目覚める雅也
俺はぼんやりと目を開ける。視界に映るのは俺のことを覗きこんでいる髪の短い女の子。首に包帯が巻いてある。
「……由季……?」
俺は彼女の名前を呼んだ。
「お兄ちゃん……!」
……良かった、由季は無事だ……。
「……由季!髪の毛が!!」
俺は気づいてしまった。由季の長かった髪が短くなってる。俺はガバッと起き上がった。由季との距離が縮まる。と、同時に由季にぎゅっと抱き締められた。
「お兄ちゃん……!ごめん……!ごめんなさいっ!!」
「う、え?な、なんで?」
……由季の温もりを感じる。これは、夢じゃないんだ。……じゃなくて。
「謝らなきゃいけないのは俺の方だよ……。俺は、由季のお願い……聞いてあげられなかったんだから……」
「そんなお願い聞かなくて良かったの!私は、お兄ちゃんの気持ちも知らないで……お兄ちゃんにとって一番辛いことをやらせようとした……!」
由季は震える声で、そう言う。俺は由季の頭を撫でながら尋ねた。
「……由季、怪我は……大丈夫?」
「あ……うん!私は大丈夫だよ。たまに痛いけど、日常生活に支障ないってウィン先生もリディナ先生も言ってた」
「それなら良かった。無事で……良かった」
そういえば、俺……なんで病院で寝てるんだ?自力で帰ってきた記憶がない。
「お兄ちゃん」
「……?」
「熱あるんじゃない?」
ああ、そうか。俺……図書館で倒れたんだ。ウィン先生が迎えに来てくれて、号泣したあとに。
「あ……、ちょっとごめん由季……力入んない」
「えっ!?お兄ちゃん!?」
自覚があるとないとでは全然違った。体に力が入らない。由季に体を預けたまま、動けない。意識ははっきりしてる。でも、体が鉛のように重い。
由季に寝かしつけられて、改めて彼女の姿を見る。腰くらいまであった由季の髪は耳より少し下くらいまで短くなっていた。
「由季、どうして髪を……」
「ん?ああ……あのね、私ちゃんと17歳だよ」
「……ごめん、言ってる意味がわからない」
「これはあとでちゃんと説明するね。大きい理由のひとつは、血で髪の毛がバリバリになっちゃったからなの。だからばっさり切っちゃった」
「……よかったの?」
「うん、髪は私の意志で伸ばしてた訳じゃないし」
由季は少しまばらに切られた自分の髪を触る。……下手したら伸ばしっぱなしの俺の髪よりも短いかもしれない。
「あとはね、私は今までと違うから。髪の長かった頃の私とは違うってことを視覚的に分かって欲しかったからかな」
「……どうに?」
「私にもう兵器の力はないの。だから、腕は武器に変わらないし、チップもない」
由季のチップはもうすでに取り出されている。包帯の下には取り出したときの傷が残ってるんだろう。
「そしてね、私の精神年齢は17歳なんだよ。お兄ちゃんと同じ歳だよ」
由季はそう言って笑う。そうか、昨日までの由季は自分のことを12歳くらいだと思っていた由季だった。そう言われると、話し方に幼さはもう感じない。
「……お兄ちゃん、私にもう兵器の能力は無いから、普通の女の子になっちゃったけど……私たちを利用しようとしたあの人たちを懲らしめるための種はまいておいたからね、もう少し頑張ろうね」
「兄貴ーーー!!!」
すごい勢いで部屋の扉が開いた。俺と由季が扉の方を見るとカイがそこに立っている。
「おい!カイ!静かにしろ!!」
カイの後ろから俊貴が顔を出した。
「ユキちゃん!!髪の毛!!!どうしたんすか!!!」
カイは由季を見て真っ先に言う。
「カイくん……トシ兄も……ごめんね突然……ビックリしたでしょ?」
「ん?ああ!ガラスっすか!全然!全然平気っす!俺が腰抜かして動けなくなっちゃっただけで……」
「……由季、話がある。ちょっと来い」
俊貴はそう言って由季を連れ出した。
「兄貴!だいじょぶなんすか!?」
由季と俊貴が出ていったあと、すぐにカイは俺の顔を見る。
「うん平気。でも熱があってちょっと動けない」
「それ平気って言わないっす……」
「まあ……、頭ははっきりしてるし、本当に体が重くて動けないだけなんだよ」
「……兄貴、心労で倒れたらしいっす。……やっぱり、ユキちゃんのことですか?」
心労……そうだな、いろいろありすぎたな……。でも、たぶんまだ終わらない。
「カイは……俺たちのことどこまで聞いてる?」
「けっこういろいろ聞いたっす!兄貴やユキちゃんやトシさんのチップの話とか命を狙われてる話とか」
「……じゃあ言ってもいいか。由季にはもうチップはないから、この前みたいにどこか行っちゃうってことはもうない」
「はい、よかったっす」
「でも、今後俺たちがどうなっていくのか、鍵を握ってるのは由季と……マリアだ」
「マリアちゃんすか?あ、そういえばユキちゃん、マリアちゃん狙ってましたね」
「敵は、由季を失って力ずくでマリアを狙いに来るかもしれない」
「……兄貴、無茶はしないでほしいっす」
不意にカイが呟いた。
「……カイ?」
「……兄貴、俺は……兄貴やユキちゃんやトシさんが傷つくのは見たくないっす……この状況を何とかしようってすごく悩んで体調を崩す兄貴も見たくないっす……。なんとかできれば一番いいって言うのはわかるんです、でも、無茶はやめてほしいっす……」
カイは人知れず、俺たちが傷ついてるのを見て心を痛めていたのか……知らなかった……。
「兄貴、俺決めたことがあります」
カイは背筋を正し、じっと俺を見つめる。
「俺、兄貴たちの問題が全部片付いたら、手術しようと思います」
「えっ!?」
「俺は、兄貴たちとずっと友達でいたいです。このままじゃ一緒に遊びにいけないですもん」
「……カイ、でも……いつになるかわからないんだよ?すぐかもしれない、もしかしたらすごく先になるかもしれない……」
「そこは心配しなくて平気っす!俺の体はまだ持ちます!」
「……」
今はまだカイは元気だ。でも、入院してるのには相応の理由がある。……時間がかかれば、それだけカイの体に負担がかかる。
「……あっ、今は休んでほしいっす!俺、兄貴の情報屋になりますから!」
「カイ、ありがとう。……俺、頑張るから。もちろん、無理もしないよう努力する」
俺にとっても、カイは大切な友達だ。だから、自分達のためだけじゃない、カイのためにもこの状態を変えなければいけない。




