二人の医者
誰かが部屋に入ってきた。
「ウィン、なんかこいつ、昨日より顔色良くなってるよ」
「……ホントだ」
男二人の声だ。
「なあなあ、こいつでちょっと……」
「なに言ってんだお前?意識不明の患者にお前はなにしたいって言うんだよ?」
「……わかったよ。やめとく……」
いったいどんな会話だ。
「……」
目を開けて二人の様子を見てみる。今度はちゃんと見える。一人は黒髪でいかにもまじめそうだ。
もう一人はあまり背は高くない。少し長めの金髪を後ろで束ねている。
二人とも白衣を着ていて、多分医者か何かだろう。
「……あ。ウィン……!こいつ、こっち見てる!」
先に金髪に気づかれた。
「なんだと!うおう!ホントだ!」
「あんたらが……俺を……?」
良かった、ちゃんとしゃべれる。
「見つけたのはな。助けたのは俺たちじゃない。部長だよ」
黒髪は俺についていた呼吸器をはずしながら言った。
「ぶちょう……?」
「ああ。俺たちの上司だ」
「じゃあ……あんたたちは……医者か……」
「……それより、大丈夫か?お前、瓦礫に埋まってたんだぞ?」
次は金髪に尋ねられた。
「知ってる……」
「いやいやいや、そう言うことではなくてだね。簡単に言ったら具合は大丈夫かって聞いたんだよ」
「なんだ……、そう言うことか……。腕とか、腹とか、胸とか……きつい……ちょっと……苦しい」
「大丈夫じゃないな。どうにだ?」
「多分、包帯……。巻きが、きつい……」
「あ、なんだ。それは仕方ねえよ。固定しとかないとだし」
「まあ、それは……わかってるんだ……」
「あ、そうだ。お前、名前は?」
ふと思い出したかのように金髪は言う。
「斉藤、俊貴」
「俺はニコル。で、部長に言われたんだけど、なんか目に異常があるらしいんだ。自覚症状とか、あるか?」
目?特におかしなところは……。
「あ」
「どうした?」
「右目……」
「右目?」
ニコルは首を傾げる。
薄暗いと気がつかないが、右目は白と黒でしか見えない。色が認識できなくなってしまったようだ。
「ちょっといいか?」
黒髪の方が俺に近づく。
「眩しいけど、我慢しろよ」
どこから出したのか、ペンライトで俺の目を照らす。
「う……」
かなり眩しい……。
「目の色が左右で違うみたいだ。で、右目がどうした?」
「色が、わからない……。白黒に、見える……」
「色覚の異常か……。左目はどうだ?」
「平気……」
「右目だけか。詳しく検査しないと何とも言えないな」
「……」
検査か……、でも俺は動けない。
「まあ、しばらく様子見だな。これじゃ動けないだろうし」
「そんなんで、いいのか……?」
「だってどうしようもないだろ。無理矢理検査するわけにはいかないんだ」
「そう、だよな……」
「でも、動けないにしても顔色は悪くないし、すぐ動けるようになるんじゃねえか?」
黒髪はそう言った。
確かに、いまこうして「生きている」事を認識できれば、後は自分の意志でどうにかできる。
「でも、無理はするなよ。せっかく生きてるんだ。あんまり無理して容態悪化とか、俺イヤだもん」
ニコルは言葉がストレートすぎる。
「わかってる……無理は、しない……」
「へへっ、それならいいんだ。がんばって元気になれよ。俺、力の限りサポートしてやるから」
「あんたら、いい奴らだな……」
「今頃気づいたか」
「調子に乗るな」
この二人はいいコンビだ。
……でも、何で医者が二人なんだ?普通は医者と看護士なんじゃないのか……?
「じゃあ、そろそろロナ呼んでくるよ」
「ああ、頼む」
ニコルはそう言って部屋から出ていった。
一人になった黒髪は俺のベッドの横に置いてあるイスに腰掛けた。