危険人物登場。
「おー、遅くなった!」
ニコルは帰ってきた。でも、ロナさんはいない。
「あれ?ロナさんは?」
「いなかった」
「あれ、今日休みだったっけ?」
「違ったと思うけど……ま、いいか。トシタカ、調子はどうだ?」
ニコルはトシタカに近づいた。なので俺と並ぶかたちになる。
「あんまり……変わってない」
「そりゃそうだろな。……ん?いや、お前少し元気になったんじゃない?」
「そうか?」
「ああ。だって、意識戻りたてのときはしゃべんの辛そうだったもん」
「慣れたから……。それに、俺……回復力には自信があるんだ」
確かに俺と話してる間にもちょっとずつだが元気を取り戻しているように見えた。
「……なあ、あんた……何のために人を呼びに行ったんだ……?」
「え?」
トシタカにもっともらしい質問をされたニコル。
「……いやぁ、俺たちじゃ怪我の治療とかはできても、他の細かいこととかはできなくて……」
「俺はできるぞ」
「俺は苦手なの!だからぁ、看護師連れてこようと思ってぇ、ロナ捜したんだけどぉ……いなくてぇ」
……ナヨナヨしている。何を目指しているのかわからないがとりあえず言えるのは、キモイ。その一言に尽きる。
「……あんた、動きが気持ち悪いぞ」
「な、なな……なんだとぅ?」
ナイスだトシタカ!
「言いたいことはわかったけど……そのしゃべり方やめた方がいいぞ……?キモイ……」
…こいつ、ニコルにすごいダメージ与えてきたな……。
「……で?ロナさんがいなくて結局お前はどうしたんだ?」
「手の空いてる看護師連れてきたんだけど……来ないな」
ニコルは確認するため廊下に顔を出す。
「あ」
「どうした?」
「あの子、方向音痴って噂聞いたことある……」
「……でもふつう職場で迷うか?」
「それが尋常じゃないらしくて……」
「……仕方ない。待ってるか」
10分、20分と待っているうちにトシタカは眠り、ニコルは「ヤベェ、往診の時間だ!」とか白々しく言って逃げ、結局俺一人で例の看護師を待つことになった。
「方向音痴な看護師なんて……いたっけ?」
それからさらに10分後、彼女はやってきた。
「あ、ここか!ネームプレート掛かってないじゃーん!わかりっこないよ!」
あれは……独り言なんだろうか。
「しっつれいしまーす!はっ!」
彼女は部屋に入り、俺を見た途端……固まった。
「お……、遅かったね」
「い、いいえっ!とんでもないです!わたくし強烈な方向音痴なもので!」
「さっき、なんか言ってたけど……あれは」
「いやだっ!独り言だったんです!聞こえちゃいましたか?」
食いぎみで答える彼女。
「ま、まあ……」
「だってネームプレート掛かってないんですもん。わからないです」
ん?これはまさかの開き直り?
「でも君、患者さんの名前知らないだろ?」
「あー……はい……、そうでした……」
「彼はサイトウトシタカだよ。……じゃあ、よろしくね」
俺はトシタカを彼女に任せて仕事に戻ることにした。
……なんか、嫌な予感するけど。まあ、気のせいだろ。
「サイトウくんか。さて、なにすればいいのかなー」
ふと、目を覚ますと知らない女がいる。なんか独り言多いなこいつ……。
「えーと、確かこれをー……まあ、いっか」
「おい」
「あ、起きてたんだね。具合はどう?」
「まあ……、ふつうだよ」
「私はミル。ニコル先生に頼まれて来たんだ」
「ふーん」
こいつが噂の方向音痴か。
「じゃあ、包帯換えちゃおうね」
ミルは俺を起こす。
「いだだだだだ」
体中痛くて、どうにかなるんじゃないかと思ったが、乗り越えられれば案外大丈夫そうだ。
包帯を換えて、ミルは一息ついた。
「ずいぶんたくさん怪我してるんだねー?どうしたの?」
「あんた……なにも聞いてないんだな」
左腕は骨折しているので、俺は右手のみで頭を抱えた。
「そんなこと言ったって、出勤したらニコル先生にいきなり呼ばれたんだもん。何にも知らないに決まってるじゃん」
「……まあ、いい。で?他にすることはあるのか?」
「えーと、うっ!」
彼女はメモ帳らしきものを見つめたまま固まった。
「な…なんだ?」
「い、いいえ!これを乗り越えられなければ一人前にはなれません!」
そう言って、彼女が持っていたのは注射器だった。
まさか、こいつ……注射打つのヘタクソなんじゃ……!?
プルプル震えながら俺に近づいてくるミル。
「い、いや……それはちょっと、危険じゃないか……?」
い、嫌だ……怖い……。
「大丈夫です……!イメージトレーニングはしてますから……!」
その言葉に危機を感じた。
俺は目に入ったナースコールをつかみ、ボタンを連打した。