悪あがきのそのあとは
「サイトウくん!スギサキくんは!?」
「わ、わからない……!!」
雅也はあいつに何か入れられてる。その上さっきマリアに入れようとしてたものもくらってる。
雅也の腹に傷が残ってる。少しだけ出血してるが、たったあれだけで……?
「オギノさんはマリアちゃんに任せてあるから、私たちはスギサキくんを!」
「警察も呼ばないと……」
「それは大丈夫だ。ロナさんに言ってあるから」
俺は、どうしたらいいのかわからない。見るからに辛そうな雅也は、ずっと、こんな状態の体で意識を保ってたって言うのか。
「サイトウくん、スギサキくんは大丈夫だよ。たぶん安心して一気にガタが来たんだと思う。詳しくは検査しないとだけど……」
「……そうか……」
……ホッとした。まだ何もわかっちゃいないが、命に関わることじゃない。
「体温が高いから、体内で必死に戦ってるんだ。ゆっくり休ませてあげようね」
部屋の外が騒がしくなってきた。警察が来たのかもしれない。
「おい!みんな無事か!?」
警察と一緒にウィンとニコルが部屋に来た。
俺に殴られて失神していた男は警察に回収されていった。
「どう見たら無事に見える」
「……マサヤ!!!」
「ウィン、俺はオギノさん見てくる!」
「ウィンストン、スギサキくんは頑張ったよ」
ウィンは雅也の傍らに座る。
「部長、マサヤは……救われますかね」
救われる、か……。俺たちナハネ族の中で、唯一、雅也だけが兵器として人を殺している。
雅也は被害者だ。罪に問われることはないはず。でも、雅也自身の罪悪感はどうなるんだろう。
「そう簡単に気持ちは切り替えられないし、しばらく彼は苦しむかもしれない。でも、彼を苦しめる元となったものはもうない。……終わったんだ」
そうだ。俺たちを苦しめるものはもうない。多少は何か残ってる可能性はあるかもしれないけど、そう重大なものはないだろう。
「うう……」
「マサヤ?!」
「ウィン、せんせ……?」
雅也はぼんやりとあたりを見回す。意識を失っていたのはほんの少しの間で、今は辛そうではあるが、またすぐに気を失うことはなさそうだ。
「……終わりましたか……?」
雅也は尋ねる。それは、これからの人生を大きく変える、重大な意味を持つ質問だった。
「……ああ、終わった。まあ、まだ多少後始末は残ってるかもしれないけど、それは警察に任せよう」
「……はい」
雅也は頷く。そのあと、雅也の視線は俺に移動した。
「……俊貴、ごめん……ありがとう」
「なんで謝るんだ。俺はお前に謝られるようなことしてないぞ」
「俺、アイツの……挑発に乗って……ボコボコにしちゃったから……」
「あのくらいアイツの自業自得だろ」
「あのまま俊貴が止めてくれなかったら……俺、アイツのこと……本当に殴り殺してたかもしれない……」
「アイツの顔面ボコボコにしたのマサヤだったのか」
「……すみません」
雅也はシュンとしている。
「さて、一旦念のためみんなを診察しないとね。ニコル、オギノさんはどうだ?」
「発作は落ち着いてますし、意識もあります」
「一応処置室に運ぼう。ユキちゃんも見てあげないといけないし。サイトウくんもおいで。手首、痛かっただろう?」
「俺も?」
確かに縛られていた手首はヒリヒリする。ずっと、紐を外そうと悪戦苦闘していたので、擦れて赤くなっていた。
「ああ、まあ、今は騒動でごたごたしてるから君は歩いて付いてきてもらうことにはなるんだけど……」
「いや、かまわない」
リディナ先生をはじめ、ウィン、ニコル達医師3人はストレッチャーを手配して、雅也と荻野さんを運んでいく。
ずっと荻野さんについていたマリアは、複雑な表情で、運ばれていく様子を見ていた。
「……」
「どうした?」
「……トシタカさん、オギノさんは……私な本当のお父さんだったの」
「……さっき言ってたな」
「……きっと、オギノさんはずっと私のこと、守ってくれてたんだと思うの。……でも……」
「でも?」
「私のお父さんは別にいて、急にお父さんだって言われても……どうしたらいいかわかんないよ……」
「だろうな。別にいいんじゃねえか」
「えっ?」
マリアは驚いた表情で俺の顔を見る。……そんな表情されても俺にはそれしか言えないし……
「荻野さんだってそうなんじゃねえかな。お前には別にちゃんと家族がいるってわかってるはずだし、黙ってるつもりだったんじゃないか?」
荻野さんだって、たまたま出会ったおじさんと女の子の関係を続けるつもりだったのかもしれない。
「どうするかはお前次第だとは思うけどな」
「……トシタカさん、ありがとう」
マリアはにこりと笑って、運ばれていく二人の後を追っていった。
……終わったんだ。俺たち、ナハネ族が苦しめられた大きな事件。雅也が体を、心を傷つけられた。荻野さんが大切なものを多く失った。たくさんの人を巻き込んだ、一連の事件。
「サイトウくん、来ないのかい?」
「あ、すみません」
リディナ先生に呼ばれて、俺も後を追う。
俺たち、ナハネ族は今後どうなっていくんだろうか。それを考えるのは少しだけ先のことだ。




