第十一話『狙う者狙われる者』
「ふふぉおお。ヴェルにいの弟達のとぜんぜんちがう」
何処かを見て喋るミントを、手に持っていた桶を頭から被せる。直ぐに、
「前がみえないー」
と喋っているが無視する事にする。その間に出入り口の場所へ歩き用意してきたタオルを腰か手どちらか隠すが迷い。結局は腰にした。
開き直りである。いまさら篭手を隠した所でミントだって見てるだろう。
桶を取り、生まれたままの姿で僕をみて笑うミント。僕はなるべく見ないようにし、素通りして湯船へと入る。
「所でなんで男湯にいるんだ」
「えーミント。おんな湯に入ったよー。ヴェルにいが入ってきたんじゃーヴェルにいも男の子だねぇ」
何が、男の子だねぇだ。ミントが勝手に――ん。
ふと。一つの考えが過ぎる。
「ミント、女湯から入ったんだよね」
「うんっ。そしたらヴェルにいが居て、石鹸探してるみたいだからミントの上げようかとおもって」
ああ、そうかやっぱりここは混浴風呂だ。
「ここは。混浴だから、決して僕が女湯に入ったわけじゃないから」
「おぉ」
何が「おぉ」かわからないが納得したらしく湯船の中に入り泳ぎだした。
僕の右腕を何度も見ているはずなのに何もいわないミントは、気遣いなのか子供なのか判断に迷う。
ミントが僕の視界から離れていく、これが普通の男だったら喜ぶんだろうなと思い、ため息を付く。
盗賊時代から、周りで起こる男女の運動を見、尚且つ小さい頃からフローレンスお嬢様にいいように玩具にされた僕としては、興味が薄くなるのは当然と言うべきか。
ミントが視界から見えなくなった辺りに、急に背後に気配を感じた。慌てて振り返ると白いタオルで全身を隠した女性が僕を見て小さな悲鳴をだした。
直ぐに僕は前を向き、この場所を説明する。
「っと、急に見てすみません。此処は混浴らしいですよ」
すると、女性のほうから思いもかけない言葉が返ってきた。
「ええ、しってますえ。お隣よろしいですかえ」
僕の返事を聞かないままに横に入浴してくる女性、紫の髪を一つにまとめ流し目をして此方を見ている。
「ほんまぁ。立派なのをお持ちになってぇ」
僕の肩をさわり胸を触り最後に太ももへと触ってくる女性。
どう返して良いのか判断に迷う。恐らくは男性に飢えての女性なんだろうが、見ず知らずの人と行き成り関係は持ちたいとは思わない。
「申し訳ないですが、此処はそういう施設ではありませんので、ご期待に添えなくて申し訳ありません」
「いけずやわー」
太ももを触っていた女性の手が僕の右腕をしっかりと掴むと離さない。
思わず女性を見ると、妖しい笑みを浮かべ、赤い唇から舌を一舐めして戻す。
「ほんま、この腕千切って持ってきたいわあ」
篭手狙いっ。僕がそう思った時には既に遅かった。左肩も抑えられ湯から出る事すら出来ない。それ所が左肩を強引に外された。
痛みに思わず瞳を閉じうなり声を上げた。
「おばちゃん何してるの?」
場違いな声が聞こえたかと、痛みをこらえ目をあける。全身何もきていないミントが上目使いに僕と女性を見ていた。
僕と女性を交互にみて、腕を組んで考え始めるミント。
女性に掴まれている腕や肩が小刻みに震えているのは僕の震えではなく女性の震えが伝わってきている。
こいつは危険だ。僕がそう思いミントに逃げるように伝える前に女性が喋りだす。
「おじょうちゃん。おねーさんは忙しいからあっちいてへんのう」
おねーさんの部分を強調して喋る女性。腕を組んだミントが組んだ腕を解いたかと思うと予備動作も無く水面から足を蹴り上げた。
女性はその蹴りが当たる前に一回転をし洗い場へと立つ、相変わらずタオルで体の前側をタオルで隠している。
「これだから、話を聞かないおこちゃまは、こまったさんねぇ……」
「ヴェルにいだいじょうぶ。いたいいたいがまんして」
僕の肩に手を置くと肉体にゴリっとした鈍い音と痛みが走る。肩を入れてくれたミントに小さく「ありがとう」と伝えると、僕を見て八重歯を光らせ笑ってくれた。
直ぐに「うしろに下がってっ」と僕の体を女性から遠ざけた。
「あらあら、ウチと戦うきかえ」
女性がミントをみて微笑んでいるのがみえる。しかしその笑みは嬉しいという笑みよりも獲物を駆る表情にも見えた。
ミントが口を開き短い気合を出す。
「はああっ」
その様子をみて女性がげんなりとした声を出し始めた。
「はー。田舎娘は直ぐ暴力に頼りよる。ねーあんさんもそうおもわんかえ?」
僕を見て答えを求めるが、僕が答える前にミントがお湯から飛び出し回転蹴りを女性へと攻撃した。
一撃目、二撃目、三撃目。どれも当たれば強力な攻撃であるだろうが、タオルで前を隠している女性は全てを余裕で交わし、胸の谷間から石鹸を取り出すとミントの足元へ転がした。
石鹸を踏んですべるミントはそのまま木の壁へと突進していった。大きな音が響いたと思うと顔面を打ち付けたのが見て解る。
「ウチは平和的にきただけですのにねー。こうやって裸の付き合いをしてるだけですのに」
じりじりと浴槽へ寄ってくる女性。
「貴方の狙いがコレなのは何となくわかるんですけど。先約がいるので帰るって選択肢はないですか?」
僕は腕の篭手を見せつけながら一歩引く。
唇に人差し指をあて数秒考える様子をみせる女性、もちろん首を横に振る。
女性の背後から、桶をもったミントがジャンプしながら攻撃を仕掛けるのが見えた。
うしろに目でもあるのか女性は脚を背後に開脚して蹴りをいれる。ミントが僕の横に水、いやお湯飛沫を立てながら突っ込んでくる。
「ぷわっ」
直ぐに頭を出して女性をみるミント、その鼻からは鼻血が垂れていた。
その顔を見て女性が挑発をする。
「あらあら。血なんかでちゃって今夜はお祝いからしらねぇ、でも……」
一度言葉をとめる女性。
「うるさいから殺しちゃいましょうかね」
隠していたタオルから剣を取り出す。刀身は細く刃の厚みも薄い。
一歩踏み込む女性が剣をミントへと突き刺す。横に避けるミントの姿を確認した所で女性が笑うのが見えた。
剣が横に曲がりミントの体を突き刺した。
女性が腕を引き抜くと、ミントの体からも剣ぬが抜き出る。体から血がドクドクと溢れ湯を赤く染める。
「聖騎士様は死ににくいらしいけどな、何回で死ぬかねぇ」
再び湯へ剣を走らせる女性。苦痛に顔をゆがませるミントを抱き守る。
僕の体に剣が当たり剣先が曲がる。抱いて守っているミントの背中に剣が突き刺さる。ヘビの様な攻撃がかわしきれない。




