第二十三話『朝露の中で』
朝露の中僕達は食事を取る。
結局昨夜はこのアジトで暫くの仮眠を取る事となった。
裏口から逃げたまでは確認は出来たか時間が掛かり過ぎたと判断した結果であった。
もしかしたら、ジャッカルも時間稼ぎの為に置いて行かれたのでは、マリエルやファーが言っていた。
それを聞いたジャッカルは青くなり、頭領の悪口を次々といい始めていた。
お掛けで、食材の隠し備蓄庫や隠し武器庫に財宝庫、もっとも財宝庫は中身はなかったが発見する事が出来たのだ。
大きな鍋に肉や野菜やら何でもかんでもぶち込んでいく。
此処を立つ前にアジトは壊していくらしく残してもしょうがないという事である。
一夜経ち、今朝改めて、亡くなったコーネリアとマオに黙祷を捧げたマリエル達と僕。
僕の周りには、昨日近くにいたアデーレ、ナナに加えマリエル、ファー、が座っている。
もちろん他の隊員もそれぞれ適当に別の鍋の前に座っていた。
マリエルは美味しそうな匂いのスープを木製の器にいれて手渡してくれた。
全員に手渡すと「いただきましょう」といって口を付け始めた。
「あれ。ナナ食べないの?」
「お姉さまがよそってくれたスープ、一生の宝物にしますっ」
「腐るので食べなさい」
突っ込みを入れられながら一口食べては感動の言葉を口にするナナ。
そういえば、あのジャッカルにも食べさせるのだろうかと辺りを探すと、両手を縛られたジャッカルは口を開き、ミントがその口へとパンを詰め込んでいる。そして次は水を流し込まれていた。
「気になりましたか?」
ファーの声で振り向くと僕を見ていた。
「ミントが食事係りだったら変な気は起しそうにならないですね」
「ええ。前々から思っていたのですが、ヴェルさんの何処か達観しているわけがわかったきがします」
「えっ」
「そうだね」
今度は口数が少ないアデーレが静かに喋る。
「彼に牢を調べさせたら、副隊長の言うとおり普通に調べたよ。普通の人だったら骸骨など丁寧に調べないからね、ちょっと妖しいと思っていたんだ」
「ちょっと、ファーにアデーレ。貴方達ヴェルを疑っていたのっ」
「マリエル隊長は少し黙っていて下さいね。はい、御代わりです」
次のスープをよそいマリエルへと押し付けるファー。続きを喋る。
「色々と不思議な点はあったんですけど。昨夜の盗賊の死体を調べる時も過去に似た様な事をしてないとわかりませんからね」
「お姉さま。こいつも捕まえましょうっ」
ナナは僕をスプーンで指差す。
「既に捕まえられているんだけど、取り合えずは王都までは確定だし」
「ぷっ、確かにそうね」
「僕としては盗賊時代の事で罰を受けるのは構いませんが」
マリエルがスプーンを置いて僕を見る。
「例え死ぬ事になっても?」
「そうですね、自ら命を絶ちたいとは思いませんが、それが命を絶った者への報いですかね」
今となっては別に何時死んでもいい気はしている、盗賊時代に命令とはいえ覚えているだけでも数人は殺している、素直な意見を伝えた。
マリエル、ファー、アデーレが無言になる、沈黙に耐えれないのかナナが、マリエルやファーの名前を口に出してキョロキョロと慌て始めてる。
マリエルが少しスープを飲みながら僕の問い掛けに答えた。
「君、いや。ヴェルはやっぱ変な子ね」
「よく言われます」
「こ、殺しんちゃんですか。そりゃ、捕まえろとは言いましたけど。何も無抵抗の人を殺すまではしなくてもそのあの……」
ナナが必死にマリエルに言うも段々と声が小さくなって行く。
「あら。ナナの希望通りよ。マオやコーネリアを間接的に殺したかもしれないヴェルを此処で殺せば、今後第七部隊は安泰よ」
「あ、そうだ。この力で超回復があるかもしれません。一撃で首を飛ばしてくれると助かります」
篭手を指差しマリエルへ伝える。
僕の言葉を聞いて、マリエルが笑い出す。
「やだ、ちょっと。私が本気で殺すと思ってるのっ」
「聖騎士なら当然かと」
「あーのーねー……」
マリエルが心底がっかりしたような顔になると、ファーが横から喋りかけてくる。
「あのですね、ヴェルさん。聖騎士の務めは基本、王国の治安維持。刃向かってくる集団などを殲滅、即ち殺したりもしますし、命を落とす事もありますが『アレ』や」
アレの部分でミントに強制的に食事を取らされているジャッカルを目で指し続きを喋る。
「ヴェルさんみたいに、特に何もしてこない相手までは遡っては罰しません。それは各町にいる長などに委ねます。ヴェルさんの場合は委ねるといっても村はもう無いのですし、その篭手の事もあって色々特殊過ぎますので、改めて試すような事して申し訳ありませんでした」
ファーが僕に頭を下げてくるので、慌てて僕も謝る。
「いやっ。僕の方こそ、紛らわしい事をしていてごめん。別に隠す積もりも無かったけど話す事でもなかったかなと、その」
「ふむ。ヴェルさんでも慌てるのだな」
アデーレが僕を見て一言喋ると、食べ終わったのか食器を焚き火へと投げ込み輪から離れていった。
その後をナナがまってよーと急いで追いかけていった。
食事が終わり、僕とジャッカルはアジトの隅にいる。
ジャッカルは相変わらず両腕を縛られて座っている、口には今は何も付けられていない。
僕はそのロープをしっかりと腕に巻きつけ逃げられないようにしていた。
僕もジャッカルも何もいわずに、元アジトを眺めている。
聖騎士達によって解体されていく建物。壊される武器。残った銀貨や金貨を均等に分けている隊員。保存食の補充、更地になった場所に種を撒く隊員。
「俺達よりも盗賊らしい動きだな」
「達っていうのは、僕も含まれているんですかね」
ジャッカルの呟きに僕は反応する。
「当たり前だろ。なぁ、逃がしてくれよ。俺様のお宝を渡すからよ」
「どうせ今もってませんよね」
「良くわかったな」
「ええまぁ、そうだろうなと」
「ったく、昔からそういう奴だったよお前は。冷酷というか人を信じない目というか」
「昔は覚えていませんが、信じる相手ぐらいは見極めている積もりです」
ジャッカルと会話が終わる頃にはマリエル達のアジト解体も全て終わっていた。