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前世還しのカーヴァンクル  作者: 稲葉めと
2章 白い魔鳥と小さな砦
12/23

11 コカトリス遭遇戦

 俺たちの周りを取り囲んだ無数の白い影。

 その姿はどこからどうみてもただの鶏だった。



「た、ただの鶏にしか見えないんだが」



 俺のそんな呟きに侮辱されたと怒ったのかは定かじゃないが、

 1羽の鶏が猛然と俺に向かって首を振りながら突っ込んで来る。

 それをみてやっぱりただの鶏では? と首を傾げる。



「コケルルルァァァアーーコココココッ!!」



 鳴き声を上げながら近づいてきた鶏は俺の手前で跳躍し、額めがけて嘴を突き出してきた。



「うおっと!?」



 つい先ほど額を突かれたばかりの俺は慌ててそれを回避する。

 一方避けられた鶏はそのまま地面へと嘴から落下していた。

 ドスッと音を立てて地面に突き刺さる嘴。

 その時、その場に変化が起きた。

 茶色い土と、周囲の青々とした草がその色を灰色へと変えたのだ。



「コッケコケクックドゥードゥードクー!」



 渾身の突進を避けられ、苛立たしげに地団駄を踏む鶏。

 踏まれた草がパキン、ポキン、と砕け散っていく。

 その様はまるでプラスチックの板かなにかのようだ。



「な、なんだあれ!」

「こやつ等はコカトリスじゃ、その嘴と爪には石化の猛毒が仕込まれていると昔姉上に聞いた事がある」



 それは転生前の世界でも、ゲームや漫画なんかでたまに出てきた名前だ。

 たしか鶏の体にヘビの尾をもっていて、石化のブレスなんかをしてくるいやらしい魔物だった気がするんだが。

 この世界では違うのか? あ、いや前の世界でも実在したわけじゃないはずだが。



「普通の鶏にしかみえん・・・・・・俺の故郷じゃ尾がヘビだとか言われてたんだが」

「あぁ、それはじゃな。ほれ、あのあたりのやつを見てみよ」



 言われてアオメが指差すほうを見やると、長く綺麗な尾をした鶏が何羽か目に付いた。

 そしてその尾はとても綺麗なエメラルドグリーンだ。



「こやつ等は基本赤い鶏冠にまっしろな羽毛なんじゃが、長生きするとあのように尾が長くなるんじゃよ。

ご丁寧にそこだけ色も変わるからの、それをヘビと誤解したんじゃろう」

「なるほどな」



 少なくともこの世界ではそういうことらしい。

 アオメの話で現状への理解は深まったが、同時に非常にまずいということも理解してしまった。

 ゲームだと単純に強いボスを倒すより、状態異常をしかけてくる雑魚のほうが厄介なのは常識だ。

 その状態異常持ちの鶏が大量に俺たちを包囲し、じわじわと距離を詰めてきている。



「アオメ、オオカミのときみたいに魔法で一掃」



 できないか? そう聞こうとした瞬間だった。



「「「「グオゲッゴオオオオオオオオオオ!!!!!!」」」」



 周囲の鶏たちが一斉に飛び掛ってきた!

 その鳴き声の迫力に一瞬身を竦ませるが、迫ってくる大量の鶏への恐怖が身体を動かしなんとか攻撃を避ける。

 たかが鶏と侮ってはいけない。

 闘鶏に使われる軍鶏などは一瞬で相手の首を刈り取るほどの力を持っているのだ。

 しかもこいつらは石化能力もち、掠っただけでもまずいとか洒落になっていない。



 アオメは無事かと目を向けると、近づく鶏を片っ端からその長い尾でなぎ払い、叩き潰している。

 あの尾は龍の姿といまの美少女姿とで唯一とも言える共通点だ。

 オオカミ達相手にも使っていたことから扱いやすいのかもしれない。

 魔法を使っていないのは使う暇がないのかそこまでの相手ではないのか。



 そんな事を考えていたからだろう、俺の左足に激痛が走る。



「痛っ!?」



 そこには嘴を突きつけている鶏の姿があった。



「この野郎!」



 あらん限りの力で鶏を蹴り飛ばすが、痛みで脚の動きが鈍る。

 そこへさらに数羽の鶏が飛び掛ってくるからたまらない。

 何度か嘴や爪を食らいながら蹴りや拳で撃退する。

 攻撃を受けた場所が痛くて痛くてたまらないが、どうやら石化はしていないらしい。

 さっき額に食らった時はすぐに痛みが消え石化していたのだがなぜだろうか?



 懲りずに考え事をしてる俺目掛け1羽の鶏が飛び掛ってくる。

 って顔はまずい顔は! 間違って目にでも食らえば即失明だ!

 慌てて手のひらで蹴りを受け止めると、激痛が走り、次の瞬間にはそれが消えた。

 手のひらを見れば受け止めた部分からじわじわと灰色に変色しているのが見て取れる。



 どうやら肌に直接食らうとまずいらしい。

 そういえばこの服は魔法の品だとアオメが言っていた気がするし、その恩恵で石化の猛毒も防げていたのだろうか?



「いやいやいや、冷静に考えてる場合じゃない、やばいって!」



 変色、石化はじわじわと広がっていて止まる気配がない。

 その速度は非常にゆっくりだが、止まらないという事はいずれ全身が石化するということだ。

 さっきアオメが鶏を叩き潰した時石化は解除された。

 つまりいま俺に攻撃してきたやつを倒してしまえば!



「ど、どいつだろう」



 俺が自分の手のひらを眺めていたのはほんの10秒にも満たない時間だった。

 しかし周りには似たような鶏が大量にいる。目的の鶏が紛れてしまうのには十分な時間だった。

 さらに悪いことは続くらしい。

 鶏たちは一斉に俺から距離をとると、物凄い速度で逃げ出していったのだ。



「ヒエン、大丈夫かえ!」

「アオメ!」



 振り返ればそこには惨状が広がっていた。

 アオメの周囲にはひたすらの赤、あか、アカ。

 そして同じ色に染まった大量の羽毛と肉塊たち。

 蒼く輝くアオメの長い尾も、今では半分ほどを真っ赤に染めている。



「アオメの方は随分と暴れたみたいだな」

「すまぬな、すぐ助けに入りたかったんじゃが、妾のほうも手一杯でな」

「それは構わないけど、魔法で一掃できなかったのか?」



 オオカミ達相手につかった魔法なら、一々尾で叩き潰すより手軽に倒せそうなものだけど。

 それにアオメは首を振ると、乱れた息を整えながら説明してくれた。

 なんでもあの鶏たち、コカトリスは魔獣と呼ばれる存在で魔力をもち、魔法への耐性が高いらしい。

 反面肉体的には普通の鶏と大差ないので物理で押しつぶすのが確実な手段というわけだ。



「それで、お主はなんともないのか?」

「あ、悪い、一撃食らっちゃった」



 すでに手の平から指の関節付近まで石化が広がりつつあるのをアオメに見せる。

 あまり心配をかけてもいけないので可愛く小首を傾げるのも忘れない。



「ふ、ふざけておる場合か! ど、どうするんじゃ妾は回復魔法の類は使えぬし」

「まぁまぁ、さっきの感じだとこれをしてくれた鶏を倒せば治るんだろ? そんなに慌てるなって」

「どこにおるんじゃ、そやつは」

「・・・・・・あ」



 そうだった、鶏たちは逃げ出したんだっけ。

 ど、どうしよう!?

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