由季の変化
マサヤは寝ていた。腕には点滴が刺さっている。顔が少し赤いので、まだ熱はありそうだ。
「先生、お兄ちゃん具合悪そう……また出直した方がいいかな……?」
ユキちゃんは心配そうにマサヤを見ている。
「いや、ユキちゃんはここにいてほしいんだ。マサヤが目を覚ましたときにきっと安心すると思うから」
「……うん、わかったよ」
ユキちゃんは小さく頷く。たぶんあまり大きく動かすと傷が痛むんだろう。
「じゃあ、私はマサヤくんの顔見られたし、みんなのところに行ってこようかな。私からもお願い、ユキちゃんはマサヤくんと一緒にいてあげて」
マリアちゃんはそう言いながら部屋を出ていく。きっと気を使ってくれたんだろう。
マリアちゃんが出ていって少し経ったあと、俺はどうしても気になったことをユキちゃんに聞いてみた。
「ユキちゃん、本当は髪を切らなくても良かったんじゃないのか?よく洗えば落ちるし」
「……あのね先生、私ね、実は……今までと違うんだよ」
「違う?」
「うん、先生の知ってる通り、もう私には兵器の能力はないし、それにね、分かりにくいんだけど……私は17歳なの」
「……ん?」
「ね?分かりにくいでしょ?」
ユキちゃんは困ったように笑う。
「精神年齢の話。今までの私は精神年齢が12歳だった。でも、今の私の精神年齢は17歳。お兄ちゃんと同じ歳だよ」
何が違うんだろう……?確かに思春期の5年間の成長は子供から大人へと変わる大切な時期だ。それが一瞬で終わったってことか???
「まあ……言わなきゃわからないけどね」
ユキちゃんはマサヤのベッドの傍らに座り、マサヤの頭を撫でる。
その姿は確かに大人びていて、17歳なのかもしれないと、俺は思った。
「……先生、お兄ちゃん起きないね」
「そうだね。いろいろ溜め込んじゃったんだろう。もう少し寝かせといてあげて。俺、戻るけど、どうする?マサヤ、しばらく起きそうにないけど」
「私、まだここにいるよ。お兄ちゃんに謝りたいの」
「うん、わかった。俺先に戻ってるから、何かあったら呼んでね」
医局に戻ると、マリアちゃんがいた。俊貴とカイもまだここにいる。
「ウィン先生!兄貴倒れたってほんとっすか!?」
「ああ、よく知ってるな」
「さっきマリアちゃんが教えてくれたっす!」
「……すまん、俺が、アイツを……雅也を、追い詰めたのかもしれない……」
「トシタカ……」
トシタカはうつむきがちにつぶやいた。
「わかってたんだ……アイツが由季を助けるために必死でもがいてたの……でも、俺はそれを否定するようなことを言っちまった……」
「気にすることないさ。だって、お前なりに考えてマサヤに声をかけたんだろ?アイツだってわかってるよ」
「それで、兄貴は!?大丈夫なんすか!?」
カイはよっぽどマサヤのことが心配らしい。
「寝てるよ。今はユキちゃんがついてる」
「ユキちゃん、首の怪我がひどくなくて良かったっす」
「ああ、俺も安心した」
ユキちゃんは治癒力が相当高いみたいだ。
「先生、兄貴のお見舞い行ってもいいっすか?」
「もしかしたらまだ寝てるかもしれないけどな、それでも良ければ行ってこいよ」
「ハイっす!トシさんも一緒に行きましょう」
「えっ、でも俺は……」
「気にするなよ。マサヤだってお前に罪悪感あると思うし、お互いに謝ってこい」
カイは戸惑うトシタカの手を引いて、医局を出ていった。
ここには、マリアちゃんと俺の二人だけ。
マリアちゃんは俺を何度も見てはうつむき、を繰り返している。
「マリアちゃん?どうした?」
「……ねえ、ウィン先生、教えてほしい」
マリアちゃんはなにか決心したのか、俺をまっすぐ見て、訊ねた。
「私が……怪しい人や、ユキちゃんに狙われてた理由を……教えてほしい」
マリアちゃんの瞳はまっすぐ俺を見据えている。切実な様子がひしひしと伝わってくる。
……結局、俺から説明することになるのか……。
「……マリアちゃん、落ち着いて聞いてほしい。この話は本来は俺がすべきことじゃない。だから……話を聞いてショックを受けても、自暴自棄にはならないでほしい。そして……難しいかもしれないけど……誰も……恨まないでほしい……」
「恨む?私が誰かを?」
「ああ……、俺のことを恨めしく思うかもしれない。もしかしたら他の誰かかもしれない……。でも、そうはなってほしくないから……」
マリアちゃんはしばらく沈黙し、その後、頷いた。
「……うん、わかった。私、何を聞いても取り乱さない。誰も恨んだりなんかしない。……約束する」




