人とやったんだ」
最初意味が解らず立ち止まると、転ばない為にもジャッカルも立ち止まる。
「やったとは?」
「かー。だからヴェル坊なんだお前は、何人の隊員と寝たんだっていってるんだ」
ああ、なるほど。僕が何人の女性と関係を持ったのか、と聞いているのがわかった。大声で僕はミントを呼ぶ。
ミントに縄を渡して交代しよう、というと喜んで野山を駆け巡る。ジャッカルの悲鳴が山へと木霊した。
カーヴェという町に付きジャッカルを門兵へと手渡す。
帝国との国境付近にある町は石が積み上げられた塀があり、その向こうには建物が広がっているのが町の匂いから想像された。
「大きいですね町ですね」
「そうね。宿も食べ物も何もかも大きいわよ。年に二回ほど収穫祭があるんだけど、その時の食べ物がまた美味しいのよ」
「マリエル隊長、遊びに来てる訳ではありません。では、町に入るための手続きをしてきます」
ファーがマリエルに突っ込みをいれ、門の中へ消えていった。
此処まで大きい町になると誰でも自由に入れるわけではなく、簡単な受付があるらしい。
横にいるマリエルに言わせれば、まったく機能してないわよ。とぼやいている。
門の外でファーの帰りを待っていると、遠くから馬に乗った人、さらには馬車が見えた。
「あれ。馬車って珍しいですね」
「んー馬車。たしかにって……なっ」
一応街道というのはあるが道中何があるか解らないので馬車で移動する人々は極端に少ない。大きな商人クラスでやっと護衛をつけて走らせるぐらいと聞いた事ある。
「各自整列っ」
マリエルの声が響くと、それまで自由にしていた隊員が二列に並ぶ。
馬上の人間がマリエル達をみると片手を上げて合図をしてきた。
短い単髪にもみ上げから顎までを隠す髭。
白い歯を見せ、穏やかな目をしながらマリエル達の前で馬を止まらせた。
マリエルが肩膝を落とししゃがみこむ。頭はうな垂れ消して上を見ない。他の隊員も全員がそれに習った。
後ろに止まる豪華な装飾が施された馬車。
馬車を操る男性が慌ててその扉を開ける。
中からは、小太りした青年が降りてきた、顔はボツボツがあり病気かと思ってしまった太ったお腹に、アンバランスに装飾が施された短めの剣を腰につけている。
腕には青い篭手をしているのが見えた。
にやけた顔のままマリエル達が肩膝を付いている場所まで来ると頭に顔を近づけた。
その匂いを嗅いでいるのか鼻の穴が大きくなったり小さくなったりしている。
「おーおー出迎え感謝するざます。マリエルにファーよ、随分と食べ頃に、いや綺麗になったのう。ほれ、そこの物なんと申す」
マリエル達の後ろに控えているナナへと指差した小太りの青年。
「ひっ、あの」
「はよ、申せっ」
「すみません、ナナです」
「ふむ。夜に屋敷に来い、訓練だ訓練ざんす」
有無を言わさない決定にナナが小さな悲鳴を上げると、マリエルが顔を上げる。
「お言葉ですが、マキシム殿下。我が隊の者は私が訓練をさせますので。ご要望と在れば私が伺いますが」
ドスの聞いた声で喋るマリエルに、マキシムは怯む。
「いや、冗談ざんす。聖騎士同士が訓練などすれば建物が壊れるだろうざんす。プッケル先にいくざます」
豪華な馬車に乗り込み、街の中へ消えていく馬車。一人残ったプッケルという男性が馬を操りマリエルの近くへよって来る。
「いやーすまんな、本当はあやつ、一人で来る予定だったんだが。ちょっと胸騒ぎがしてのワシが勝手について来た」
「いえ、プッケル隊長がこの町に何があったのですがっ」
「ふむ、ワシはもうお主の隊長ではないぞ、いまはマキシム殿の隊にいる一兵のプッケルに過ぎない」
「しかし……」
「っと。ほう、彼が報告書の青年か。作戦内容はほれ、これが命令書だ」
プッケルが一本の筒をマリエルに手渡す。蝋で固められた開封口を自らの剣で切り落とし中身を確かめる。
直ぐに真面目な顔になりプッケルへと声を上げた。
「本気ですか」
「ああ。あちらさんは本気らしい、でだ。どうもマキシム殿が自ら治めるとかいってな……臭うとおもわんか。第七部隊のおぬし等が町に居れば援助の申請もしてきておる、どうする。町から出る所であれば無理強いはしないが」
「私は、いえ私達は聖騎士です。陛下を守る剣となり共に」
マリエルの言葉を聞いて、笑い出すプッケル。
笑われた事に少し口を膨らませているマリエルがみえ、思わず僕は笑いそうになる。
馬上のまま別れを告げ町に消えていくプッケル。途中でファーとすれ違い、お互いに何かを話しているのが遠目で見えた。
急いで戻ってきたファーはマリエルから指令所を渡され中身を確認している。
「ヴェルさん、申し訳ありません。王都には行けなくなりました。いえヴェルさんは行くのですが、我々は此処に残る事となりました」
言葉が終わると共に。プッケルとマキシムが通ってきた街道から数人の兵士が歩いてくる。腕には青い篭手を付けいるのが見えた。
マリエル達の前で止まると、腕を前にだし敬礼のポーズをする。
マリエル達の姿を確認すると、緊張しながら篭手を見せ敬礼する。
ファーが一番若そうな男性に何かを話すと大きく頷く男性。
直ぐに僕の前にきて、腕を大きくだし握手を求め始めた。
「第二部隊のサンです。王都まで馬で十日ほどですが案内します」