プロローグ
大阪。
私がこの場所に戻ることはないだろうと思っていた。
私はこの大阪で育ったけど、あまり良い思い出はなかった。私は家族以外は常にひとりぼっちだった。
地元の小学校では、文武両道を目指し勉強も運動も励み、成績だけは常にトップランカーだった。しかし、私を妬んだ同級生から陰湿ないじめを受けた。
だけど私は両親を心配させたくない理由からいじめられていることは言わなかった。
私の机には常に「死ね」や「真面目系クズ」などのらくがきが書かれ、ノートを破り捨てられることもよくあった。いくら先生に相談してもいじめは治まることなく、小学校6年生の頃にはついには机に私の写真と花が置かれ、所謂「死んだ人」扱いされていた。
これがきっかけで、私は生きる気力を失い、早く死んで楽になりたいことしか考えられなくなった。
私はある日、大好きな両親宛に遺書を書き、気付かれぬようにいつも通り学校へ行くと装い、家から最も近い最寄り駅へ向かった。
これで楽になれる。
そう思い、近づいてくる電車を見ながらタイミングを見計らい、駅のホームから飛び降りようとした。
その時だった。
この日この世からいなくなる予定の人間だった私の人生が大きく変わった瞬間だった。
飛び降りるすんでのところで誰かが私の手を握った。そのまま私はホームの白線の内側にしり込みした。
手を握ったのは、私の自殺に気付いた両親かと思ったけど違った。
そこにいたのは、私と同じ歳くらいのポニーテールの小学生の女の子だった。
「割り込み乗車はダメやで」とその女の子は言い、私の手を握ったまま轢かれるはずだった電車に乗り込んだ。
私は死ねなかったことがショックでわんわんと泣いたが、そんな私を彼女は電車に乗っている他の人たちに勘付かれないように優しく慰めてくれた。
それから一日中私と一緒にいてくれた。公園で一緒にコンビニ弁当を食べたり、百均で買ったオセロで遊んだりした。彼女はずっと笑顔だった。こんな人と出会ったのは生まれて初めてだった。
私のランドセルに入れていたボロボロのノートを見た時、今まで笑っていた彼女は突然大粒の涙を零し泣いた。
その時に言った彼女の言葉が、今の私の原動力になっている。
「あなたは、私なんかよりもずっとこの世に必要な人なのに…自殺しようとするなんて…こんな世の中おかしいよ…」
私はこの世界にいても良いんだ。
彼女は家族以外で初めて私の存在を肯定してくれた。そう思うと私はまだこの世界で生きていきたいと思うようになった。
気が付いたら私は彼女と一緒に泣いていた。
私は彼女に救われた。
その後、小学校を卒業した私は中学校からは自殺未遂で心配した両親と共にアメリカへ渡ることになった。
西海岸の大都市ロサンゼルスの中学校で、私は初めて友達と呼べる人たちと出会い楽しいスクールライフを過ごせたし、将来的にもアメリカで生きようと考え始めていた。
ただ、もう一度あの女の子に会いたいと、アメリカに来てからもずっと思っていた。
そんな時、私はこの世界でやがて来る脅威を知る。そして戻るつもりのなかった場所…大阪に住んでいるある女の子が狙われていた。
その少女こそ、私を救ってくれたあの女の子だった。
恩返しのために、今度は私が彼女を救うと強く誓い、その脅威に立ち向かいに仲間たちと大阪へ向かった。
大阪へ向かう飛行機の中で私はその女の子の名前を心の中で呟き続けた。
私を救ってくれた女の子の名前…
東山希々の名を。