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翌日のこと

マサヤ、ユキちゃん、オギノさんの3人はしばらく治療が必要だった。

立てこもり犯に毒を盛られていたマサヤとユキちゃんはしばらく熱が下がらなくて、辛かっただろうと思う。

オギノさんはすぐに喘息の発作も落ち着いて、事件の翌日には動けるようになっていた。



「オギノさん、具合どうですか?」

俺がオギノさんの部屋に行くと、マリアちゃんがいた。

「あれ、マリアちゃん」

「ウィン先生!!一緒にいてくれる?」

「えっ?」

マリアちゃんは俺の手をなぜか握り、オギノさんの方を向いた。

「あの、どういうことですか?」

「私にいいたいことがあるみたいで……」

「ああ……」

マリアちゃんはオギノさん本人の口から本当に父親なのかを確認していない。

オギノさんに会いに来たものの、尋ねる勇気がでなくてずっとここでこうしてモジモジしていたのかもしれない。

「オギノさん!オギノさんは本当に!私のお父さんなの!?」

握られている手首が痛い。マリアちゃんは手に力が入ってしまうほど緊張している。相当覚悟してたんじゃないだろうか。

「……うん、そうだよ。マリア……黙ってて、ごめんね」

「……どうして、黙ってたの」

「マリアには、家族がいるから」

「でも、オギノさんはお父さんなんでしょ?」

「二人お父さんがいるのは変だろう?」

「……でも、本当のお父さんなんでしょ……?今のお父さんは……本当のお父さんじゃない……」

マリアちゃんの声はだんだん小さくなっていく。

「……本当の父親ってなんだろう」

「えっ?」

オギノさんは困ったように微笑んでマリアちゃんを見ている。

「私とマリアが一緒に過ごしてきた時間はとても短い。実際、マリアの記憶には私はいなかっただろう?」

「それは……」

オギノさんは黙っているつもりだった。それは俺も聞いてる。

マリアちゃんにバレてしまったのは……ほぼ俺の責任だとは思うけど。

「……フラウ先生は元気かい?」

フラウ先生?オギノさんとマリアちゃんにしかわからない人物なんだろう。

「……お父さんのこと、知ってるの?」

「……私はフラウ先生を信じて、マリアを預けたんだ。……間違ってなかった。マリアは、とても素敵な子になったね」

オギノさんの微笑みに困った様子は消え、純粋な笑顔。優しく、本当に嬉しそうな表情をマリアちゃんに向けた。

「素敵……?」

「そう、優しくて、自分の意志をしっかり持ってる。私はとても嬉しいよ」

「……」

でも、マリアちゃんは黙っている。あまり納得していないのかもしれない。

「……確かに、私とマリアには血の繋がりがある。でも、マリアはそう簡単に私が父親だって受け入れられないだろう?だって、マリアにはフラウ先生が父親としているんだから。本当も、偽物もないんだよ。フラウ先生がマリアにたくさんの愛情を注いでくれたことに代わりはない。……私は、マリアに父親だって認識されなくても良かったんだよ」

「……そんな、そんなこと言わないでよ……!私はもう知っちゃったんだもん……!!知らんぷりなんて……、出来ないよ……!」

マリアちゃんの言葉に、オギノさんは一瞬目を丸くして、でもすぐに微笑みに戻った。

「……マリアはどうしたい?」

「……わかんない……私にも……どうしたいのか……」

「……難しいだろう?だから、今はこのままでいいんだよ。みんなで……フラウ先生とエリーさんとリッツちゃんと、一緒に考えよう」

「……そっか、オギノさんは……」

不意にマリアちゃんの言葉が止まる。

「……オギノさんって呼ぶの、なんだか他人行儀だね」

「別に構わないけど……」

「ダイスケさんって呼ぶことにする」

「うん」

「ダイスケさんは私の家族みんなと会ったことあるんだね」

「うん、よくお世話になってたから」

二人は家族の話をはじめた。俺は邪魔かな?

