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第十話『湯浴みをしましょう』

「馬鹿な事いってるんじゃないわよっ」


 そう怒るのは赤い顔をしたマリエル。怒られているファーは涼しい顔で受け流している。

 マリエル達が僕のために取ってくれた部屋での出来事だ。

 ファーのノックで僕は急いで右腕を毛布の中へ隠し壁に寄りかかっている。マリエルが扉を開け僕とマリエルを確認すると、短く息を吐くのがわかった。

 

「もちろん冗談です。食事を持っていっただけなのに帰りが遅いからです。ヴェルさんがマリエル隊長をどうこう出来るとは思ってませんので、そうなるとマリエル隊長がヴェルさんをどうこうしたとしか――」

「あんたねぇ。所で何しに来たのよ」

「湯浴みを」

「えっ湯浴み?」


 マリエルがファーの言葉を繰り返し聞く。同じ答えを言うファー。

 ファーは手に持っていた幾つかの包みを広げ僕に見せた。

 新しい包帯や添え木が数本、新品ではないが汚れの無い布の服にズボンと石鹸やタオルを見せ。最後に小さな鞄へ戻して手渡してくれた。


「ですから、お二人とも。いえ、マリエル隊長は兎も角ヴェルさんは疲労が溜まっているかと思い湯浴みの提案に。幸いこの町にある湯浴み場の離れは貸切で抑えてありますので」

「あーっ。いいね、さっすが頼りになる副官だわ。私達も昨日入ったんだけど天然のお湯に色んな木が浮いて気持ちよかったよ」

「木ではなくて。精神を安定させる葉です」


 強引に決まり、着替えるからといって二人を部屋から追い出した。着ていた服はあちらこちら泥や血の後が付いており、乾いた笑いが出る。

 なるほど、確かに清潔ではないしこれじゃ匂いもしていただろう。

 腕の包帯を巻きなおし、一階へと降りていく。


 酒場には、既に何人か聖騎士団の女の子が戻っており何人かの女性は僕の姿を確認しては手を振ってくる。

 軽く会釈をして扉をでて大通りへと出た。湯屋の場所は何度か来た事あるので覚えている。背後から行き成り背中を叩かれ前のめりになる。


 後ろを振り返り顔を見ると見覚えのある女の子が八重歯を見せわらって居る。最初に会ったときと違いやはり小さな青いマントをロープのように着ていた。


「えっと、ミント?」

「おお、そうだよヴェルにい、お風呂でしょお風呂一緒はいろ」


 男女の体の違いは知らないわけほど子供でもない。僕自身がミントと一緒に裸の付き合いをしてはまずいと言うのは世間では常識だろう。ましてや家族や兄妹でもないのだ。


「気持ちは有難いが――」

「えーだってたいちょーがごえい居るっていうから、それにお風呂はミントも好き、あっもしかしてヴェルにい一緒に入りたかった」

「ちが、断じて違うから」


 僕が大声を上げるものだから数人の町人が僕らをみてきた。しかし直ぐに興味を無くしたかのように日常に戻っていく。


「ざんねんー入り口はわかれるのだー」

「ああ、そう。良かった」 

   

 心底ほっとして横を見るとミントが視線に気づいたのか不思議そうに僕を見てくる。


「ヴェルにいどうしたの?」

「いや、特に。それよりなんで僕が『にい』付けなの?」

「えーだって。たいちょーのあいじ。ちがった、こいびと? だからヴェルにい」


 違うから。この子は何か根本的に勘違いをしている。


「あのね、ミント。僕は別にマリエルの恋人でも愛人でもないから」

「えー。それじゃ、ファーちゃんのっ」

「違うっ。所で第七部隊って女性しかいないの?」

「うんっ。マリエルたいちょーはねー。女性でもかつやくできる場を作ったえらい人なの。ファーちゃん言ってたの」


 ミントが立ち止まるので僕も立ち止まる。かわいらしい顔で、両目の端っこを横によっぱり細めにする。口を尖らせて喋りだした。


「『男に飢えた女が多いからミント、貴方が護衛に行きなさい』って」


 ファーの物真似を突然するミントに思わす小さく笑った。なるほど、だから酒場でも手を振ったりする子が多いのか。


「おおっ。ヴェルにいがわらった……」

「……そんなに僕は笑わないかな?」

「うんっ。ずーっとしかめっつら。ファーちゃんから、ヴェルにいを笑わせてきなさい。って言われてるの」

「しかめっ面は生まれつきだから」


 言われ続けた言葉をもはや、反射的に返す。そうこうしている内に湯屋が見えた、木造の建物に大きな水風車が付いている、お湯や水をあれで循環しているのだろう。

 扉からはさっぱりとした人が出てくるのが見える。


 入ろうとすると、ズボンを引っ張られた。みるとミントが僕の足を止めていたのだ。


「ヴェルにい。そっちじゃないよー貸しきったのはもっと奥ー」


 なるほど、確かに貸切って言ってたな。と思い、小走りに先に走り出すミントの後を歩く。

 建物からさらに歩く事すこし、町外れに差し掛かっていき建物よりも小屋が多くなる。人もすれ違わなくなり、とうとう小屋すら見当たらなくなった。

 目の前にあるのは垂直に切り立った岩である。

 タチアナの町は崖を背に半径上に成り立っているのは知っていたが、僕も此処まで来たのは初めてである。


「こっちー」


 ミントが走る方向を向くと、垂直に立てられた木の板が何本も並んでいるのが見えた。天井は無く木の板の向こう側から湯気が立ち上っているのがわかる。


「なるほど」

「ねー。すごいっしょ、男性があっちで、女性がむこう」

 

 真ん中を中心として左右に出入り口があるのを教えられた。ミントと別れ僕は男性用の脱衣所へ向かう。

 木の扉をぬけ網状の籠があった。これに衣服をいれるのか――。


 吊っている右腕から包帯を外しすか迷う。

 脱衣所には他の衣服は何も無い。

 貸切と言っていたし、これだったら大丈夫だろう。腕に巻いてある包帯をくるくると回し全てを外す。

 外れないかと篭手を引っ張るも腕と一体化していて外れる感じはしなかった。


 全てを脱いだ後、もう一枚扉があり僕はその扉を開き洗い場へと入った。

 

「すごいな……」


 湯気で全ては見えないが幾つもの岩を置いて巨大な池に成っているのがわかった。

 その中で湯が溜められている。そびえ立つ崖のほうを見ると、外からは解らなかったが崖の中腹から滝のように湯が噴出している。


 豪快な音を立てて湯を溜めていた。そして溢れた湯は一箇所に集められ近くの川へ流れるようになっていた。


 村でも湯浴みはするが小さな池を作り焼いた岩を入れるか、小屋の中に焼いた岩を置き水をかけ蒸気で体を拭いたりするぐらいだ。


 これほどの湯を使い放題。だからこそこの町が発展したのもあるのだろうかその大きさに感服した。

 入り口部分には使い込まれた桶が無造作に転がっていた。

 一つを取りお湯を溜めている浴槽の近く。お湯の中へと桶をいれその湯の温度を確かめつつ桶を洗った。


 自分の体へお湯をかけ一息する。後は体を洗わなければ。石鹸とタオルは入り口に置いたままなのを気づき腰を上げようとする。


「はい、ヴェルにい。石鹸」


 僕の斜め後ろから白い手と共に石鹸が視界入ってきた。


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