第二十二話『未来の盗賊王(自称』
木々の隙間を埋めるように腰までの木の板が張り巡らせてあった。その中心には壊れかけの門。
あちらこちらの建物に松明が灯っており、夜だというのに周囲は明るかった。
奥まで見渡せ、同じく木造の家が幾つも見え。さらに奥には一際大きい家が見えた。
人の気配はしなく、先頭に居るマリエルは鍵のかかった門を強引に蹴り、扉を開けた。
ぞろぞろと敷地内に無いに入る、数人で固まり敷地内を探索する事にした。
僕はナナとアデーレと共に行動をしていた。
手前の部屋の扉を蹴破り、壁沿いに身を隠す。
反応が無くゆっくりと中の様子を見る、簡単に作られた三段ベッドが六個見えた。室内全体が異臭を放っており、ナナがしかめっ面をする。
アデーレのほうは特に気にする様子も無く。汚れまくった毛布を一つ一つ調べている。
「すまない。二人とも、奥のベッドを調べて貰えるか」
「えー……」
「わかりました」
僕とナナは同時に返事をし。僕は奥の毛布を調べる。二段目や三段目を見るも特に変わった所はなかった。
背後を見るとナナが鼻をつまんでは毛布を床に捨てていた。
外に出ると他の家からも首を振り収穫が無い事を知らせているのが見えた。
敷地内には畑や井戸もありまさに小規模な村、いや集落だろう。
石で出来た建物に入る。アデーレが扉を開けて思わず手を止めた。
錆びた匂いが広がり、壁の松明へと明かりを灯すと、鉄の牢が幾つか見えた。
一番奥には裸の女性が鎖に繋がれ死んでいるのがわかった。
手前の牢には既に骨となった人物が無造作に散らばっている。
鍵の掛かっていない牢にアデーレが入る。僕は白骨死体のほうに入り周りを調べた、一部薄汚れた布などを触るも特に外傷は無い。
在るとすれば、頭骸骨が胴と離れているぐらいだろう。
アデーレはやはり黙って首を振り、僕も部屋を後にした。
広場と言えるほど広くも無い場所に全員が集まる、成果が無いのが伺えた。
マリエル達は一番大きな建物から一人の男をひっ捕らえて出てきた。
口に布を巻かれ、両手は背後に結ばれている。
特にその男には誰も何も触れず。ファーが「報告をしください」と号令をかけた。
「こちらは、寝室と牢を調べた。牢には誘拐された旅人が一名、乱暴された後ありで死亡確認。他、白骨死体」
「はーい。ミントは武器庫しらべましたー。使える武器はありそうだけど、ふぁーちゃんの言うとおり全部壊したよ」
「私のほうは、宝物庫、いえ宝物室ですね殆ど無かったです」
あちらこちらから報告を聞きまとめ始めるファー。
「では。私からも、恐らく頭領と思われる屋敷に突入、既にものけの空、地下に隠れていた男を一名確保ですかね」
男は僕をみて目を見開き、必死に何かを訴えている。
「何か言いたいみたいですね。どうしますマリエル隊長」
ファーの提案に腕を組む、マリエル。
「うーん。襲い掛かってくるなら問答無用で切るんだけどねー……取り合えず話を聞きましょうか」
盗賊の口にある布が外されると叫ぶ。
「た、助けてくれ。頼む、助けてくれ。なぁヴェル、お前ヴェル坊だろ?」
僕を名指しにされて全員の注目が集まる。
「えっと……誰?」
冷たい一言にも思えるが知り合いには思えない。それでも僕の名前を連呼する盗賊は勝手に身の上話を始める。
「誰って。お前バロンの所に居たガキだろ、いや、ガキじゃない、ヴェル坊だろ。俺だよ俺。お前の兄貴分だったジャッカルだ。なっ、助けてくれよっ」
慌てているのか本音と建前が混ざっている盗賊。所々恩着せかましい男であるが記憶にない。
そもそも、あの当時は命令されて動く子だったから言うなれば全員が兄であるようなもんだ。
「すみません。覚えてないです」
「覚えてないってお前、俺らが命令して女、子供を殺したり。盗みを働いたりしたじゃねえか。自分が助かりたいからってそりゃねーぞ」
周りの空気が少し変わった感じがした。
「いえ、その事を忘れてるわけではなくて。当時の僕にとっては全員が兄であり主人でしたから。命令されればそう動きます」
「聖騎士ねーちゃんよ。なぁ、ほら俺を殺すなら、あいつも殺そなきゃ道理がないっておもわない。あっもしかしてヴェル坊を愛玩として連れてるのか。それだったら俺のほうがもっと凄いぞ」
縛られて座らされてるのに器用に腰だけ動かす男にマリエルも額に手を当てため息をついている。
「で。聞くけど、此処の頭領達は何処に消えたの? それと、貴方がバロンの一味としてバロンはもう六年前以上に滅んだはずよ、何故生きてるのかしら」
「…………喋ったら助けてくれるのか」
おちゃらけて居たジャッカルが妙にキリッとした顔付きになる。
「無理ね」
即答するマリエルに口を開けて固まるジャッカル。直ぐに大きな声を上げ始める。
「おいおいおい、そりゃねえってばさ。俺も仮に盗賊ジャッカルと呼ばれた男、無駄な命乞いはするつもりも無いが、もう少し恩情ってのがあってもいいんじゃないかっ」
言っている事が無茶苦茶であるが、こんな絶望のふちに居るのに何故か強気のジャッカル
「俺が許されなくてヴェル坊が許される何が違うんだ」
必死にマルエルへと訴えるジャッカル。
「顔」
またも即答するマリエルにうな垂れるジャッカル。マリエルの答えを聞いて数名の隊員が笑い出しそうになっているのが見えた。
「顔ばっかりはしゃーない。もういいぜ。姐さん方、俺を、ジャッカルを殺してくれ」
眼鏡を拭きながら話を聞いていたファーは再び眼鏡をかけなおす。
「えーっと、マリエル隊長。漫才は終わりましたか」
等々数名の隊員が噴出した。
-+3.+
「大体ね。どうせ頭領が逃げた先にも知らないんでしょ」
体をびくつかせるジャッカル。
「知っていたら、命乞いの時に自分から言うはずだもん」
「さすが、姐さんっ」
「あーもう。媚を売らなくて良いわよ、情報がほしいわ、場合によってはここで殺さない。でも嘘を付く様なら首と胴が離れるわよ。こっちだって仲間が遣られているだから。その点は本気」
ジャッカルの首筋にぴったりと剣の刃を当てるマリエルとファー。




