03 狼の群れ
さて、やっと回想が現実に追いついた。
現在地はどこかの森の中、俺の姿は緑のもふもふ、そして後ろからは狼が3匹。
走り続けていると進行方向に他の木へ寄りかかるようにして倒れている木を見つける。
丁度いいので利用させてもらおう。
俺は速度を上げるとその木を駆け上がる。そしてそのまま寄りかかっている木に飛び移るとそこから反転。
俺を追って木を駆け上がっていた狼たち、その先頭の1匹にパンチを食らわせた。
もしこの光景を第三者が見ていたら、まるで子猫のようなかわいいパンチにしか見えなかっただろう。
だがその効果は劇的だ。
オオカミは俺のパンチを食らってタガメになっていた。
そのままパンチの速度を緩めることなく叩き潰す。
続けざまに別の1匹にも体当たりを食らわせると、そっちは当たった直後サンショウウオになって吹っ飛んでいった。
いける!
後になって思えば、この時また油断していたんだろう。
3匹目に飛び掛ろうとしたとき、そいつが口を上へ、空へ向けていることに気がついた。
「アオォォオオォォオオオオオオンッッ!!」
生まれて初めて耳にした遠吠えに、一瞬身体が竦む。
その遠吠えに答えるものがあった。
同じような声が四方八方から響いてくる。
草を掻き分ける音、地を蹴る音がどんどん近づいてくる。
どうやらこのオオカミたちの群れは4頭だけではなかったらしい。
反撃などせず逃げ切るべきだった。そう後悔したときにはすでに駆け出していた。
奥へ、奥へ、もっと先へ。
森の中、草を掻き分けながら全速力で突き進む。
ちらりと背後に目をやれば10を越えるオオカミの影。それもすぐ側だった。
走って走って走って、息も絶え絶えになった俺はもうなにも考えていなかった。
その最中森のとある方角に、強い熱のようなものを感じた。
実際に熱いわけじゃなく、なぜか感じるその力のようなものへ、俺は近づきたいと思う。
これが何かはわからないが、逃げ場に心当たりも無い。俺は自分の直感を信じてその方向へ無心で走り続けた。
だから気がつくのが遅れた。
走り続けた末、俺は木々の無い開けた場所に出ていた。
「ききゅいいいっ!(しまったっ!)」
どうやらここは村だったらしい。
過去形だ。見るからに廃村だもんな、これ。
結構な数の、ぱっと見で木製とわかる家が建っているが、どれも壁がぼろぼろに朽ちている。
ひとつだけ大きく豪華な家も見えるが、やはり木製で壁には植物が這い回っている。
もしここがまだ村だったなら住民がオオカミを追い出すために集まり、俺の判断は正解だったと言える。
だが人もいない、ただの開けた場所に逃げ込んでしまっただけなら?
まずい、このままじゃ囲まれる。
今まで逃げてこられたのは木や草を楯にしていたからだ。
この緑の体毛も保護色になってくれていたに違いない。
だけどここはまずい!
俺は豪華な家に向かって駆け出す。あそこだけは他よりは多少マシな壁をしていたからだ。
後ろからはオオカミが迫っている。振り返る時間も惜しみ、家の扉に向かってタックルをかます。
弾かれた、めっちゃ痛い。
そうだ、扉なんだから開かないと意味がない。
上を見やれば取っ手ははるか頭上、がんばって手を伸ばしているが届かない。
ぴょんぴょんとジャンプしてみるがこの手ではドアノブを回せそうもない。
仕方なく自分の姿を緑のもふもふとした可愛い四足獣から人間へと還る。
人の手で苦もなく取っ手を回し家の中に飛び込むと急いで扉を閉めた。
扉の内側に鍵をみつけ、しめたとそのまま鍵をかける。
そしてなにかバリケードになるものがないかと部屋の中に目をやると。
「グルゥウウウウウッ」
「あら~」
蒼く輝く鱗に覆われた、巨大な龍と目が合った。