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時にそれは恋する乙女のように  作者: カカオ2%
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1・騎士は時に激怒した。

――これは三人の物語――


 一人の魔女は天を仰いで、飲み込まれそうな夜空に手を伸ばすと涙を流す、自分が無力を装うたために一人の男が命を落としたからである、魔女裁判にかけられた自分のために、故に彼女は杖を取った、これ以上無力を装う魔女のために死ぬ命を作らぬために。


 一人の食人鬼グールは華々しい街を見下ろし、何もかもを拒絶するような石の建物たちに感情を抱く、自分は確かに人を食らうが、彼らが豚を食らうのと何が違うのかと。


 一人の女騎士は剣を地面に突き刺し、鋭い目つきを煌めかせ、鉛色の空の元敵陣に突っ込んだ、敗者に発言の権利などあるものか、世界はそこまでして甘くなく、まして異教徒などに首を垂れるぐらいならばこの首を撥ねて敵にぶつけ、一人でも多く殺してやると






――パルト要塞


 パルト教会はダイラス聖王国の国教であった、大陸の北東に位置していたその国は抱えた大量の人員に耐え切れず、割れる寸前の風船のような状況を打破するために、黄歴172年の寒い冬の日である、南方国家アルマ帝国に宣戦布告をした。


 アルマ帝国、それはカリエス教会を国教とし、人外種、魔女を徹底して嫌う国であり、差別により生まれた規律と帝王の意向により生まれた東部最大にして最強の国家であった。


 結果はダイラス聖王国の惨敗、残ったパルト騎士団は聖王国の北南にあるパルト要塞に籠城するしかなくなった、騎士団長の名前は【ロマ・アリエーゼ】、金色の髪を後ろで編み込み、鋭い目つきを光らせる女騎士である、彼女は数日前の戦闘で大けがを負い、包帯を巻きつけながら団長室でその怒りを露わにした。


≪ガン!≫


 彼女の振り下ろした拳は机を砕く、団長室にいる幹部たちは彼女の怒りに対し恐れを抱いていた。


「ロマ様、ご自愛ください、生きているほうが不思議な体であるのをご認識くだされ」


 フードをかぶった男はロマをいさめる、彼はこの騎士団の軍医である、彼から言わせれば彼女が生きていることは不可思議でならない、矢を数十本体に突き刺し体数十か所を剣で貫かれた彼女は戦地から徒歩で帰ってきた、その上傷はたったの2日で塞がったことは奇跡としか言いようがなかった。


「ふん、この程度」

「いくら傷が塞がっていようと炎症は未だに治っておりません、折れた骨もそのままです、せめて折れていない腕で机を殴ってください」


 とはいえ彼女が焦り、怒るのも無理はなかった、南部には帝国が迫ってきている、西部にはこの無法地帯となった聖王国の領土を掠め取ろうと商業連合が目を光らせ、東部は盗賊が跋扈する、極め付けにははるか遠くの聖都パエルトはとある宗教団体に占拠されたと報告があったのだ。


 四面楚歌、前門の虎後門の狼頭上の隕石、時間もなければ勝機もない、地獄のような状況は秒単位でさらに状況を悪化させていっていた。


「もはや降伏の道しかありませぬ」


 不安そうな顔で発言したのはこの要塞内の教会の神父であった、立場は神父であるか参謀というのがしっくりくる立ち位置で、この戦争中の騎士団を支えた重役である。

 が、彼のその発言に対しロマは怒りを露わにした、鬼のような顔を見せた後折れた右腕で壁を殴りつけた、壁にはヒビが入り、要塞内は大きく揺れる。


「何を言っている!、貴様戦わぬのか!!」

「無理です!、もはや勝ち目など」

「それは信仰心が足りないからだ!、まして騎士団が他者に、まして異教徒の豚どもに負けるなど許されるものか!!!!!」


 降伏の道なんてなかった、そもそもここで降伏すれば確実に首を全員撥ねられる、それに加えロマは狂信者だ、例え死人がいくら出ようとも異教徒相手に引くことはない。


「それに、貴様降伏した後どうするつもりだ?、私の団員の一部はまたいつか必ず騎士団を立ち上げ戦火をもたらすぞ、これは我らの戦争だ、責任をもって死ね、ここで全てを終わらせるのだ」

「し、、しるか!、俺は死にたくな、、、」

≪ス、、、パン!!≫


 神父がセリフを言い切る前に彼の首は宙を舞い、ロマがいつの間にか抜いた剣を鞘にしまうと同時にその首は地面に落ちた。


「それ以上は異端になってしまう、せめてもの情けだ、穢れる前に死ね」


 軍医は顔を覆った、というのもこれで文官がいなくなってしまったからである、ロマは敗北主義者を、逃亡者を、背教者をことごとく切っていった、結果は頭がよく今後どうなるかわかってしまう人員、つまり文官が底を尽きてしまったのだ。


「ロマ様、もう文官がいません」

「知っている、しかし背教者を作らぬためだ、致し方あるまい」


 そんな血まみれの団長室に渇いたノックの音が鳴った、ドア向こうからは震えた騎士の声が聞こえてくる、一瞬ドアを開けてしまったのだろう、ドアを開けるのを頑なに嫌がっているようだ。


