第二十一話『憎み切れない』
穴に二人の少女が横たわる。腕には篭手がされておらず手を組み、顔は寝ているようにも見えた。しかし胴の部分は赤黒く大きな染みがあり生命の息吹が無いのが確認された。
マリエルが穴の横に立ち、他の隊員が土をかけた。
最後にファーが小さく祈り土の上に何かを巻く。
「彼女たちは此処に眠る。気休めであるけど規則に従い種を撒いたわ。色々思う所があるかもしれないけど。恨むなら私を恨んでください、以上」
マリエルの短い挨拶にファーが手を上げる。マリエルがファーを見つめ一歩下がった。
「騎士になった時から何時かは死ぬとわかってました。今更恨むも何も。それに、コーネリアは単独行動をしましたし、後に追いかけさせたのは私でもあります。マリエル隊長が今更自分を悪役を演じてもそんなに意味はありません」
毒気を抜かれたのか、マリエルは肩の力を緩めた。
「あ、っそう……。他の皆も同じ意見?」
簡易な墓の前で全員が腕を前にだし篭手を見せあう。聖騎士なりの挨拶なんだろう。
「貴方たち、そんな事じゃ直ぐに死ぬわよ。まぁいいけど」
誰よりも先に助けに行こうとしたマリエルが言うもので何人か笑っている。
ファーが微笑みつつも真面目な顔になり、現状を皆に知らせた。
「逃げた盗賊は、我々の篭手を奪い逃走しました。我々は篭手の回収、破壊をしなければなりません。アジトの襲撃を行います、各自戦闘態勢を維持してください、所で」
所で、と言葉を区切るファー。その目線は僕を捕らえてきた。
ああ、確かに。この場にいる僕は一番の足手まといである。
ひらめいた、と言わんばかりの笑みになったマリエルは近くによってくると腰の辺りで指を動かしてくる。
小さな留め具が外れる音が聞こえると革製のベルトを手渡してきた。ベルトには様々な物を引っ掛けられるように穴は輪が付けられており、今は一振りの剣が鞘事付いていた。
「はいこれ。なるべく、守るけど。一応持っておいて」
情けない声と共に剣を受け取る。
「えっと、マリエルは?」
「え。私? ファーっお願い」
ファーは、どうぞというと新しいベルトと剣をマリエルに手渡す。
「あっ。一点物じゃないんだ」
「ほえ。ああ、もしかしてヴェル。新しいほうが良かった?」
「マリエル隊長、恐らくヴェルさんは、マリエル隊長の私物装備をもらって隊長はどうするんだって事を聞いているのと思います」
「あっ。ごめんごめん。剣もベルトも大きさは違えと支給品だから、流石に剣の予備はもうないから、コーネリアが使っていた奴を持っていくけど。ベルトの予備ならまだ数本あるわよ」
そうですか。一人心配した僕がなんだか気恥ずかしいというのか。
受け取ったベルト腰に付けるとずっしりと重いのが伝わる。
剣を抜いてみてと言われたので右腕で引き抜こうとすると中々に抜けない。
鞘を斜めにしてやっと剣を抜いた。
両手で真っ直ぐに構えると、マリエルが謎の拍手をする。多少重いが扱えない事もない、ただし実践で使えるかは置いておこう。
盗賊たちが踏み鳴らした細い道を一本の列にして歩く。此処から先は戦闘がおきやいという事でマリエル達が先頭に立ち僕は一番後ろである。
結構な荷物を背負っている女性隊員の後ろに僕は歩いている。名前は確かナナと呼ばれてるのを利いた気がする
何も会話をせずに黙々と歩くと、ナナが振り返った。
フードから出る金髪が夜空の光に照らされ薄っすらと光っている。青い目を細くし僕をにらみ付けてくる。
「何か話したらどうですか」
「えっと、何かって」
「お姉さま達とは楽しそうにしてるのに、随分と陰険なんですねっ」
僕に文句をいうと再び前を向き小走りに走っていくナナ。
どうしたもんかと、僕は頬を掻いた。
どうやら嫌われているのだけはわかる。
別に楽しい楽しくないとかは無く、マリエル達に話しかけられるから返しているだけで、周りからは楽しそうに見えたのか。
声かけて訂正しようと試みるが、ふと手を止める。
先頭が止まったのか列全体が止まった、ナナとの距離が少し近くなる。
「アジトを見つけたのかな……」
一人呟くとナナが振り返る。
「当たり前です。お姉さまは優秀なんですから、それなのにこんな無能ばっかりばっかり――」
段々と声が小さくなっていくナナ。無能とはもちろん僕の事だろう。
確かにその通りなので特に反論もしない、いや、逆に力が在ったとしても無能なのは間違いないんだから。
「そもそも、コーネリアやマオ、それにアンタの村が全滅したのだってアンタが厄病神だからなんじゃないですかっ」
ぶつぶつと聞こえるように文句をいうナナ。直ぐに何かをパシンと皮膚の叩かれる音が聞こえた。
ナナの前にいた女性、アデーレがナナの頬を叩いていた。
呆然とするナナにアデーレが僕達二人だけに聞こえるように喋る。
「いいかい、ナナ。そしてヴェルさん。死は誰のせいでもない、こんな話が隊長に聞かれたら、あの人は全てを受け止めようするからね『私が死を運んでいる』ってね、ヴェルさんも気を悪くしないでほしい、この子は隊長が好き過ぎてね」
前を向こうするアデーレに、ナナが更に文句を言い出す。段々と声が大きくなっていく。
「普段口数が少ない割りに随分と、この人をかばうんですねっ。だって、だって。コーネリアもマオもわたしの同期なんですよっ」
アデーレは重たそうな荷物を苦ともせずまた振り返る。
「それだったら、コーネリアは私の同郷だ。彼女の小さい時から知っている、彼女の死を彼女の両親に伝えるのは私だと思っている」
先頭のほうから小走りに走ってくるファーが視界に入った。
「アレーレ、ナナ、ヴェルさん。後ろが騒がしいですけど何かありましたか」
「副隊長。特に異常はないです」
アデーレが簡潔に報告すると、頬を叩かれ赤くしたナナと僕、アデーレを見て軽く息を吐く。
「そういう事にしておきましょう。ナナ、怒りをぶつけたいのであれば。これが終わった後に隊長と稽古を付けるように手配します。少しは気が晴れるはずです」
「ほ、ほ――んんんんっ」
行き成り大声を上げようとするナナの口をファーが強引に塞ぐ。おかけで差ほど周りには広がらなかった。
「静かにしてください、いまアジトを見つけた所なんですから」
注意するファーにナナは目を輝かせ何度も頷く。「それでは」とファーは先頭に戻っていった。
「隊長と稽古、隊長と稽古、隊長と稽古、隊長と――」
アデーレは既に前を向いており。ナナは口元を緩め同じ言葉を繰り返していた。