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第十四話『疑惑と国』

「では。私はこの惨状を湯屋の主に報告と、被害額などの清算をしてきますので」


 壁や岩、浴槽の一部が壊れた湯屋を背後にあちこちボロボロになった服装のファーが喋り終えた。「では、失礼します」というと足早にかけていった。

  

 早い。直ぐに見えなくなっていく。僕の隣ではミントもなぜか準備運動をしていた。

 

「ミントも皆にせつめいしてくるねー」


 何を、誰に、そして誰か説明するのか全部省いた言葉をいい、ミントが走って消える。

 たった半日の付き合いなのに、ミントがトラブルメーカーなのは理解できた。

 隣にいるマリエルに「どうするんですか」と目で合図を送るが、キョトンとしていた。


「いやーごめんね。ヴェル。まっさか本当に襲撃があるとは思わなくてさっ」

「はい?」


 思わず聞き返す。


「いや。だって、その篭手が凄そうなのは感じていたけど襲撃する意味がわからないじゃない」

「僕がとんでもなく強くなってるとか――、いや聞き流して下さい」


 自分で言っていて恥ずかしい、自らの強さもわからないのに強いか弱いかもわからないし。仮に強かったとしたらただの自惚れである。


「わー。ヴェル、耳まで赤いっ。っと、それも考えんだけど、強さで言えばさっき襲ってきたフランって居るじゃない。あれよりヴェルが強いと自分で思ってる?」


 余裕の笑みで攻撃をしてきた痴女。もといフラン。ほぼタオルを前から離さず器用に攻撃してたもんだ。彼女からのミントの攻撃はなんとか守ったが、あの時フランが本気を出せば僕は死んでいただろう。


「無いですね。アレだけ余裕の攻撃をして、尚且つ簡単に逃走。ぱっとみ様子見でしょうか」

「おぉ。ヴェル、凄いじゃない軍師になれるよ」


 嬉しそうに喋るマリエルを横目にため息を我慢する。

 こんなんで軍師になったら軍師が可哀想だし、ファーが怒るだろう。


「そうなのよ。強い人だけを探すなら別にヴェルじゃなくていいのよね、他のハグレでもいいわけだし」


 マリエルの言うハグレ、前にも聞いたが聖騎士の力をもつも王宮の考えに付いて行かなかった集団。


「フランもそうなんですか」

「うん、まぁ。フランもそうね、数年前に行方不明になった王国公認のハグレよ」

「あの、公認も非公認もわからないんだけど」


 足を止めて指を立てて僕に向き直るマリエル。


「はーい。マリエル先生の聖騎士講座ー第三回、ハグレについてー」


 第一回と第二回は何処に言ったかと聞こうとしてやめた。どうせたいした理由ではないだろう。


「拍手は?」

「はい?」

「だから、拍手っ」


 瞳をうるうると滲ませ金髪の髪を揺らして僕を見ていた。

 僕は慌てて拍手をする。気分を良くしたマリエルはハグレについて説明してくれるらしい。


「以前にも言ったけど、聖騎士もしくは聖騎士崩れと呼ばれる王国の人間が管轄を外れると公認ハグレとなります。非公認というのは、まぁそのまま。王国が知らない力をもった人間の事よ」


 明るかった声が段々暗くなっていく。


「そう、例えば帝国フォルダンからの刺客とか――」


 世界には数々の国がある。その中でも王国マミレシアは大きな国の部類に入るらしい。その国と対になるようにある国。隣国であり帝国フォルダン。


「でも、王国とは……」


 王国とは友好条約が結ばれている。

 元は一つの国であったらしいが。何で別れたかは僕はしらない、ただ別れているという事だけが事実である。

 姉妹国でったフォルダンは、王国とは名乗らず帝国と名乗っている。


「そう、友好を築いてる。でもならなぜ私達聖騎士が存在しているのかしら」


 元々この付近での国家間の戦争は数百年起きては居ない。

 とは言え、王国では聖騎士団が存在し国境付近や内部の鎮圧にあたっている、もちろん戦いになれば前線にでる部隊だ。

 帝国フォルダンでも聖騎士に対抗する部隊はあるらしいが僕は詳しくしらない。


「ヴェル、貴方の居た村にだって帝国の行商人が来たりしなかった?」


 まったく来ない、そうは断言できない。年に数回は他の国からの商人が立ち寄ったりもした。よく村長が家に招き珍しい物を買ってはフローレンスお嬢様に手渡していた。

 それ以外にも最近では新しい種もみなども買い付けては村人に分け与えたりもしていた。


 王国にとって報告するべき事案である。するべきというか義務であるのだ。

 僕が無言で居ると、マリエルは微笑みを向けてくれた。


「あんまり嘘付けないのね。まぁいいわ、私は私の為にこの国を守る。聖騎士の名にかけて。ヴェルが敵になりません様に」

「なりませんよ。そもそも僕はそんなに強いとも思ってませんし」

「そっかなーあの日の夜の一撃は凄かったわよ」


 あの夜の記憶はほぼない。剣を抜いて突進したまでは覚えているが、本当にないのだ。在るとすれば全てがゆっくりと見えたきがする。


 話ながら来たのでいつの間にか酒場の前に着いた。酒場のドアを開けると僕とマリエルの頭の上に色どり鮮やかな紙ふぶきが舞い散った。


 突然の事で僕たちは固まると。左右から拍手が沸き起こる。


「えっ、ちょっと何これ?」


 マリエルが疑問を上げると。隊員である女性達が僕の前に寄ってきた。


「マリエル隊長とお付き合いをしたってききました」

「えー結婚って聞いたわよ」

「ヴェルさんの剣でマリエル隊長を貫いたとか」

「いえ。裸の付き合いをしたって」

「姑であるファーさんに認められたとか」

「隊長、ハネムーンは何処ですか」


 紙ふぶきに埋もれたマリエルがため息を付く。恐らく僕も同じタイミングでため息を付いたのだろう。


「ミントーーーーーーーーーっ」

「ほえ?」


 まったく悪びれない顔のミントが食堂で一人おやつを食べていた。

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