「だ、団長、我が騎士団に志願者が、呪術師でございます」

「ほう、通せ」


 呪術師、パルト教以外では【魔女】と忌み嫌われえる存在、パルト教会では呪術師とよばれ、神の奇跡の再現者としてある種崇められる立ち位置の存在であった。


≪ガチャ≫


 入ってきたのは碧い髪の毛の少女であった、目の色は琥珀色、背丈は少女と言って差しさわりがないだろう、手には金属製の呪術杖を持っており、魔女特有の突き刺すような白い肌、まさに魔女のそのものであった。


 ロマは彼女を椅子に座らせるとその向かいに座り、軍医にお茶を入れさせた、ロマにとって目の前にいる青い髪の彼女は高貴な者である、気分が悪いわけがなかった。


「私の名はロマ・アリエーゼ、貴殿の名前と志願理由を聞かせてほしい」

「私はライン・マリー、ダリウムの街で魔女裁判を掛けられた魔女です、魔女裁判の際、私を助けるために一人の者が死にました、彼は笑いながら私のために命を投げうった、それを見て思ったのです、あんな腐った教会を許し続ければ、私だけでない、私を思う者たちが死んでしまうと、あの日、死ぬはずだった私が生きている、ならば、ならばこの命、無駄にはしたくないのです。」


 ロマは視線を曇らせると、冷たく、下賤なものを見下ろすような目をラインに向けた、表情は鉛色で、とでも機嫌が良いようには見えなかった。


「素晴らしい、、がしかし、故に、だからこそわからないな、何故ここに来た、まだ聖王国軍の残党兵団は残っていたはず、こんな風前の灯火の騎士団に飛び込んだ理由がわからない」


 疑心からくるロマの警戒は要塞を凍り付かせるような冷たい雰囲気と、刺さるような声で始まった、張り付くような視線は部屋を焼き、髪の毛すら少しも動かさずその場で静止し口と喉だけ動かして喋る様は異様な光景であった。


 が、当然理由があってラインはここまでやってきた、彼女はロマの絶対的な立ち振る舞いを物ともせず、胸に手を当てて琥珀色の眼を見開いた


「貴女方は、、、降伏しないじゃないですか、すなわちそれは私が死ぬまで戦えるという事でしょう」


 魔女の生命力は絶大である、それこそ貼り付けにして群衆の目を光らせながら火あぶりにでもしなければそうそう死ぬものでもない、魔女にとって命を掛ける組織選びで重要なものは、自分より先に負ける組織であるかどうかである。

 もしもラインが生きているのに、所属している組織が降伏すれば確実に自分の場所を教えられ、何もなせずに魔女裁判に出廷させられてしまう、魔女にとって密告ほどの脅威はない。


 それに対しこの騎士団は異質である、確実に抵抗を続け、恐らくは撤退できなくなれば全員討ち死にさせるだろう、ここの騎士団長は必ず最後、滅ぶその時まで魔女であろうと撤退させない、これほど魔女にとって好まれる組織はないだろう、魔女を呪術師と崇める組織なだけはあった。


 ラインの言葉を聞いたロマは警戒を解き、背もたれに重心を傾ける、そしていつの間にか置いてあった紅茶を一飲みするとようやく口元を緩ませた。


「ようこそ、パルト騎士団へ、貴女を歓迎しよう」


 ようやく会話に区切りがついたと思えば、ロマは早速机の中から大きな地図を取り出した、地図はまだ聖王国の領土がしっかりと記載されている、今ではもう存在しない国が描かれているのには少々哀れさを感じられる。


「さてライン、我々の目標は帝国の打倒だ、、が、直線距離で帝都に攻め込んでも食料が足りない、が、南東の貿易都市、アルハンブラ、あそこは以前の戦争で自称平和主義者の愚か者どものせいで兵が手薄だ、ここを占領し南方のシャンロン派に合流する。」


 シャンロン派、パルト教会の神、サイラスを信仰の対象としたパルト教会とは少々違い、サイラスが送った使徒、タイリアイという天使を信仰する宗教団体であり、パルト教会公認のパルト亜種教団である。

 というのは建前で、大陸西部の大規模な権力争いで難民となり放浪した人員を【マグティナ・ロゼッタ】という指導者が指揮する革命軍である、ロゼッタの拵えた大量の黒色火薬と火器は難民を兵士に変え、帝国に対し進行を開始する寸前で会った。


 これには魔女も軍医驚いた、ロマはただの狂信者や戦闘狂いではなかったからである、彼女であれば『帝都に突撃する』とか言うと思っていたからである。

 しかも現実的な案であった、平和主義勢力の湧いた都市は陥落しやすいのは昔から知れた話、そして陥落した都市からシャンロン派に合流するのであれば不可能な作戦ではないのである。


「シャンロン派が動く前に進行を開始するぞ、我らパルトの民を殺しておいて平和を訴える畜生共には我らパルト騎士団の剣を食わせてやる必要がある。」


 ロマが騎士団に対し討伐命令を出した11時間後、史上に残る【アルハンブラの惨劇】が幕を開けるのであった。

読んでいただいた方ありがとうございます!、作者は執筆初心者ですので皆様からの誤字指摘などを待っております、どうぞよろしくお願いいたします。

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