第十八話『命守るため』
便利な所に町が出来る。そう例えば水場が近い、平地が多い、食物が育ちやすいなどなど。
僕たちは今は岩が多い山岳地帯を歩いている。町から出発して早二日、人間は凄い物である。所々に休憩所を作り、簡易宿泊や旅に必要な物を売っていた。もちろん町で買うより大幅に高い値段であるが。
最後に立ち寄った休憩所の主人が、この山々を越えるまで次の休憩所はないよと教えてくれた。もっとも、聖騎士様たちには要らない情報でしたかな、と一声付いていた。
マリエルやファーは、愛想よく笑顔で答え主人から高い飲み水を買うと、店主がもう一つと、そっと耳打ちされ何かを伝えられていた。
マリエルとファーが何かを話している。軍事的な事は聞かないほうが良いと思い僕は一人距離をとる。近くの木に背中を預けその様子を眺めていた。
マリエルが僕の所へ小走りに走ってきた。
「かっこつけている所を恐縮なんだが」
「ぶほっげほっ」
突然の言葉で思わず咳き込む、マリエルを見ると嫌味など言っているわけじゃなく本気でそう思っていた顔なのがわかる。
「別にかっこつけていたわけじゃありません。部外者の僕は余り重要な話は聞かないようにしなとおもって」
「なんだ、そうだったのか。私はよく回りの皆から離れて一人かっこつけりするんだけど、ヴェルもその類かと思って、ごめん」
「いえ。いいです。所で――」
「ああ、そうだった。店主に変わった事が無いか、と聞いた所、最近この付近で行方不明者が出ているらしいのよ。念のために西の山へと入る悪いが徒歩になるがいいかな。これも旅人の命を守るため、しいては王国の民を守るためって事なんだけど」
いいも悪いも。僕に何かを言う資格はない。「もちろんいいですよ」と答えを返した。
馬は小さな商店の親父に預け、山を越えた先にある次の町まで送ってくれるらしい。行方不明者がいると噂されている西の山は、反対側にあり、盗賊が要るなど噂があると教えてくれた。
「以前来た時はそんな話聞かなかったんだけどね、これも国を守るためって事で」
ファーの支持で全員が山へ行くための装備に着替える、数人が大人一人分以上の荷物を背負い。準備完了であった。
街道から少し離れた場所しゃがみ込む隊員、髪を一まとめにし何処か垢抜けてないような顔の少女は、地面に手を当て何かを懸命に調べている。
直ぐにミントを呼んだらしく、その少女とミントがこっちに走ってきた。
「ふぁーちゃん。こーちゃんが見つけたって」
「ミント……一応、休暇は終わったんだから正確に伝えなさいね」
怒られたミントは眉を下げ泣きそうな顔つきになる。横で聞いていたマリエルがミントの頭を優しくなでた。
「別にいいじゃない。コーネリアが盗賊の足跡見つけたんでしょ、大丈夫大丈夫意味は通じたから」
行ってよし。とミントの体を半回転させるとミントは他の隊員の所へ戻っていった。
その姿をみてファーがマリエルに文句を言っているが、ファーは途中でため息を付き「今回だけですよ」とマリエルに伝えていた。
「さっすが、優秀な副官だわ。っと、ヴェルどうしたの」
僕の体がゾクッと震えた。この感じは数年前でよく味わった目線というか、盗賊団に居た頃に感じた記憶がある。
「いえ。何か視線を感じたようなきがして」
「そっかー。ん、一応各自に伝えておくわね」
「いや、僕個人が思った事ですし」
いいのいいの。と手を振りながら手荷物を確認していたファーに耳打ちすうマリエル。ファーは其れをさらに数人同じ事をして戻ってきた。
「これで全員に伝わったはずよ」
小声で話しかけてくるマリエル。念のためといって此処からは無駄な会話はしないように伝達されていた。
薄っすらと踏み潰された土を探しながらゆっくりと山へと入る。
暫く進むも成果はなく日が暮れ始めた。
少し斜めになっているが適度な広さを持つ場所に着いた僕達は野宿をする事にした。
隊員の数名がマントを広げる、想像よりも大きく広げられ、既に巨大な布と化していた。
山の斜面から落ちない場所に手際よく張り付け、旨くテントへと変えていく。
他の隊員も数名が強力して大きなテントにしたり、中に木の棒をさし三角の形にしたりとしていた。
マリエルとファーも自らのマントを脱ぎ広げ小さなテントを作り上げた。
「はいどうぞ」
直ぐにテントの中に入ったマリエルが僕とファーを手招きして呼び寄せた。
室内は暗く、ファーが腰の持ち物から蝋燭と火打ち石を取り出し火を付ける。三人の影が大きくなりテント内に移っていた。
「凄いですね」
「凄いでしょ。防寒、簡易テント、捕縛などなど。マント一つで色んな事できるのよ」
「マリエル隊長が凄いわけではないですよ」
「一言多いわよ」
外の様子を思い出す、遠めでは闇に紛れて何処にテントがあるか解らないようになっていた。
もちろん通常の野営と違い、行方不明者の痕跡いや、盗賊のアジトを探す目的もあるので火は使わない。
乾燥した干し肉や硬く小さく切り分けられたパンを食べおえ僕らは会話をしていた。
その間にも数名の隊員達が入れ替わりファーへと現状を報告しに訪れていた。
一段落終わったのか静かになる山。妙な気配も感じつつマリエルが蝋燭の火を吹き消した。
「さて、寝ましょうか」
マリエルは一言言うと暗闇の簡易式のテントの中で寝転んだ。光は消えたが、薄っすらと外からの光がテント内へと入っている。
僕とファーは顔を凝視する。『流石に男女一緒のテントの中で寝るのはまずいでしょ』と僕はファーは目で訴える。
これまでは簡易宿泊所だったので小さな小屋の中で雑魚寝である、もちろん男女は薄い戸板で別れているし間違いは起こるはずもない。
小さいテントの中だからといって間違いを起すつもりもないが、周りの目というものがある。
最近では、僕がマリエル、ファーと常に横に要るので、他の女性隊員が僕に敬語で話しかけてくる始末である。今回のテント決めも誰も何も言わずにこうなった。
「あれ、二人とも寝ないと明日も朝早くから移動するから辛いだけだよー」
寝ない僕達に不思議がるマリエル、薄めを開けて喋ったかと思うと再び瞳を閉じ始める。
もう一度ファーに目で訴えた。
「そう――ですね。寝ましょうかヴェルさん」
ファーの目が濁った、彼女にしては珍しく考える事を放棄した目になりマリエルの横のスペースに寝そべった。 僕と目が合わせないように直ぐに横を向く。
恐らく、ファーも色々不味いと思ったのだろうが、解決策を提示して動くよりは、マリエルの支持に従ったほうが早いと判断した結果か。
それじゃ僕も、とは流石に行かない。二人とも直ぐに静かな吐息に変わり始める。
音を立てないようにそっとテントから抜け出すと口を大きく開け、手で必死に押さえながら叫び声を我慢している女の子の顔が写った。