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"2文字の想い"

作者: 一口太郎

 “彼”に伝えなければならないことがある。


 ずっと自分の中でくすぶっていたけれど、いよいよ期限がきた。


 私は父の仕事の都合により、今日でここでの学校生活に幕を引く。


 私が”彼”にこの想いを伝えられるか否かは、この日にかかっているのだ。




 都合よく、契機などおとずれないだろう。自ら勇を鼓し、この"2文字の想い"をぶつけるしかない。


 たかが2文字、ローマ字にしてもおよそ4文字の言葉だというのに、今日までためらって口にできなかったというのは、どうも人間というのは奇妙奇天烈な生き物である。


 ・・・・・・いや、ローマ字だと5文字になるか。しかし、意味も変わってしまいそうで、個人的には不本意である。




 帰りのホームルーム。最後に担任が私にお別れの言葉を言うように仕向けたので、私は1分強の餞別の言葉をクラスメイトに向けた。


 ホームルームが終わったあとも、友人からの寄せ書きを貰い、お互いに別れを惜しんだ。




 ノスタルジックな気持ちに支配された私は、その後に校舎内をうろつき始める。


 この調理実習室で私がオムライスを作るのを失敗したとき、”彼”から笑われたっけ。


 この理科室で私が誤って試験管を割ったとき、”彼”から笑われたっけ。


 あぁ、懐かしいなぁ。




 吹奏楽部の演奏が響く校舎内。


 しばらく虚ろな顔で辺りを見渡していると、前から人がやってくることに気づく。


 それは、私が作ったオムライスや、理科室での過ちを笑ったその”彼”であった。


 私の虚ろな顔はやにわに整い、自然と背筋も伸びる。


 周りには誰もいない。蜘蛛の糸は私の眼前に垂らされたのだ。


 しかし、急な出来事に私はまんまと蠱惑される。彼から何か言葉をかけられているが、私の耳には届いてこない。




 だが、ここで"2文字の想い"を伝えなければ、私は一生悔やむことだろう。


 自らを奮い立たせ、呼吸を整える。


 彼の目をじっと見つめ、私はおもむろに口を開く。




「死ね」




 彼へのはなむけの言葉を残し、たちまち私はその場を立ち去る。


 たかが2文字、ローマ字にしてもおよそ4文字の言葉だというのに、こうやって口にしてみるととても清々しい気持ちになるのは、どうも人間というのは奇妙奇天烈な生き物である。

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