第十五話『模擬試合』
僕は今酒場からはなれた場所にある誰も来ないような広場に立っている。
大勢の人数、と言っても。この数時間で見知った顔ばかりであるが、聖騎士第七部隊の隊員に見守れて、立っている。
日は既に傾きかけており、薄っすらと赤くなっていた。鳥たちが巣に帰るのに飛んでいるのが音でわかる。
前方の先には大きなたんこぶが出来たミントが頭を抑えながら立っていた。
間違えた情報を皆に伝えたとして、僕やマリエル、ファーに怒られた後である。
改めて僕の能力を測りたいと言う事を全員に伝えたマリエル達は希望者を募ったのだが、どれもこれも全員が手合わせしたいと言う事で、結局はミントが選ばれた。
ああ見えてもミントは他の隊員よりも強く戦闘に関しては一目を置かれているとの事。
僕らの周りを地面に四角長い線を描いたマリエルが「よいしょ」といって剣を鞘におさめる。
仕事が終わった、という満足な笑みを浮かべたマリエルは地面の線から退き椅子に座り。変わりにファーが中央へとあるいて来た。
この構図、上空からみると恐らく長方形に真ん中付近に一本の横線、そこにファーがおり、そしてその線から十歩ほど下がり僕とミントが対峙している。
「では。この線の内側で訓練となります。どちらもコレは訓練ですので遺恨を残さないようにお願いしますね」
中央にいる赤と白の旗をもったファーが高らかに宣言する。
小さく手を上げて僕はファーに質問をする。
「えっと、コレって下手したら――」
「ええ。死にます」
僕の疑問を最後まで聞かずにファーが答えてくれた。
ああ、そうですか。なんで次から次にこう厄介ごとがおきるんだろう。これは篭手の呪いなんだろうか。
「そんなあからさまに落ち込み暗い顔をしないでください。昼間の回復力を見ても怪我はすれど命までは平気と思います。それに、その為に私達が居るのです」
「落ち込んではいません、暗い顔は元からです」
「そうですか、なら良かったです」
何が良かったのか知らないがファーが何時もの笑顔で受け答える。
「ファーちゃん、早くっ早くっ」
ミントは僕をコテンパンにする気なのだろう、ファーに試合の催促をしていた。
はいはい。と言うファーは線の外側に戻り、一際大きい笛を吹いた。
ミントが突進してくるのがわかる。酷くゆっくりに見えて僕の腕を狙ってくるのがわかった。
ガードをしてその攻撃を防ぐ。瞬間僕は、空を見ていた。
両足両手、それに背中に衝撃が走り、遠くから笛の音が聞こえた。
何故か僕の目には今は木々がみえている。考えがまとまる足音が聞こえた。
顔を上げると寝そべり倒れている僕の前にマリエルとファーが近くに居た。
「だ、大丈夫ヴェルっ」
「動けますか、ヴェルさん」
心配してくれた声で意識が覚醒する。ああ、そうか。はるか先にみえる広場から僕は吹っ飛ばされたのか。手を軽く動かし、足も動かす。胸や腰を触ってみると痛みが引いていくのが解った。
「問題ない」
「よかった。じゃぁ実力もわかったし帰りましょうか」
「何を言っているんですか、マリエル隊長。ヴェルさんはまだリタイヤするとは言ってません」
「えー。でも、一撃で此処まで飛ばされたら後は――」
後は負けるのが確定している。そう言いたいのかマリエルは僕をみて言葉を飲み込んだ。 模擬試合だし負けても何も問題はない。そう問題は無いのだ。
「やりますよ。一度吹き飛んだだけじゃ判断に困るでしょう。とりあえず回復速度はあるようですし」
「そうですね。私達は審判なのでヴェルさんに触れられませんが、見た限りAクラスと言って良いでしょう。低いように見えますがマリエル隊長や私はBクラスです」
「ありがとうございます」
僕のやる気を見てマリエルが慌てて止めに入る。
「ちょっと、いくら再生力あったって、そう何度もミントの攻撃を受けたら、骨折れるわよ」
「大丈夫です。まだ折れてません」
「あのねー」
マリエルが反論してくるが、僕はそっと森から出ると。遠くから黄色い歓声があがり、ミントも両手をふって合図をしている。
待たせるのも悪いので小走りに線の内側へ戻った。
根拠はないが次はもっと旨くいけるようなきがする。
ファーが真ん中に立ち僕とミントを交互にみて下がる。笛の音が響いた。
何故か熱くなっていた僕の頭が冷めはじめる。万が一避けるのはいいけどどうやって攻撃をしかけるんだ。
「ヴェルにい、すきだらけーっ」
目の前で声が聞こえたと思った時。僕の胸にミントの一撃が入り、またしても僕は森の中へ跳んでいった。
先ほどと同じくマリエルとファーが近くによってきた。
勝負はどうする? と聞かれたので素直に負けを認める。
何故か凄い眠気が襲ってくるのがわかった。
「すみません。何故か睡魔が――もう。たって居られ――」
「恐らく自己回復が追いつかなく成っているのでしょうで」
「いいよ、いいよ。ヴェル。私がおぶって宿に連れて行くから」
女性におぶられて宿に行くのは恥ずかしい、自力で帰る。
「いえ。自力で――」
戻れますので、そう言えたかどうか解らないまま僕の意識は闇へと落ちた。




