第3章「土曜日」(2)
「あれ?東さん、希々さんじゃないですか、早いですね!」
「あ、鈴」
「あ!えーと・・・加藤さんでしたっけ?」
「そうですよ!加藤鈴乃です!」
大勢の人が往来している駅の改札口から、加藤さんの大きな声で私たちを呼び、手を大きく振りながらやって来た。
彼女の声の大きさからか周りが少しドン引きしているのがやはり気掛かりだ。
ちなみに加藤さんの服装は灰色のスウェットTシャツにメンズ系の短パンのジーンズという少し男子っぽいスタイルである。
「加藤さんも十分早いです。まだ1時間くらいありますよ」
「そうですよね!どうしてもいてもたってもいられなくて!」
「ふふ。私たち少し気が早いのかもしれませんね」
それから、3人でどうでもいいことを駄弁りながら時間を有効活用していた。
10時40分過ぎ。アリシアさんとシャロンさんが改札口から出てきた。
2人の私服姿は、アリシアさんが青色のオフショルダーに水色のデニム、シャロンさんが黄色のタンクトップにオレンジ色のガチョウパンツであった。
「ワーオ!もう来てたの?!」
「あれ?皆早くないかしら?」
私と東さん、加藤さんは声を重ねてこう言った。
「「「仰るとおりです」」」
声が出た瞬間、私たちはふとそれぞれに顔を見合わせ、ふふっと笑った。
「みんな時間内に来たようでよかったわ。じゃっ、早速行きましょ」
アリシアさんは高飛車めいた口調でさらっとここにいる皆に伝えた。
あれ・・・皆?
「え?あともう一人・・・」
「待てぇぇぇぇぇっ!!」
聞き慣れた声・・・というより瑠琉の叫び声が駅の方から聞こえた。
そして、改札口からはぁはぁと息を切らしながら、全力で改札口の方へと駆けていく瑠琉の姿が見えた。
「間に合ったで!」
瑠琉は鬼気迫る表情で、私たちの方を見てから燃え尽きたかのようにふらふらと改札を出た。
ちなみに瑠琉は白いTシャツと紺色のワイドパンツを着ている。
「ごめん、忘れてたわ」
「瑠琉・・・とりあえず、お疲れ」
昨日の件、結果としてAIsに関わってしまったことから瑠琉も口封じという口実でチームAもといARMOR・ARMYと関われることになった。
「じゃ、じゃあ気を取り直して、行きましょ!」
「はい!アリシアさん。行くってどこにですか?」
そういえば、この駅で集合するのは聞いていたけどどこへ行くのかは聞いてなかったので、アリシアさんに質問した。
「そこよ」
アリシアさんは右手の人差し指で一つの場所の方を指した。
「なるほど、SENRICITYね」
SENRICITYとは、数年前に万博記念公園近くにできた大型複合商業施設である。
「あそこでなら、皆でいろいろと遊べそうでしょ!」
「え?!遊ぶの?!」
人の命が関わっている割には暢気なものであると思ってしまった。
「だって、しばらくあなたと関わるのだから、親密にしていかないとね!」
「そ、そうなのかなぁ・・・」
少し腑が落ちないけど、守ってもらう身なので反論は一切しなかった。
「じゃあ、行きましょう!!」
アリシアさんは嬉しそうな表情で駆け足でSENRICITYの方へ向かった。
「皆」でというのを強調した割には、私たちを置き去りにしている感じはあった。
「あー、大企業のお嬢様はよくわからん」
「希々さん、私たちも行きましょう!」
「あ、はい」