「オギノさん、俺、別の患者さん見てくるんで、ゆっくり話しててください」

「あっ!ウィン先生、ごめんね!ずっと手握ったままで!!」

マリアちゃんが俺の手をパッと離した。

「平気だよ。マリアちゃんもいろいろ話したいことあるでしょう?俺、ゆっくり別の患者さん見てくるから」

「……ウィン先生、ありがとうございます」

俺は部屋を出た。ぎこちない距離感の二人が近づけるように願いながら。



他の患者さんの診察で部屋を回りながら歩いていると、ニコルとトシタカがなにか話しているのが見える。

「お前ら、どうしたんだ」

「あっ!ウィンだぞ!待ってました!」

「は??」

声を掛けただけなのになぜだかニコルに捕まえられ、俺たち三人は休憩室にスペースを陣取っていた。

「な、なんだ?何の用だ?」

「実は話があるのは俺だ」

トシタカが真剣に俺を見ている。

「なんだ、言ってみろよ」

「暮らす場所がないから、居候をさせてほしい」

「……はあ」

トシタカは同じことをニコルにも言ったんだろう。でもニコルは実家暮らしだ。断られたに違いない。

「ニコル、お前も言われたのか」

「おう。でも俺実家だから。家族の了承得ないと」

「で、独り暮らしの俺か」

「そういうことだな」

トシタカは何も考えずにこんなことは言わないだろう。なにか、目的があって、言っているはずだ。

「理由は?」

「学校に行きたい」

「何の?」

「医者になりたい」

『はぁっ!?』

俺とニコルは見事なハモりで驚いてしまった。

「唐突だなおい……」

「なんだ?俺たちの仕事ぶりに憧れたか?」

「違う」

ニコルの言葉は早々に否定され、俺たちはトシタカの次の言葉を待つ。

「俺はあのとき……何もできなかった。オギノさんが喘息で苦しんでるときも、雅也が倒れて動けなくなってるときも……」

「あのときは捕まってたんだししょうがないじゃん?」

「まあそうなんだけど、問題は解放されたあとだよ。おろおろするばっかりで何もできねえ。……こんなに自分が情けないと思ったのは初めてだった」

「で、医者か。簡単にはなれないけどな」

「わかってるよ」

「俺、一浪してるからな」

「そうだったのか……?」

「俺はしてないぞ」

「元ヤンなのに……」

元ヤンのことは言うな。隠れてないけど一応隠してるつもりなんだ!

「……まあ、理由はわかった。でも学費は?医療費は手続きするからなんとかできるけど、さすがに学費は無理だぞ?」

「もちろん働いて稼ぎながら学校行く。居候させてもらえるならウィンにもいくらか渡すし」

「ふーん」

「お前偉いなー」

「いろいろ調べて、奨学金制度も活用するつもりだし、金は自力で何とかする」

「アパート借りるのも金かかるもんな。いいぜ、居候させてやる。但しちゃんと怪我治してからな」

「ん。ありがとう」

「でもさ、トシタカって勉強できるのか?」

「ああ、そっか。いた環境が特殊すぎるからな……」

ナハネ族はきちんと教育を受けてこられたのだろうか。……少なくとも、ユキちゃんは受けてないだろう。

「一応独学で勉強したぞ。俺はだけど」

「じゃあちゃんとした教育は受けてないのか……」

「そういうことになるな。……うーん、やっぱりちゃんと勉強したいよな」

トシタカは将来のことを考えはじめた。不自由な生活を送ってきたナハネ族は、確実に前を向いている。それは、きっとトシタカやオギノさんだけじゃない。

「俺仕事の途中だったんだけど」

「ああ、悪かった。あとは俺が自分でいろいろ調べてみるから、困ったときに相談に乗ってくれ」

「俺のことも頼れよな!」

「……気が向いたらな」

「なんだよー!俺だって相談くらい乗れるんだぞ!」


ニコルも不服そうな顔で俺と一緒に仕事に戻るらしい。

「……良かったな」

「いろいろあったけどな。ウィンだって巻き込まれてるだろ?」

「それ言ったらニコルもそうだろ」

「俺は巻き込まれたうちに入らねえよ」

俺たちは彼らのことを見守っていただけに過ぎない。

「……まだまだやらなきゃいけないことはたくさんあるだろうけど……できる限り手伝ってやろうな」

「おうよ」

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